コストコ ホールセール ジャパン株式会社:
正社員とパートタイムを同じ「時給制」の下で処遇
「社内公募制度」でキャリアアップを図り、
管理職の早期育成を実現(後編)[前編を読む]
コストコ ホールセール ジャパン株式会社 人事・総務 マーケティング 部長
中川 裕子さん
コストコでは同じ「時給制」で正社員、パートタイム・アルバイトを処遇し、「社内公募制度」を活用して従業員のキャリアアップを図っています。人を頻繁に「異動」させ、さまざまな“経験値”を積ませることで、一人ひとりの成長を促し、管理職の早期育成を実現させようとしているのです。また、そのことがコストコの急成長の源泉にもなっています(前編参照)。後編では、コストコの人材育成面に関する取り組みについて、具体的なお話を伺いました。
- 中川 裕子さん
- コストコ ホールセール ジャパン株式会社 人事・総務 マーケティング 部長
なかがわ・ゆうこ●大学在学中にCalifornia State University Fullerton校での1年間の交換留学を経験し、1993年南山大学英語学英語学科卒業後、語学力を活かせる日本企業に就職し、人事業務を担当する。97年渡米、アメリカ企業で人事・コンサルティング業務を5年間経験した後、帰国。2004年出産・子育てが一段落した後、コストコホールセールジャパンに入社。人事・総務マネジャーを経て、人事・総務・マーケティング部長に就任、現在に至る。
キャリアアップを実現するために、自ら「異動願」を出す風土が定着している
従業員のキャリア開発に対する考え方についてお聞かせください。
基本的に人材育成とは、「社内公募制度」を使って社内のいろいろな部署を経験してもらい、管理職になってもらうことだと考えています。前編でも申し上げましたが、会社自体が成長しているので、ポジションが多く用意されています。そのため、採用した人全員を管理職候補と考えて育成しているのです。
従業員も、自分がキャリアアップするには「社内公募制度」によって「異動」するのが早道であることをよく理解しています。そのため、自ら望んで「異動願」を出します。社内公募に関する情報は常に店内やイントラネットに掲示されていますが、「異動したい」とすぐに手が上がります。なお、ある一定の管理職以上でないと、異動命令は出さないことになっていますので、人事部から異動命令を出すこともほとんどありません。
人材を確保するために「地域限定社員」などの仕組みを用意するのとは、そもそもの発想が違いますね。
「地域限定社員」という制度を作らなくても、自分の希望に合った仕事スタイルが可能になる制度があるからです。例えば300人を必要とする新規出店のときも、第一に優先するのは新規採用ではなく、社内公募による社内からの「異動」です。この異動時に、管理職に上がることの確率が高くなりますから、異動に対するモチベーションは非常に高くなります。その中でふるいにかけて一定数が決まった後、社外に採用広告を出しています。
異動希望の高い人材を、意識して採用しているのですか。
最初に、コストコにおけるキャリア開発に対する考え方や制度をきちんと説明しますので、その点に共感して応募してくる人は、当然多いと思います。実際、入社して周囲を見渡しても、そのようなキャリアアップを考えている人たちばかりですから、自ずと異動に対するモチベーションは高くなります。経営陣をはじめ、幾度となく異動を経験してキャリアアップを実現した「ロールモデル」もたくさん社内にいます。それは、女性も例外ではありません。コストコの場合、異動してキャリアアップしている女性が大勢いるので、必然的にキャリアアップを考える女性が多くなっています。
「社内公募制度」では、新規出店だけでなく、仕事内容を変えたいという希望もあるのでしょうか。
はい。仕事内容はもちろん、働く地域を変えたいという希望も少なくありません。というのもコストコでは、異動していろいろな地域や仕事を経験したことが、管理職登用に際しての大きな評価ポイントになるからです。言うまでもなく、“経験値”豊かな人が管理職にはふさわしいと思います。事実、副倉庫店長、倉庫店長などの“要職”を担ってもらう場合、非常に大きな倉庫店の切り盛りをするわけですから、常日頃からいろいろなところに目を配る必要があります。数多く存在する各部署の仕事もよく知っていなければなりません。また、多角的に経営のことを理解していないと務まりません。その意味からも、より多くの部署を経験してもらった人材の登用が不可欠となります。
中川さんも人事・総務部門だけでなく、マーケティング部門の責任者を兼任されていますね。
人事・総務とマーケティングという、一見、畑違いの仕事を兼務していますが、このようなケースはイギリスや台湾など、他国のコストコでもみられます。ただ私はずっと人事畑の人間でしたので、マーケティングの仕事をやってもらえないかと言われた時には、大いに迷いました。しかし、いざやってみるとマーケティングという違った側面から、経営に携わることができ、人事・総務の仕事に対して良い影響を与えてくれるので、とてもよかったと思います。またそれは、マーケティングに関しても同様で、両分野で学んだ経験が、相乗効果を生み出しています。