転職相談もチャットでこなす時代
コミュニケーションを重ねても人柄が見えにくい?
長く人材紹介の良さは「人が介在する」ことだとされてきた。キャリアアドバイザーがいることで、求職者の人柄や仕事に対する考え方といったソフト面も考慮しながら推薦できる。しかし、時代の移り変わりとともに、アドバイザーと求職者のコミュニケーションの取り方も変化しつつある。対面による相談が急減し、チャットのような文字だけのやりとりを希望する人も増えてきた。そのため、人柄や価値観などをつかむのも難しくなってきている。
文面が「怖い」と感じてしまう人
「オンライン転職相談はぜひ受けたいのですが、在職中のため時間が取れません。できればメールで相談に乗っていただけないでしょうか」
人材紹介会社では、求職者に直接会うことで、人柄や価値観まで考慮した求人を推薦してきた。そのために重要だったのが、転職の目的や希望を1時間程度かけてじっくり話し合う「転職相談」だ。
しかし現在は、対面での相談が難しくなっている。理由は当然コロナ禍だ。そこで、テレビ会議システムなどを利用したオンライン相談の利用を勧めているのだが、冒頭の会話のように、時間がなくて厳しい、電話をする時間もないのでメールあるいはチャットで話したい、と言われるケースは多い。たしかに、メールやチャットはリアルタイムで対応しなくてもいいので、忙しい人にとっては都合がいいのだろう。
現代のビジネスシーンにおいては、メールもチャットもごく普通に使うツールだ。当然、ほとんどの人材紹介会社が対応している。しかし、対面したことのない人と本音でぶつかりあう手段としては、課題もある。
例えば、文章から受ける印象が怖い人は意外に多い。相談者に求人票を送ったら、こうしたメッセージが返ってきたことがある。
「お送りいただいた求人案件の中には、当方が希望するものはありませんでした」
必要事項だけが書いてあり、端的でわかりやすいと言えばその通りだ。しかし、文章がそっけないので「もしかすると怒っているのではないか?」と勘ぐってしまう。
他にも、併願先の企業名を教えてもらえないか尋ねたときにこんな返信が届いた。
「差し控えさせていただきます」
併願先を伝えない求職者は珍しくないし、対面なら相手の表情が見えるので気にならないだろう。しかし文字だけでは、「官僚の木で鼻をくくった答弁みたいだな」と思ってしまうこともある。
ところが、電話したり、直接会って話したりすると、その印象がまったく間違っていたことに気づかされることは珍しくない。
「思っていたより爽やかでいい人だな。もっと役に立てるように頑張らないと……」などと、あらためて気持ちをかきたてられることもある。
約束を守ってくれない人へのいらだちが……
「最初はもっと厳しい方かと思っていました。親切にありがとうございました」
メールやチャットで長くやりとりをしていて、その後、初めて直接会ったときにこんな風に言われることもある。こちらも転職希望者の文章を見て「怖そうな人だな」と感じることがあるのだから、キャリアアドバイザーの文章が求職者を怖がらせている可能性も十分あるということだろう。
こんなこともあった。ある企業から内定が出て、入社承諾と入社予定日を確定させるだけというAさんのケースだ。「○日までにお返事をください」と伝えておいたのに、期日を過ぎても連絡がない。電話も留守電になってしまう。私は、こちらの企業は滑り止めで本命の返事待ちなのだろうかと、つい疑ってしまった。
人材紹介を進めていると、こういう状況によく遭遇する。結果的に辞退されるのは仕方がないとしても、音信不通のままというのは内定を出してくれた企業にも失礼だ。私はなんとかAさんに回答をもらいたいと思い、メールを送った。
「Aさんの最終的な判断は尊重します。しかし、何の連絡もないままでは困ります。ぜひ、ご連絡ください」
もちろん、内容はこれだけではない。企業側の事情をはじめ、なぜ早く連絡をもらわないといけないのかを丁寧に訴えたつもりだった。ただ、約束の期日を過ぎても連絡がないAさんへのいらだちも、その短い文面には表れてしまっていたのかもしれない。
Aさんからの返信はその部分に敏感に反応したものだった。
「引き継ぎ業務が多忙を極め、今まで連絡できませんでした。しかし、そういった状況を考慮せずに執拗なまでに返事を要求する貴社の姿勢には不信感を覚えます。今回は辞退させてください」
期日から遅れたことでAさんの内定が取り消しになってはいけないと繰り返し催促していたことが、逆にAさんに不信感を生んでしまっていたのだ。
対面か、少なくとも電話でコミュニケーションがとれていたら、そんな事態は避けられたのかもしれない。短い言葉だけが飛び交う時代においては、もっと言葉の使い方に注意しなくてはいけない。そんなことを考えさせられたケースだった。
連載終了のお知らせ
「人材採用“ウラ”“オモテ”」は今回が最終回です。
皆さまのおかげで「人材採用“ウラ”“オモテ”」は15年間連載を続けることができました。
長年のご愛読に心より感謝いたします。