「残業手当」100%支給にこだわる求職者
年収や企業規模よりも「働きやすさ」を重視 残業の常態化は避けたいエンジニアの転職サポート
裁量の範囲が大きいオフィスワーカーや開発職、あるいは事業所外勤務が中心の営業などで、「みなし労働時間制」を導入している企業は多い。働く側も「要領が悪くて残業が多い人の方が給料が増えるのはおかしい」と考えるのが一般的だから、この制度が広く受け入れられるようになったともいえる。ところが最近、残業手当の有無や支給状況を気にする人が現れてきた。勤務時間が長くなりがちなIT業界、特にエンジニアなどにその傾向が目立つという。
探しているのはサービス残業のない会社
「詳しく教えて欲しいのは『残業手当』のことです。制度はきちんとしているのか、実際に残業した時間に応じて全額支払われているのか、といったことを知りたいんです」
この日、転職相談に来たTさんはIT業界でキャリアのあるエンジニアだ。募集案件の多いモバイル関連のプロジェクトも手がけていたというから、わざわざ人材紹介を利用しなくても転職先企業がいくらでも見つかる、いわゆる「売り手市場」の人材だといえる。モバイル関連の有名企業の中には、自社の採用ホームページからエントリーして入社することになれば、特別に「200万円」もの入社支度金を支給するとしているところもあるほどだ。
「たしかに残業手当のことは、企業には聞きにくいものですよね。私どものような人材紹介会社を通して、そういった情報を得るのは、とてもうまい方法だと思います。できるだけ詳しい情報をご提供します」
私はそう答えながら、一つの疑問を投げかけてみた。
「ところでTさんが残業手当を気にされるのには、何か理由があるのでしょうか。IT業界の開発職の場合、残業手当も含めた『みなし労働時間制』でかなり高額な年収を提示している企業も多いと思いますが、それではいけないということですか?」
Tさんは、「まさにそこなのです」という表情で答えてくれた。
「私は次で3社目になります。年齢的に30代ということもあって、定年までとはいかなくても、できるだけ長く勤められる会社を探したいと思っています。そこで、年収なのか、企業規模なのかなど、いろいろと考えた結果、残業が常態化していない会社、無理なく働ける会社がいちばんいいということに気づきました」
つまり「働きやすさ」を重視しているということだ。たしかに若い頃はがむしゃらに働けても、年齢を重ねると身体や気持ちがついていかないことも増えてくる。疲れきったり、病気になったりしては、当然良い仕事はできない。
「みなし労働時間制で残業手当がないと、どうしても勤務時間が長くなります。実は、今の会社がそうなんです。知人の話を聞くと、制度があってもサービス残業が増えるだけということもあるようです。ですから、残業手当を100%支払うことで残業時間を抑制しようとしている、そんな考え方の企業に、直接話を聞いてみたいのです」
「わかりました。ご期待に沿えるように頑張って案件を探してみます」
こうしてTさんと私の「100%残業手当支給企業」探しが始まったのだった。