武田薬品工業株式会社:
人事はビジネスに貢献する戦略的パートナー
タケダのHR改革に学ぶグローバルマインドセットとは(後編)[前編を読む]
武田薬品工業株式会社 グローバルHR グローバルHRBP コーポレートヘッド
藤間 美樹さん
武田薬品工業では現在、社内取締役の4割、経営会議メンバーの7割に外国人を登用しています。彼らが経営トップや各部門のヘッドに就き、組織のマジョリティーを占めるようになったことで、同社の人事改革も一気に加速しました(前編参照)。同社グローバルHR・グローバルHRBPグローバルヘッド、藤間美樹さんへのインタビューの後編では、タケダのグローバル人事の根幹をなす人材観や人事視点、とりわけ「経営に資する戦略人事のあり方」について、藤間さんご自身の志や思いも交えながらうかがいました。
- 藤間 美樹さん
- 武田薬品工業株式会社
グローバルHR グローバルHRBP コーポレートヘッド
ふじま・みき●1961年大阪生まれ。神戸大学農学部卒業。1985年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社、営業、労働組合、人事、事業企画を経験。人事部では米国駐在を含め主に海外人事を担当。2005年にバイエルメディカルに人事総務部長として入社、2007年に武田薬品工業に入社。海外人事を中心にCMC HRビジネスパートナー部長などを歴任し、現在は本社部門の戦略的人事ビジネスパートナーをグローバルに統括するグローバルHRBPコーポレートヘッドの任務に従事。M&Aは米国と欧州の海外案件を中心に10件以上経験し、米国駐在は3回、計6年となる。武田薬品工業のグローバル化の流れを日米欧の3大拠点で経験し、グローバルに通用する人材像とその育成を探求。人と組織の活性化研究会「APO研」メンバー。
グローバル人材に必須の資質はダイバーシティ&インクルージョン
ドラスティックな人と組織のグローバル化に対し、日本人スタッフからはどのような反響がありましたか。貴社は日本屈指の老舗企業であり、現場にはまだ伝統的な文化も残っていると思うのですが。
二極化していますね。日本の企業にいながらグローバルなビジネスを、しかも本社として経験できるわけですから、日本人の若い社員にとって大きいのではないでしょうか。むしろ歓迎している向きが多いと思いますよ。逆にベテランや、いまさら英語はしんどいなという人には、ちょっと厳しいかもしれません。英語が要らないポジションはもうかなり限られてきていますから。英語ができる、できない以前に、マインドセットの部分で切り替えられず、批判ばかりしている人も当初はいましたが、だんだんと少数派になってきましたね。これだけ一気に改革が加速して、組織全体にドラスティックな変化が起こると、いわゆる抵抗勢力にもなりえないわけです。
たとえばHRでいうと、外国人のヘッドに対して、日本の伝統的な人事のやり方はこうだと納得させられるなら話は別ですが、それは後戻りの議論をしているだけで何の説得力もありません。そもそも人事は何のためにあるのかといえば、経営をサポートして、ビジネスに貢献するためです。そのビジネスの“矢印”が明らかにグローバルへと向かっているのに、いまさら「昔の人事のやり方はよかった」なんて言っていて、どうするのか。会社が進むべき事業の方向を定めたのなら、人事もその方向で進んでいかなければならない。退路も、別の選択肢もないのです。
では、人事のグローバル化について、あらためてうかがいます。藤間さんがお考えになるグローバル人材像とはどのようなものですか。
これは個人的見解ですが、グローバル人材とは「世界中のいかなる国・地域の人々と、世界中のいかなる国・地域においても、安定的に成果を出し続けることのできる人材」のことです。グローバル基準の人事についても同様で、「世界中のいかなる国・地域の人々に対し、世界中のいかなる国・地域においても安定的に成果を出し続けることのできる人事」と定義づけることができます。「安定的に」というのがポイントで、アメリカでならできるとか、アジアの人々とならできるとか、あの時はとか、そういうレベルではグローバルと言えません。場所も相手も選ばず、常に成果を出す――それができて初めてグローバル人材であり、グローバル基準の人事であると言えるのではないでしょうか。
そのために必要な資質とは何でしょうか。
ダイバーシティに尽きますね。国籍がどうとか、性別がどうとかではなくて、大切なのは「考え方のダイバーシティ」です。これは海外だけでなく、日本国内や日本人同士でも言えることでしょう。というのも、タケダに入って最初に驚いたことなのですが、私の仕事の仕方について「藤間さん、それは間違っていますよ」と言われたんです。しかし私は、藤沢薬品(現・アステラス製薬)でも、バイエルでも、ずっとそのやり方を続けてきました。それは、タケダ流の考え方ややり方と違うだけで、けっして間違っているわけじゃない。“違い”と“間違い”とでは、一字増えただけで大違いです。外からきた私の目から見ると、以前のタケダの企業風土はやや保守的で、「上司の言うことに黙って従っていればいい」というような風潮も少なからずうかがえました。だから、自分たちと違う考え方ややり方は、“間違っている”ことになってしまうわけです。
グローバル化を進めていく過程で、当初は海外でも、あるいは外国人に対しても、そういうスタンスをとっていたので、なかなかうまくいきませんでした。違うというだけで間違いと断じて排除するのではなく、まずはその違いを受けとめてみるべきでしょう。受けとめたうえで新しいと思ったら、柔軟に取り入れたほうがいいし、やはりおかしいと思ったら、相手を説得して自分の思う方向に導いたほうがいい。そのあたりをいち早く察知し、いろいろな引き出しの中から相手や状況に応じたソリューションを臨機応変に使える――すなわちダイバーシティ&インクルージョンの資質こそが、グローバル人材やグローバル人事のコンピテンシーとして最も重要だと、私は考えています。