悪質クレームに対応する
従業員ケアの必要性と対策
弁護士
村上 元茂(弁護士法人マネジメントコンシェルジュ)
1. 悪質クレーマーの増加
平成30年8月、近年における悪質クレーマーの増加を受け、UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)が厚生労働大臣に対して、170万筆余りの署名とともに悪質クレームの抑止・撲滅に関する施策を求める要望書を提出したとの報道がありました。
同年11月、厚労省は職場のパワーハラスメントについて企業に防止措置を講じるよう法律で義務付ける方針を示しましたが、客の悪質クレームについても同省がハラスメントとして指針を策定するとの報道がなされました。悪質クレームが「顧客の要望」を超えて違法行為としてのハラスメントであるとの認識が前提となっているといえます。
UAゼンセン流通部門が実施した悪質クレーム対策アンケート調査の結果 ※1(以下、「アンケート結果」という)によると、業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇したことがある従業員の割合は70.1%、迷惑行為が増えていると感じている従業員の割合は48.4%とのことで、現場の実感として悪質クレーマーは増加していることが明らかになったといえます。
当事務所においても、企業からの難クレーム対応に関する依頼が日々増加しており、悪質クレーマーの数は年々増加しているという印象です。
※1:UAゼンセン流通部門「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査分析結果」
2. 悪質クレーム対応の難しさ
悪質クレーム対応という本稿のテーマを論じる前提として、悪質クレームを申し立てる主体である「クレーマー」の定義を明確にする必要があります。対応する対象すらはっきりしていないなかで、対応策を講じるといっても無理があるからです。
ところが、多くの企業が「顧客」と「クレーマー」との境界線・定義を従業員に対して明確にしないまま、抽象的に「お客様には真摯(しんし)・丁寧に」「クレーマーに対しては毅然(きぜん)と対応する」との指導をしているため、従業員は誰に対して「毅然と対応」してよいのかわからず、誤った初期対応をしてしまうのです。
悪質クレーマーは、このような企業内部における対応体制の不備に付け込んでくる場合が少なくありません。判断権限も能力も持たない従業員に詰め寄って不適切な発言を引き出し、執拗(しつよう)に攻め立てて延々と不当請求を繰り返すのです。このような事態に陥った場合、初期対応終了後に上長が現れて事態を挽回(ばんかい)しようとしても、そうそう簡単にクレーマーは引き下がりません。そのようにして、クレーム対応は紛糾し、従業員は疲弊していくのです。
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