カゴメ株式会社:
100年企業の人事を大改革! 世界市場で勝つための「グローバル人事制度」とは(後編)[前編を読む]
カゴメ株式会社 執行役員 経営企画本部人事部長
有沢 正人さん
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グローバル展開では意識の改革も不可欠
仕組みがある程度できた現在、ポイントは運用するための意識改革ということになるのでしょうか。
先ほど申し上げたようにカゴメは素晴らしい会社ですが、保守的な面もあるため、変わることに対して目に見えない抵抗があります。そのため、まず「ロジック」で説得します。そして、変わることで将来どんな良いことがあるかをビジョンとして示します。そうすることで、風向きが大きく変わるからです。例えば新しい評価制度では、頑張れば給料は上がるけれども、頑張らないと上がりません。しかし、そもそも会社の中で頑張らないというのはおかしい。また結果がダメだったとしても、頑張ったプロセスをきちんと評価する制度も導入しました。
要は、考え方の基本に「フェア」を置いたのです。一方、今までのカゴメは、どちらかと言うと「平等」に重きがあったと思います。私は、平等とフェアは違うと考えています。今まで平等にやってきた結果、いろいろな面において差が付かない状況となっていました。健全な企業では、健全な差が付くのは当然のことです。皆に言っているのは、健全な差をいかに付けていくかを考えよう、ということです。“Pay for Performance, Pay for Job, Pay for Differentiation”すなわち、「成果に払う、仕事に払う、差に払う」の三つを合言葉にしています。成果や仕事が違うのであれば、差が付くのは当たり前のこと。こうした意識改革を進めていくことが大事だと思います。
このような数々の変革を、3年弱で断行されたわけですね。
改革を進めるには、スピードが大事です。必要以上に時間をかけても仕方がありません。私の場合、とにかく頭で考えると同時に、足で稼ぐことを実践しました。その際、人とはフェース・トゥ・フェースで、直接会って話をします。そのため海外のCEOとも、年に3~4回は必ず会っています。「また来たのか」と煙たがられることもありますが、これぐらいが丁度いいと考えています。「日本本社の人事役員は、海外の子会社によく来る。我々の事を非常に気にかけている」と思ってほしいからです。また、私からCEOには「覚悟を持ってやってください」と必ず伝えています。このようなことをスピード感を持って行ってきたことで、相手の対応や考え方も随分と変わりました。
今後は、どのようなことに取り組まれるご予定ですか。
これから海外の売上比率をさらに増やすためには、海外企業のM&Aをもっと行うことも必要になります。現在のように日本1600人、海外600人という規模でしたら大丈夫ですが、たとえば倍の規模となったとしたら、果たして現在の仕組みでいけるのかどうかという懸念があります。
今後、グローバルカンパニーになるためには“産みの苦しみ”があると思います。規模が拡大した段階では、単に仕組みだけでは解決できません。そこでは、仕組みに“魂”を入れることが重要になります。軸足を仕組みの構築から、意識改革の方にもっていくことになるでしょう。これは女性活用の問題もそうですし、いかに次のビジョンを見せて理解してもらい、頑張ってもらえるかどうかということでも同様です。このような意識改革が、これからの大きな課題だと思います。ただ、カゴメが持っているポテンシャルから考えれば、私は十分にできると思っています。
今までやってこなかったことが問題だったわけですね。
現在は、カゴメが持っている本来の力をまだ十分に発揮できていないと思います。人間の脳と同じで、まだ使っていない部分がたくさんある。今後、その倍くらい活用すれば、カゴメは世界でも有数のグローバルカンパニーになる可能性を持っています。カゴメにはモノづくりの技術、品質・安全第一の組織体制といった、メーカーとしての“強み”が組織の隅々にまで浸透しているからです。カゴメの社員は優秀で、ポテンシャルが非常に高い。そして、お客様に対して正直で誠実です。仕組みさえ用意すれば、カゴメの人たちは次のステージに向けて、大きく変わることができます。そのためにも、チャンスを与えていくことがとても重要で、例えば若手社員はどんどん海外に行かせたいと思っています。
つまりこれからは「日本のカゴメ」から「世界のカゴメ」になることが目標です。そのためにも私のようなグローバルでの経験を持って外部から来た人間が、カゴメの人たちが持っている力をうまく引き出すことができればいいと思っています。また、プロパー社員をどうやって育てていくかも、私の重要な使命だと思っています。仕組みはもちろん、いろいろと“刺激”を与えることで、プロパー社員の人たちが自己成長や自己実現感を感じ、カゴメに入って本当に良かったと思えるようになればいいですね。
そういう意味でも、これからは「人事プロフェッショナル」が必要となってくると思います。有沢さんの人事に対する「思い」についてお聞かせください。
人事の方には、これまでの「常識」を疑ってほしいと思っています。仕組みを作ることは誰にでもできます。たとえば、階層別研修やキャリアパスの仕組みを作ること自体を、否定するわけではありません。問題は、それが本人のために本当に役に立っているのかどうか。そして、会社の経営戦略と合致しているかどうか。逆に言えば、人事の自己満足となってはいないか、ということです。大企業であればあるほど、そういう傾向を強く感じます。一方、成長著しいIT企業などでは、仕組みに縛られることなく、非常にフレキシブルに対応しています。やりたい人がやりたい時にやり、それを人事がサポートするという考え方をしています。こういう自律的・自発的な学びのあり方が、これから主流となっていくように思います。
その点からも、何度も申し上げますが人事は覚悟を決めることです。人事は経営の一貫であるという認識を持てない人は、人事を担当しないほうがいいでしょう。それと同時に、これまで人事の常識としてあったものを、疑ってかかることが大切です。
例えば、60歳定年で65歳まで雇用を延長するという仕組みがありますが、果たして本当にこの仕組みで高齢者の方の活用ができるのか。また、60~65歳の方をシルバー世代と呼んでいますが、この年代の方々はまだまだ十分「現役」の方が多いと思います。そのようなことも含めて、従業員視点、会社経営視点の下、人事全体が変わっていくことが必要だと思います。
最後に、有沢さんの今後の展望をお聞かせください。
これまでの3年間近くで、カゴメの人事でやるべきことは、ある程度のスピード感を持ってできたように思います。今後は、LIXILグループの執行役副社長・八木洋介さんのように、経営者の視点を持った人事、人事を頭に置いた経営、言わば「人事経営」をさらに進めていきたいと思っています。
「人事プロフェッショナル」としての有沢さんのお考えと、カゴメで行おうとしている改革の目的がよく分かりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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