「共振の経営」を実現する「共振人材」は
いかに生まれるのか
社員の自律的行動を促す“ユニ・チャーム流”人材育成術(後編)[前編を読む]
ユニ・チャーム株式会社 グローバル人事総務本部 キャリア開発グループ シニアマネージャー
中島 康徳さん
次世代リーダーを育成する、社長の「カバン持ち」
30歳から35歳の社員が2ヵ月交代で「戦略担当秘書」という肩書で高原社長のいわゆる「カバン持ち」を担当しているそうですが、どのような目的をもとに実施され、具体的にはどういった効果があったのでしょうか。
高原社長には「教育の力とは、感化の力である」という思いがあります。人による「感化」を考えたとき、一番色濃いのはまず「両親」でしょう。学生時代は尊敬できる「恩師」や影響を受けた「先輩」、会社に入ってからは「職場の上司」に感化されるケースが多いのではないでしょうか。つまり、「感化」させる主体は「人」なのです。それに比べると、座学や研修によって人が成長するウェートはそんなに高いとは思いません。結局、日々の仕事や実務を通じ、どんな環境でどのような仕事をするのかによって、人の成長は決まってくるのです。
そのやり方としての“頂点”が「経営者のカバン持ち」なのです。実は対象となるのは、30歳から35歳の「ジュニアボード制度」のメンバー。将来のユニ・チャームの幹部社員を嘱望されている若手メンバーを、早いタイミングで社長のそばに置き、経済団体での会合や他の経営者との話し合いの場にも同席させます。経営者とは、どういう人と会い、どんな話をし、どのように決断を下すのかを“肌感覚”で感じてもらうためです。同じような年代ではなかなか遭遇することのない経験を通じて、多くのことを学んで欲しいと考えています。
昨年度までに合計13人が「カバン持ち」を経験していますが、始める前は誰もが「どうやればいいのだろう」と戦々恐々としていました。しかし、実際に「カバン持ち」を始めると、そんなことを言っている暇はありません。高原社長は分刻みで時間に追われていますから、「カバン持ち」も当然、ハードワークになります。何より、仕事の質・量が半端ではありません。さらに、毎日その日に起こったことをレポートにして提出しなくてはならない、というルールがあります。これが毎日、2ヵ月も続くのですから、かなりきつい日々です。
しかし、経験者は誰もが「視野や視座が大きく広がった」「達成感を味わった」などと、前向きの感想を述べています。さらに周囲の人たちも、「カバン持ち」をする前と後とでは、「顔つきが変わった」「コメント(意見内容)が変わった」「自らコミットするようになった」と、その変貌ぶりを高く評価しています。
2ヵ月とはいえ、経営トップと四六時中一緒にいる機会は、なかなか経験できるものではありません。言うまでもなく、経営者と一般社員では「見聞きする世界」が違います。その世界で“伴走”することのできた自分を、自分なりに誇らしく思うことでしょう。事実、リーダー候補としての力量も確実に身に付いています。社長の「カバン持ち」は、ユニ・チャームの「ジュニアボード制度」としての、まさにキラーコンテンツとなっています。