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人事労務専門誌『ビジネスガイド』提携  
“若年労働力減少時代”に求められる人事賃金諸制度とは?第3回
──諸手当、賞与制度、退職金制度の改革

大津章敬/株式会社名南経営 人事労務部マネージャー

ビジネスガイド 日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務、登記などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2007年1月号の短期集中連載(全3回)「“若年労働力減少時代”の人事賃金制度改革の実務」の第3回(最終回)を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページhttp://www.horei.co.jp/ へ。

おおつ・あきのり●株式会社名南経営 人事労務部マネージャー 社会保険労務士。1993年社会保険労務士資格取得、94年早稲田大学法学部卒業、同年株式会社名南経営入社。94年に名南経営センターに入社以来、200社以上の中堅中小企業のコンサルティングを手がけている。著書に『強い会社を作る人事賃金制度改革』、『中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル』(いずれも日本法令刊)などがある。各種金融機関、各地商工会議所はじめ全国で講演活動を行っており、98年からは社会保険労務士向け人事コンサルティング講座「人事あすなろ塾」の講師も務めている。

諸手当制度の再構築

 「手当一律廃止」は望ましいのか?

近年、諸手当を廃止し、賃金を基本給に一本化する流れが強まっています。本来的に賃金は、その社員の仕事や組織への貢献に対し支給されるものですから、貢献度に対応した基本給制度が導入されたのであれば、諸手当は廃止し、すべて基本給で処遇しようとする考えが出てくるのは当然のことだと思います。特に最近は、大企業を中心に、役割に応じて基本給自体を増減させる「役割給制度」の導入が進められており、そうした企業では役職手当も廃止され、通勤手当を除く手当制度はほぼ全廃となっている例が多くなっています。

しかし、賃金管理の実務を考えれば、むやみに諸手当を廃止することは望ましいことではありません。諸手当は、各社員の状況に対し個別的に支給することが可能であるという大きなメリットがありますので、今後、賃金制度改革を実施する際にはその必要性を十分に吟味し、それぞれ支給・不支給の判断を行っていただきたいと思います。

 「動くところは手当」の考え方

ちなみに私が諸手当制度を設計する際には、原則として「動くところは手当」というキーワードでその支給の有無を考えるようにしています。「動くところ」の典型的な事例の1つに「役職」があります。「平社員を店長に昇進させた」とか、「店長をさせてみたが適性がなく、成果も上がらないので降格させた」というように、役職は組織の意思によって変動します。

例えば、これまで店長の指示を受けて担当業務を行っていた平社員が店長に昇格し、その店舗の全責任を負うようになった場合、この社員の職責は大幅に増加します。その際、処遇に何の差もなければ、社員はこの状態について不満を抱くことになるでしょう。よって、こうしたところに手当を支給することで対応を行うのです。

この場合、「役割給制度」を採用し、基本給自体を変更するということでも確かに対応できますが、社員の意識としては店長としての職責に対応する手当が明確に支給されている(給与明細書に印字されている)ということが重要であり、その他の様々な要素を含む基本給に一本化されているのは、むしろ賃金制度をわかりにくくし、その納得感を下げてしまうことがあります。また、降格や役職定年の際の運用を考えると、基本給を引き下げるという取扱いよりも役職手当を支給停止とするというほうが、問題が少ないでしょう。

 わかりやすく合理的な仕組みが必要

このように、賃金制度を設計する際には、基本的な貢献度の高さや能力など、その「人」の実力に対応する賃金の基本(原則)部分を基本給で設計し、それで見ることができない役職や職種といった「仕事」の部分もしくは家族の扶養状況や住宅の居住区分といった「生活扶助」の部分を、手当というオプションとして支給するという構成は、社員にとって、もっともわかりやすく、合理的な仕組みであるといえるのです。

家族手当に見られる新しい動き

 家族手当は本当に不要か?

賃金制度改革を行う際に、必ず大きな議論になるのが家族手当の取扱いです。そもそも賃金は、その者の仕事に対して支払われることが大原則です。どのような能力を持って、どのような仕事をして、組織に対しどのような貢献をするのか――この視点に基づき、基本給を中心とした賃金が支払われるのです。

この大原則に基づいて考えれば、家族手当のような生活関連手当を支給する必要はそもそもありません。そのため、賃金制度改革を行う際には、家族手当の取扱いをめぐって、大きく2つの考え方が対立することになります。1つは賃金の大原則に立ち返り、「仕事に関係のない家族手当を支給する必要はなく、その原資があるのであれば、社員の仕事における貢献度に基づいて再配分すべき」という考え方、そしてもう1つは、「やはり最低限の生活の扶助として家族手当は必要である」という考え方です。

これは片方の考え方が正しく、もう片方が間違っているというような問題ではなく、その企業が自社の賃金制度をどのように考えるのかという基本コンセプトの問題ですので、見直しを行う際には社内で十分な議論を行い、コンセンサスを得ることが重要です。

 家族手当をめぐる最近の傾向

なお、家族手当に関する最近の傾向は、配偶者に対する手当は廃止、もしくは縮小の方向が強まっています。男性の収入でその世帯の生計を維持し、女性はもっぱら専業主婦であるとするシングルインカムの考え方の崩壊がその背景にありますが、この流れはもはや決定的であると言っても過言ではないでしょう。

これに対し、子女に対する手当については、前述の2つの考え方に基づき、大きくその選択が分かれます。1つは「配偶者同様、子女に対する手当も必要ない」という考え方、そしてもう1つが、「この定昇廃止時代にはむしろ最低限の生活の扶助として、子女に対する手当を拡充しよう」とする考え方です。このいずれを選択すべきかは、その企業の風土や考え方によりますので、一概にどちらが良いかということを決めるべきではありませんが、私個人としては、一定の原資を確保できるのであれば、基本的に子女手当を拡充することが望ましいのではないかと考えています。

 「貢献度に応じた処遇」だけではうまくいかない

貢献度対応型の賃金制度は、その仕組み上、賃金が「上がる社員」と「伸び悩む社員」の二極化が進むという性格を持っています。そのため、多くの普通の社員は従来の累積型の賃金制度に比べ、低い水準で賃金カーブが寝てしまうことになりがちです。そのため、社員が安心して仕事に専念する環境をいかに構築するかという目的を基本として考えた場合、貢献度に応じた処遇という原則的な視点だけでは、十分にその目的が達成できないことになる危険性が指摘されます。

社員の各年代における生計費負担を考えた場合、子女の教育費が家計の大きな割合を占めていることは明らかです。よって、子女手当を支給し、少しでもその支援を行うことは、社員にとってありがたいお金の使い方になるはずです。特に賃金水準がまだ十分に高まっていない若年社員層にとっては、非常に大きな支援となります。

また、一部の先進事例を見ると、非常に負担が大きい高校・大学の教育費に対応するため、高校生および大学生の子女を持つ社員については、例えば月額2万円といった比較的高額の子女教育手当を支給する企業もあります。月額2万円と聞くと非常に高額でコスト負担が大きいと感じられるでしょうが、期間限定の手当であるため、実際にはそれほどではなく、また年齢給をはじめとした累積型賃金制度の見直しとセットで考えれば、むしろコスト負担は小さくなることさえあります。

例えば月額2万円の手当を高校・大学の7年間限定で支給した場合、その総額は子女1人につき168万円となります。これに対し、従来のように例えば毎年1,000円の年齢給を運用した場合、年齢給の支給合計は42年間でなんと約1,100万円にもなります。このように考えれば、トータルの賃金制度改革の中で、全社員一律の年齢給制度を見直し、個別の生計費負担の多寡に応じて、必要なときに重点的な給付を行う子女教育手当を導入するというのは、合理的な考え方であると同時に、コスト面から見ても十分に導入可能であることがわかります。

次世代育成を背景とした家族手当一時金化の流れ

家族手当については、支給額の見直しに止まらず、支給方法自体を改革していこうとする動きが見られています。次世代育成支援対策推進法の施行もあり、多くの企業で社員の育児に対する支援制度の創設などの対策が進められていますが、最近、毎月の家族手当支給を取りやめ、出生などのイベント時にまとめて一時金を支給する「次世代育成支援一時金制度」を導入する事例が出始めています。

例えば、図表Iのように、子女の出生時に30万円、幼稚園(保育園)・小学校・中学校・高校・大学への各進学時にそれぞれ20万円、成人式の際に10万円の育児支援金を支給するといった具合です。この金額だけを見ると高いようですが、この一時金の支給額を合計すると、その総額は140万円になります。これに対し、毎月5,000円の子女手当を22歳まで支給する場合の総額は132万円ですから、決して原資が大きく増えているわけではありません。

図表I 次世代育成支援一時金制度(例)
対象事由 一時金支給額
出生 300,000円
幼稚園・保育園入園 200,000円
小学校入学 200,000円
中学校入学 200,000円
高校入学 200,000円
成人 100,000円
大学・短大入学 200,000円
合計 1,400,000円

こうした一時金化の流れは、公的資格手当などでも見られるところですが、家族手当においては、実際に大きな支出が必要となるイベント時に集中的に原資を振り分け、社員の負担増に応えるという発想で組み立てることになります。この次世代育成支援一時金制度を実際に導入している企業でヒアリングを行ったことがありますが、社員にも概ね好評であるとのことです。今後、自社の育児関連の施策を検討される際には1つの考え方として参考としていただければと思います。

賞与制度は基本給非連動型に

 「基本給連動型」賞与制度の問題点は?

次に、賞与制度のお話をすることにしましょう。わが国には、世界的にみても珍しい全社員を対象とした「定期賞与」という制度がありますが、その支給額の算定基準は、通常、「基本給連動型」と呼ばれる方法が採用されています。要は「基本給の○ヵ月分」というお馴染みの方法ですが、この計算方式を見ると、毎回素朴な疑問が浮かんできます。

「どうして基本給と連動させるのだろう?」

みなさんはこの計算方式に疑問を感じられたことはありませんでしょうか? 多くの企業では、昔からこの方法が採用されていますから、「不思議ではない」、「むしろ常識だ」と思う方も少なくないでしょう。しかし、そもそも成果配分である賞与を、なぜ基本給と連動して決めなければならないのかと、私はいつも疑問に思います。

近年は貢献度反映型の賃金制度が増加しているとはいえ、わが国の基本給はまだまだ年功的に運用されていることがほとんどです。毎年春の定期昇給を積み上げてきた結果、多くの企業では、伸び盛りの状況にある若手課長よりも、ベテラン主任の基本給が高いということが、当たり前のように見られます。本来的な貢献度の高さが反映されていない基本給に、一定の支給月数を乗じて賞与を計算すれば、基本給の逆転が成果配分である賞与にまで影響してしまうことになります。

具体的には、以下のようなことが発生することになりますが、この状況は会社を良くするでしょうか?

若手優秀課長 250,000円×2ヵ月=500,000円
ベテラン主任 350,000円×2ヵ月=700,000円

もし私がこの若手課長であったとしたら、会社に対する幻滅を抑えることは難しいでしょう。これは私がセミナーなどでいつもお話していることですが、人事管理において一番重要なことは「やってもやらないでも同じ」もしくは「頑張った者負け」の状況を作らないことです。しかしながら、先ほどの例は、文字通り「頑張った者負け」の状態に陥っています。みなさんの会社で次の時代を担う若手人材のモチベーションを下げたくないのであれば、従来の賞与計算方式を見直し、本来あるべき状態を取り戻すことが重要です。「多くの賞与を支給すれば社員は頑張るだろう」というような馬ニンジン方式の考え方には問題がありますが、かといって差がなさ過ぎる、もしくは逆転しているという状況は、「バカらしいから頑張るのはやめよう」という、社員の後ろ向きの行動を誘起することになるため、絶対に避けなければなりません。

 貢献度に応じた「ポイント制賞与制度」

「一定の貢献度の差があるのであれば、賞与にも適切な差を設けること」――これが賞与制度を考える際の基本的な発想です。よって、制度設計を行う際には、まず「賞与の支給額に反映させるべき『貢献度の差』とは何か、『報いてやるべき成果』とは何か」ということをしっかり考えてみましょう。これは各社様々かと思いますが、社内資格等級(グレード)、役職、人事評価結果、部門業績など、賞与算定のキーとなる貢献度の要素があるはずです。これが見つかったら、賞与配分のルールを作成します。賞与は成果配分ですから、まずは配分可能な原資を設定し、それを先ほどの貢献度の要素に応じて各社員に配分していくのです。

例えば、役職と個人評価に基づいて配分するのであれば、その2つの要素によるマトリックスを作成して、賞与支給額を決定してはいかがでしょうか。この考え方をもう少し体系的にまとめた方法がポイント制賞与制度です。これは図表IIのような賞与配分のポイント表を作成し、これに賞与原資を元に算出したポイント単価を乗じて、賞与支給額を算出するという制度です。この制度を採用することにより、賞与原資をもっとも理想的なルールで配分するということが可能になります。基本給制度は法的な既得権が強く、また原資が固定化することから、短期に改定することが難しい状況にありますので、まずは賞与からあるべき配分をして、社員の貢献に対して適切な処遇を実現したいものです。

図表II ポイント制賞与制度(例)
評価 一般初級 一般上級 主任 課長 部長
S 120 150 190 260 350
A 110 135 170 230 300
B 100 120 150 200 250
C 90 105 130 170 200
D 80 90 110 140 150


退職金制度改革の方向性

 ゼロベースでの検討を

適格退職年金制度の廃止問題を契機に、多くの企業で退職金制度・企業年金制度の見直しが進められています。以下では、労働力減少時代に優良な労働力をいかに安定的に確保・育成するかという視点で、退職金制度の課題と方向性を見てみることにしましょう。

退職金制度の議論を行う際には、まずは現状を分析し、当面の支給に問題がないか、もし問題があるとすればどのように資金準備を行うのかを検討することが最初のステップとなります。2007年からの団塊の世代の大量離職を目前に控え、退職金給付原資が不足している企業では、その資金調達が大きな問題となっており、場合によっては「退職金倒産」という最悪のシナリオを想定しなければならない企業も少なくありません。これを防ぎ、安定した制度運営を行うためには、現時点での退職金要支給額や現在の社員が定年まで勤続した場合の年度ごとの定年退職金要支給額を把握し、積立不足解消のための追加拠出や制度変更などを検討することが求められています。

その上で、今後のあるべき退職金制度はどのようなものかを議論しなければなりません。この議論のスタートは「当社において退職金制度は必要であろうか? もし必要であるとすればどのような目的で支給すべきであろうか?」という地点から始めていただきたいと思います。というのも、多くの会社の退職金制度は30~40年前に設計され、そのまま抜本的な改定がなされないまま現在まで運用されていることが通常ですが、設計当時と現在の経営環境を比べれば、社会の状況も社員の平均年齢もまったく変わっているはずです。よって、退職金制度の改定を行う場合には、現在、そしてそう遠くない未来に向けて、どのような制度が必要なのかをゼロベースで考える必要があります。

 制度改定にあたってのポイント

こうした観点から、退職金制度改定の際に検討しなければならないポイントを抽出すると、以下の3点に集約することができます。

(1)退職金制度の目的は何か?
→老後の生活扶助という福利厚生面に価値を見出すのか、在職中の功労報償といった報酬制度という面に価値を見出すのか

(2)確定給付型と確定拠出型の選択は?
→支給額を明確に提示できるが運用責任を会社が負う確定給付型か、安定した制度運用をしやすい確定拠出型のいずれを選択するのか

(3)給付額に在職中の貢献度を反映させるのか?
→主任40年のA氏と部長40年のB氏の受給額は同一であるべきか、異なるべきか


以上のようなポイントについて、会社の考え方を明確にすることがまずは求められます。

このような点を検討した結果として導き出された結論であれば、それはその企業にとって最適な制度になると思われますが、現実の制度改定事例を見ると、在職中の貢献度を反映した確定拠出型の退職金制度が採用されることが多くなっています。これは、最近の能力主義・成果主義の流れを踏まえ、在職中の貢献度を給付額に反映させる制度を採用すると同時に、具体的な設計については、その拠出額のみを約束する確定拠出型の制度を採用し、会社としての運用責任を軽減しようという考え方です。具体的には、中小企業退職金共済や確定拠出年金制度を利用することが多いのですが、最近は中退共の財務面の脆弱さを懸念し、徐々に確定拠出年金制度を採用する企業が中小中堅企業においても増加しています。

 確定拠出年金制度のデメリット・メリット

もっとも、確定拠出年金制度にもいくつかの制度上の課題があります。通常、指摘を受けるのが、以下の2つの課題ではないでしょうか。

(1)社員が自己責任で資産運用するという点
(2)原則として60歳まで受給できないという点

この2点については私も非常に大きな課題であると考え、かつてはあまり確定拠出年金制度を選択することはありませんでしたが、最近は少し考え方が変わってきています。

まず、(1)の自己責任による運用という点ですが、確かに中小企業の社員のみなさんの現状を見れば、それを要求するのは難しい状況にあるのは間違いありません。しかし、社員のみなさんを取り巻く今後の経済環境を考えれば、ある程度の運用の知識を持ち、中長期的な資産運用を行っていかなければ、安定した老後を迎えることは難しくなっています。企業としても定年までの雇用と年功序列による一定水準の生涯賃金を保証できない現在においては、社員の資産作りに関する教育を行うことが、1つの社会的使命となっているのではないかと考えています。

また、(2)の60歳受給要件についても、かつては確定拠出年金制度の克服しがたい最大のデメリットであると考えていました。しかし最近は、これも考え方によってはメリットとして受け止めることもできるのではないかと考えています。

確かにこの要件があるがために、退職給付制度を確定拠出年金のみで構築した場合には、中途退職時にまったく退職金が支給されないという問題が発生します。特に、中小企業の退職金には転職時の生活費のつなぎという意味合いもありますので、このお金が支給されないことのデメリットは小さくありません。

しかし、より長期的な視点で考えれば、高齢化時代を迎え、年金不安による老後資金の確保という社会的な要請が非常に強くなっています。この視点を中心に考えれば、確定拠出年金によって60歳まで資金が拘束され、長期運用をせざるを得ないということは終局的には社員のみなさんにとって良い結果をもたらすという考え方も成り立つのではないでしょうか。

このように、社員の中長期的な資産形成という福利厚生的な意味合いを退職給付制度の中心に据えることによって、社員が老後の不安を抱えることなく、安心してその企業で働くことができる環境を実現することは、企業にとっても大きなメリットがあるのではないかと考えています。

なお、現実的には、退職給付制度のすべてを確定拠出年金制度で設計してしまうと、中途退職時の一時金がまったくなくなるということになるため、通常は一定の割合で一時金制度を採用する併用型とすることが多くなっています。

深刻なポスト不足による組織風土の低迷

以上、報酬制度の課題および方向性についてお話してきましたが、最後に組織の問題について触れておきたいと思います。

多くの企業でその事業内容が成熟し、今後、新たなポストの新設が難しい状態になっています。これにより、現在の社内ポストは団塊の世代を中心とした50代の社員で占められ、彼らが定年を迎えなければ、次の世代が管理職に昇格するのは難しい状態になっている企業が増えています。こうした深刻なポスト不足は、管理職適齢期にあるとされ、本来もっとも脂が乗っていなければならない40代の人材の閉塞感を高め、組織風土の低迷を助長してしまいます。また、仮に現在の管理職が定年退職を迎え、ポストが空いたとしても、その頃にはすでに彼らは50代。管理職就任のタイミングとしては遅く、さらにはその下の世代が迫ってくるという状況が待ち構えています。

高度経済成長期であれば、組織の拡大によるポストの増加が期待できたため、ある程度の年齢に達すれば管理職に就任するというキャリアプランを描くこともできましたが、日本経済自体の成熟化により、多くの企業ではそれが期待できない状況にあります。よって今後の組織運営においては、役職が合理的に入れ替わり、年齢や勤続年数に関わらず、最適な人材がそのポストを担うという「実力主義の人材配置」を進めることが強く要請されています。

こうした人材配置・組織運営の見直しを行わずして、報酬制度のみを改革したとすれば、「ポスト不足で管理職にはなれない。結果として賃金も頭打ちになる」という、社員にとって最悪の状況を迎えることになります。よって、貢献度対応型の報酬制度を採用する際には、その前提として「人材配置の脱年功序列」を行うことが必須となります。

まとめ

以上、「“若年労働力減少時代”の人事賃金制度改革の実務」というテーマで、ポスト成果主義時代に求められる人事賃金諸制度について、3回にわたってお話させていただきました。短期連載でしたので、説明が不十分な点も多々あったのではないかと思いますが、基本的には従来の総額人件費管理中心の議論を抜け出し、企業の継続発展のための人材の確保・育成をいかに進めていくのかという視点で、あらゆる人事管理の仕組みを再構築しなければならない時代が目の前にやって来ているということをお伝えしたつもりです。

これから本格的な人材不足の時代が到来し、人材の確保・育成の巧拙が企業の発展を左右する時代に突入していきます。企業としては、優秀な人材を惹きつけ、社員が安心してその能力を高め、実力を発揮することができる環境を用意したいものです。







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