コストコ ホールセール ジャパン株式会社:
正社員とパートタイムを同じ「時給制」の下で処遇
「社内公募制度」でキャリアアップを図り、
管理職の早期育成を実現(前編)
コストコ ホールセール ジャパン株式会社 人事・総務 マーケティング 部長
中川 裕子さん
国内で多くの小売業が苦戦を強いられる中、コストコ日本法人は1998年の創立から18年間で従業員数8500人、全国に25倉庫店を有するまで急成長しました。同社は「会員制倉庫店」という独自の戦略の下、幅広い商品の品揃えと圧倒的な低価格によって、会員数を飛躍的に伸ばしています。そんなコストコの日本市場における成功を支えているのが、「時給制」「社内公募制度」などの人事制度。「時給制」はパートタイムやアルバイトだけではなく、正社員にも適用されており、勤務した時間に応じて昇給していきます。ただし上限があるため、それ以上にキャリアアップを図るには「社内公募制度」を活用し、自ら手を挙げて管理職への道を切り開いていかなければなりません。このような、他にあまり例を見ないユニークな人材マネジメントには、どのような狙いがあるのでしょうか。人事・総務とマーケティングの責任者を務める中川裕子さんに、詳しいお話を伺いました。
- 中川 裕子さん
- コストコ ホールセール ジャパン株式会社 人事・総務 マーケティング 部長
なかがわ・ゆうこ●大学在学中にCalifornia State University Fullerton校での1年間の交換留学を経験し、1993年南山大学英語学英語学科卒業後、語学力を活かせる日本企業に就職し、人事業務を担当する。97年渡米、アメリカ企業で人事・コンサルティング業務を5年間経験した後、帰国。2004年出産・子育てが一段落した後、コストコホールセールジャパンに入社。人事・総務マネジャーを経て、人事・総務・マーケティング部長に就任、現在に至る。
同じ「時給制」を適用し、賃金面で同等の「時間比例」を保証する
最初に、コストコの日本法人の現状についてお聞かせください。
コストコは、「会員制倉庫店」を特徴としたアメリカ発祥の外資系企業(小売業)です。創業は1976年で、日本には1998年に進出しました。1999年に日本の第一号店である、久山倉庫店(福岡県)をオープン。現在、全国各地に25倉庫店を有し、その他に物流センターが2ヵ所あります。
コストコの企業理念は「会員の皆さまに、高品質の商品とサービスできる限りの低価格で提供し続ける」と、非常にシンプルです。これを実践するために、「倫理綱領」として「法律の遵守」「会員に対する心遣い」「従業員に対する心遣い」「納入業者に対する敬意」「株主に対して報酬をもたらす」の5原則を定めています。何か問題があったら常にここに立ち返って対応します。
現在、日本法人の従業員数はパートタイム・アルバイトを含めて、約8500人。「管理職(エグゼンプト)」と「非管理職(ノン・エグゼンプト)」の二つに大きく分かれます。これは、アメリカ企業では一般的な概念で、アメリカ本社の制度にならってこのように区分しています。管理職には「年俸制」、非管理職は「時給制」が適用されます。非管理職は「正社員(週40時間勤務)」のほか、「パートタイム(週20~30時間勤務)」「アルバイト(週20時間未満勤務)」からなり、「時給制」で働いています。それぞれの拘束時間は異なりますが、1250円もしくは1300円からスタート、1000時間ごとに昇給して、最高で1650円もしくは1800円まで昇給するといったように、同じ「時給表(テーブル)」が適用されます。また、短時間勤務のアルバイトに関しては、基本的に学生しか雇っていません。
欧米で「パートタイム」と言えば、通常の労働者よりも労働時間の短い人のことです。日本のように、必ずしも非正規労働者を指すわけではありません。コストコでは正社員とパートタイムで同じ「時給表」を用いていて、労働時間の長短では区別していません。賃金面では、同等の「時間比例」を保証しているのです。「時給制」は労務管理の面で優れているので、サービス残業などの問題も起こることはありません。
パートタイムやアルバイトの場合、日本では有期雇用が一般的ですが、コストコでは基本的に無期雇用で採用します。いったん採用したら、いつまで勤務するという期間を定めた契約は行いません。唯一、有期雇用としている雇用区分が季節従業員。繁忙期、もしくは新規出店の際にだけ雇用するもので、最長2ヵ月までとなっています。
非管理職の正社員とパートタイム・アルバイトは時給ベースでは同じですが、拘束時間や責任の持たせ方、職務の内容が異なります。そのため、賞与や福利厚生面などで待遇に差を持たせています。よく誤解されるのですが、このようにコストコは、決して「同一労働同一賃金」ではないのです。
いま日本で問題となっているのは、週40時間働かせているパートタイムがいることだと思います。まさに正社員と同様に働いており、場合によっては現場に正社員がいない、という状況も少なくありません。パートタイムの方たちだけで実質的に管理を行い、正社員と変わらない仕事をしているのです。それにもかかわらず、有期雇用のために賃金形態や福利厚生が異なり、雇用が保障されていない。それは明らかに不公平です。しかしコストコでは、パートタイムは正社員と比べて労働時間が4分の3程度までの勤務と決まっています。無期雇用で社会保険に加入するなど、この問題のケースとは異なります。
採用するにあたり、正社員、パートタイム・アルバイトではどのような点にポイントを置いていますか。
まず管理職の場合、相応の経験がなければ中途で採用することはありません。ただ、新規出店する際は300人程度の採用を行う必要があるので、一定数を確保するため、“経験値”を深く追求するのではなく、“将来性”に掛けて採用することもあります。いずれにせよ、基本的に正社員は次世代の管理職候補生として経験者を採用しており、そこがパートタイム・アルバイトとの大きな違いです。経験者ではないけれど意欲のある人は、まずパートタイムとして採用します。入社後、現場で経験を積んでもらい、適性を見極めた上で、「社内公募制度」によって、正社員、管理職へ登用していくという流れです。