株式会社リクルートホールディングス:
働く場所を従業員自らが選ぶ「リモートワーク」
働き方の選択肢を増やすことが、
個人の能力発揮と会社の成長につながる
(前編)
株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進室 室長 林 宏昌さん
「働き方変革プロジェクト」で何を実現するのか
一人ひとりの「働き方」を多様化させ、それを基軸としたビジネスモデルへと進んでいこうと考えたわけですね。それでは、「働き方変革プロジェクト」の概要についてお聞かせいただけますか。
これからは、仕事と育児・介護を両立したり、副業に取り組んだりするなど、個人が働き方を自由に選ぶ方向に進んでいくと思います。そういった働き方を企業の成長といかに両立させていくのかが、今後の大きなテーマです。従業員の働き方を自由にすると、「さぼるのではないか」「チームワークが乱れるのではないか」などと懸念する人もいます。しかし、画一的な働き方では、優秀な人材がいなくなっていくばかりではなく、多様な価値観を持った従業員が育たず、多様なマーケットニーズにこたえられなくなっていき、企業としても競争力を失っていってしまいます。
このような背景から、リクルートでは2015年4月に「働き方変革プロジェクト」を発足。企業理念に掲げる「新しい価値の創造」を実現するには、多様な個が持つ経験の融合が必要であり、さらなる経験機会を獲得するためには、個人が自律的に柔軟な働き方を実践することが重要だと考えました。このコンセプトの下、いかに顧客価値や事業価値を高めていくか。そして、最終的には一人ひとりの多様な経験を組み合わせてイノベーションを生んでいくことに向かっていけるかが、「働き方変革プロジェクト」の重要な狙いです。従業員の福利厚生を目指したものではありません。また、事業の成長のために働き方を変えて、より従業員の働き方を画一的にするようなものでもありません。従業員側の制約をできるだけ取り払い、それをどうやって事業や企業の成長につなげていくのか。これが考え方のベースにあります。
個人の働き方を自由にすることで会社の成長につなげていくというスタイルは、大きな組織で実践していくのは難しいように思うのですが、そこをあえて突き進めていこうとしたわけですね。
リクルートでは、労働時間管理に関しては法的対応の観点も含め、厳しく取り組んでいます。また、かなり早い段階から「裁量労働制」を導入するなど、人事施策の面でも先進的な取り組みを行ってきました。このような「時間」に対する取り組みの延長上にあるのが「働く場所」に捉われない働き方の実現であり、「リモートワーク」です。
それまでは、オフィスに毎日来るのが当たり前で、オフィスの中では自分の席が決まっていました。しかし、私自身もともと営業担当で外に出ていることが多かったため、「どこにいても仕事ができる」という感覚を、かなり以前から持っていました。また、リクルートでは会議による時間的拘束も多かったので、「リモートワーク」を実現すれば、会議のあり方や仕事の進め方なども新しいスタイルにできないかと考えたのです。
では、「リモートワーク」の状況について、詳しく聞かせていただけますか。
「リモートワーク」は、育児や介護など特別な事情を持つ社員に限ったものではなく、雇用形態にかかわらず、リクルートホールディングスで働く全ての従業員が選択できる働き方として位置付けています。なぜなら、「働き方変革プロジェクト」のコンセプトは多様性(ダイバーシティ)の推進にあるからです。
実は「リモートワーク」についてリスクを懸念する声は少なくありませんでした。そこで実証実験を行い、メリットやデメリットを明らかにする必要がありました。実証実験では、まず「オフィスに来るのは週2日まで」ということにしました。仮に、週に1~2日「リモートワーク」を取り入れるのであれば、会議の日などを調整すれば、実証実験をするまでもなく可能だからです。いつでもどこでも働けるような風土を確立するには、週3日~4日出社しないことは、譲れない条件でした。
このような思いに至ったのには、従来からある「在宅勤務制度」の利用者からの声がきっかけでした。育児中の女性社員の利用が多かったのですが、「非常に使いにくい」という反応が大多数だったのです。「会議がある時に自分一人のためにテレビ会議をセッティングしてもらったり、途中でネットワークが切れて会議が中断したりするなど、皆に迷惑をかけることになる」などの声が聞かれました。「自分の育児を理由にしてまで、皆に迷惑をかけたくない」という思いが強かったわけです。
会議を行う時、オフィスにいる側が少数派にならなければ、主導権は依然としてオフィス側になるのは明らかです。とにかくオフィス側を少数派にしなくては意味がないので、週の大半は職場ではない場所で働くことをルールとし、実証実験を行うことにしました。
実証実験を行うに当たっては、「実際にやってみて、何がだめだったのか」「リスクになったことは何か」などを忌憚(きたん)なく話してもらいました。やりもしないで不安を言うことや、机上の空論を述べることには、全く意味がないからです。「これはあくまで実証実験です。クリティカルな問題や乗り越えられない課題が出てきた場合は止めましょう」「ダメなものはできないと言ってください」と伝え、反対派の人たちにも実証実験に参加してもらいました。