「社外からの 社外への」×「セクハラ パワハラ」対応策
弁護士
岸田 鑑彦(杜若経営法律事務所)
5 裁判例
社外セクハラに直接当てはまるわけではありませんが、上記4のように様々な当事者間の法的紛争に発展するケースが実際にあります(イビケン(旧イビデン建装)ほか事件名古屋高裁平成28年7月20日判決)。
この事案は、親会社Aがあり、その子会社Bの契約社員Xが、別の子会社Cの正社員(課長)Yから受けたセクハラ行為等について、(1)セクハラ行為等を行ったYに対しては、不法行為に基づく損害賠償を、(2)Yを雇用するC社に対しては、Yの不法行為にかかる使用者責任を、(3)自らの雇用主であったBに対しては、雇用契約上の安全配慮義務違反または雇用機会均等法11条1項所定の措置義務違反を内容とする債務不履行に基づく損害賠償を、(4)親会社Aに対しては、安全配慮義務としての上記措置義務違反を内容とする債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求を、それぞれ請求しました。セクハラの加害者、被害者、およびそれを雇用する使用者だけでなく、その親会社の責任も問われた事案であり注目されました。
この事案では、XY間の交際関係が解消されたにもかかわらず、Yが、「突然別れる理由が解らない」、「明確な説明がない」等として、Xが勤務する部署に頻繁にやってきて話しかけたり、近くに居座ったり、Xの自宅を直接訪ねて大声を上げる等の付きまとい行為をしました。
裁判所は、まず、セクハラ行為を行ったYに対しては不法行為に基づく損害賠償責任を、Yを雇用していた子会社Cについては使用者としての損害賠償責任を負うとしました。
また、Xを雇用する子会社Bに対しては、「自ら雇用する労働者に対する雇用契約上の安全配慮義務を負担し、かつ、雇用機会均等法11条1項に基づき、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件に付き不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じるべき事業主としての措置義務を負担している」としたうえで、Bがセクハラ行為の申出に対して、真摯に向き合わず、何らの事実確認も行わず、事後の行為に対する予防措置を講じなかった等として安全配慮義務違反があったと認定しました。
この判決で指摘している、相談に応じ、適切に対応し、必要な措置を講ずるということは、社外セクハラ、社外パワハラについて相談を受けた使用者にも同様に求められるものといえます。
なお、同判決では、親会社Aについても、コンプライアンス相談窓口を含むコンプライアンス体制を整備して、Aグループの構内で就労するすべての者に対してコンプライアンス相談窓口を設けて対応する等していること等を指摘し、そのグループ企業に属する全従業員に対して、直接またはその各所属するグループ会社を通じてそのような対応をする義務を負担することを自ら宣明して約束したものというべきであるとし、Xに対する債務不履行に基づく損害賠償責任を負うべきものとして親会社の責任を認めました。しかし、その後の上告審では、親会社Aについては、親会社が子会社の従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことをもって、信義則上の義務違反があったとはいえないとして、親会社Aの責任を否定しています(最高裁判所第一小法廷(上告審)平成30年2月15日判決)。
このように、ハラスメント問題は、当事者や当事者を雇用する会社だけでなく、その親会社についても問題が波及する可能性があるのです。
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