求めるのは「打率」か「ホームラン」か 企業によって異なる人材紹介会社への期待
採用担当者は何を重視する? 「信頼関係」を築くために必要なこと
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「ホームラン級の人材」から生まれた厚い信頼
「Eさんは元気に頑張っていますよ。ちょうどシンガポールに出張中なので、今日はいないのですが」
A社のオフィスを訪問するたびに、数年前に入社したEさんの話題になる。人材紹介会社としては非常に嬉しいことだ。しかし、数年経った今もこの話が出てくることからわかるように、Eさん以降に入社した人材はいない。それどころか候補者を出すことすら稀な状況だ。
「なかなかご紹介できなくて、申し訳ありません」
外資系企業のA社は、世界的に大規模な事業展開を行っているが日本法人は少数精鋭だ。そのためイギリス人の社長自身が採用も担当している。私がおわびするといつも笑顔でこう応えてくれる。
「弊社が求める条件がとても難しいのはわかっています。日本にはなかなかいないでしょう。ですから日本人以外でもいいですよ。ぜひまた、Eさんのような人を紹介してください」
そう言ってもらえるほどEさんは「ホームラン級」の人材だった。J社の主力製品である重電機器のセールスエンジニアであり、アメリカ育ちで完全なバイリンガルだった。英語での面接が終わった後、A社の社長が「Eさんの日本語はどうですか? 訛っていませんか?」と私に確認したほどだった。Eさんの話す英語があまりにも自然だったので、日本語の方が不得意なのではないかと心配したのだ。もちろんEさんは日本語も完璧だった。
EさんはA社の面接を受けた時には、すでにライバル社からオファーをもらっていた。ライバル社もまた世界的な大企業であり、提示された年俸は20代にもかかわらず、日本の大手企業の部長クラスと同じ金額だった。A社が用意できる年俸もほぼ同程度であり、逆転は難しいかと思われたが、将来は海外の本社に勤務できる可能性があるという話が決め手となって、A社はEさんの採用に成功した。
「入社後のEさんは、本当に世界中を飛び回ってくれていますよ」
Eさんにとっては希望した仕事なのだろう。そして、期待通りの活躍を見せていることで、A社の私への信頼は数年が経過した今でも厚いのだった。
正直にいえば、A社にEさんを紹介できたことは運が良かったと思っている。人材との出会いは本当に偶然なものだからだ。しかし、コンスタントに紹介できない人材会社でも、時にはそんなホームランが打てることをEさんの事例は証明しているのではないだろうか。
公募ではなかなか採用できない人材と出会えるのが紹介の大きな魅力。一発ホームランに賭けるような紹介会社とのつきあい方もまた、企業にとっては「あり」ではないかと私は思っている。
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