「共振の経営」を実現する「共振人材」は
いかに生まれるのか
社員の自律的行動を促す“ユニ・チャーム流”人材育成術(前編)
ユニ・チャーム株式会社 グローバル人事総務本部 キャリア開発グループ シニアマネージャー
中島 康徳さん
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「共振の経営」を実現する「共振人材」の要件
貴社では、「共振の経営」を実現する人材を「共振人材」と呼んでいるそうですね。具体的には、どのような要件が求められるのでしょう。
「共振の人材」はユニ・チャームで掲げた理想的な人材像です。具体的には、次の六つの要件を社内に示していますが、これらはユニ・チャームに限らず、多くの企業で必要とされる要件と言えるでしょう。現実的には、この六つの要件を完璧に満たしている人は少ないわけですが、会社としてこのような人を目指していこうという「目標」として掲げることに、大きな意味があると考えています。
【共振人材の6要件】
- 皆が奪い立つ共通の的(まと)を創る創造力=大局観
- 現場の知恵を経営に活かそうとする“場”を、組織や固定観念に囚われずタイムリーに設定できるコミュニケーション力=傾聴力・提案力
- ありのままの一次情報を早く正しく認識できる直感力=現場感
- 暗黙知の“勝ちパターン”を、形式知の“勝ちパターン”へ“見える化”できる実践力=論理性
- みずからの意志やアイデアを集団で実行に導く胆力=求心力・共感性
- “勝ちパターン”を“型”として組織に浸透定着させる徹底力=しつこさ・真面目さ
「創造力」の発揮に一番必要なのは「大局観」です。組織に活力をもたらすには、皆が奪い立つような共通の“的”を創る創造力が必要であり、そのためには「大局観」に立って、周囲の人たちを巻き込むことに努めなくてはなりません。続く「コミュニケーション力」の一番需要な要素は、人の話をしっかり聴く「傾聴力」や、その場その場で適切なアクションを起こす「提案力」です。また、「直観力」は「現場感」が大きな要素となります。そのためには、ありのままの一次情報を入手することが重要です。そして「実践力」には、「論理性」が伴わなくてはなりません。暗黙知を形式知にするためには、因数分解を行って、定性的なものをできるだけ定量的に表現する努力が求められるのです。「胆力」とは、肝の太さや器の大きさで、「共感性」「求心力」と言うべきものです。最後の「徹底力」は、「しつこさ」や「真面目さ」が重要な要素となります。そのためにも、勝ちパターンとなる行動が習慣化するまで、徹底的に教え込まなければいけません。
このような六つの要件を持つ人材になるための行動特性として、「主体性が強い」「人脈づくりがうまい」「腰が軽い」が挙げられます。熟考することも大事ですが、「まず、やってみよう」といち早く行動を起こすこと、スピードやフットワークの良さが重要な要件となります。
また、その前提として、ユニ・チャームでは昔から言われていることですが、「No.1志向」であることが重要です。「他の人よりも、自分が一番になりたい」「やるからには、絶対に人に喜んでもらいたい」「常に役に立ちたいと思う気持ちを持っている」。No.1になるために負けん気を持っている人が、まさにユニ・チャームが求める人材です。このようなマインドを持つ人たちには、ユニ・チャームで仕事をしていく中で徐々に「共振人材」の六つの要件を発揮し、中核となる人材へと育っていってほしいと考えています。
人・組織という点で、ユニ・チャームの特色や強みとは何でしょうか。また逆に、どのような課題があるとお考えですか。
ユニ・チャームには、「尽くし続けてこそNo.1」「変化価値論」「原因自分論」という「三つのDNA」があります。年齢や性別、職種、国籍を問わず、全世界の社員一人ひとりが持つ、企業活動の根幹を支える共通の価値観です。徹底して尽くすことによって、前人未踏の満足を創造できるNo.1へと登り詰められるのです。柔軟にそして早く自らを変化させる人材こそが成長し、結果を出すことができます。また、どんな結果も周囲の人や環境のせいにせず、原因を自分に求めることによって、人は失敗から学び、成長することができます。このような考え方が創業以来ずっと目標として掲げられていて、普遍的な価値観として組織にしっかりと根付いています。
そうした中で近年、ユニ・チャームの置かれた経営環境が変わり、経営者が変わったことによって、先ほども申し上げたように創業者の「トップダウン型経営」から、「共振の経営」へと経営スタイルを変えることが、大きな課題として上がってきたわけです。
バブル経済が崩壊した1990年代以降、日本企業では自律型人材が求められるようになりました。上から言われたことを忠実に行う「野球型スタイル」から、一人ひとりがその場で判断し行動する「サッカー型スタイル」への転換です。ユニ・チャームは人・組織としての強みである「三つのDNA」を大切にしながら、まさにそうした変革を高原社長自らがビジョンとして掲げ、実践していったように感じます。
世の中のニーズやユニ・チャームの業態・規模などの変化を考えると、まさに新しい時代に入ったからです。黎明期から成長期、成熟期を経て、これからいかにして100年続く企業となるか。これが2代目社長にとって、最も問題意識の高いテーマだったのだと思います。それを実現していくために、「共振の経営」という経営スタイルを組織の隅々まで徹底していくことが不可欠で、また人事としても大きな課題だったわけです。
ユニ・チャームの「強み」に関して付け加えると、「現状に甘んじないこと」が日ごろから言われており、また、皆がそれを体現してきました。これは、先ほどの「三つのDNA」で述べた「変化価値論」の根底にあるものです。「昨日よりも今日、今日よりも明日」「朝令暮改もいとわない」「現状維持や停滞、そのこと自体が罪である」といったように、ユニ・チャームでは常に変化することに大きな価値を置いています。そして、それに何とか応えようとする社員がいます。とにかく「現状に甘んじないこと」に対して、皆が一所懸命なのです。また採用の段階でも、このような志向を持った人を重視して採用しているので、ユニ・チャームで仕事をしていく中で、必然的に「変化価値論」を体現する人材が育っていくことになります。こうした人材としての「土台」があったからこそ、高原社長は「共振の経営」を実現する自信を持つことができたと思います。