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職場のモヤモヤ解決図鑑【第50回】
部下に言いづらいことを伝えるには?
アサーティブコミュニケーションの基本と実践[前編を読む]

職場のモヤモヤ解決図鑑

自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!

漫画(職場のモヤモヤ解決図鑑【第50回】)
志田 徹(しだ とおる)
志田 徹(しだ とおる)
都内メーカー勤務の35才。営業主任で夏樹の上司。頼りないが根は真面目。
児玉 夏樹(こだま なつき)
児玉 夏樹(こだま なつき)
社会人3年目の25才。志田の部下。ネットとサブカルが好き。

自らA社への提案内容を考え、商談をまとめた児玉さん。自信をつけた姿に一旦安心した志田さんでしたが、今度は営業の進め方で気になるポイントが見つかりました。直接指導したい気持ちがあるものの、ストレートに伝えればせっかくの児玉さんのやる気を削いでしまうのではないかと悩んでいます。部下のモチベーションを下げず、言いづらいことを伝える場合に活用できるアサーティブコミュニケーションについて見ていきます。

アサーティブコミュニケーションとは?

アサーティブ(assative) とは、「自己主張」を意味する単語です。アサーティブコミュニケーションは、相手を尊重しつつ、自分の意見を伝えるコミュニケーションスタイルを指します。

人はさまざまな表現方法を用いますが、意見を言葉にする際、意図とは違う形で伝わってしまったり、言いたいことをうまく言えなかったりすることが少なくありません。人間関係をよりスムーズにし、「伝える」という目的を果たすために使えるのが、アサーティブコミュニケーションです。

アサーティブコミュニケーションが浸透した組織では、対等な関係性を基に、チームワークや生産性に良い影響が期待できます。

知っておきたいコミュニケーションの三つのタイプ

アサーティブコミュニケーションに限らず、さまざまなコミュニケーションは「自己主張」と捉えられます。自己主張のタイプは、大きく分けて三つに分類されます。自分がどのタイプの自己主張をしているのかを振り返ることは、コミュニケーションのあり方を考える上でのヒントとなります。

コミュニケーションタイプその1:
相手否定型のアグレッシブ

漫画一コマ

相手否定型の「アグレッシブ」とは、自分の意見をきっぱりと主張できる反面、自己中心的で相手の気持ちや状況をくみ取らない傾向が強くあります。そのため、自己主張が押し付けや否定のようになってしまうことも少なくありません。

「攻撃型」とも呼ばれ、相手から強引に「YES」を奪おうとするコミュニケーションスタイルです。相手への尊重が欠けているため、意見を述べるときに物事を決めてかかる、フィードバックが批判中心になる、話を聞く立場でありながら相手の話の腰を折る、といった点が見られます。

アグレッシブタイプの類型として、相手も自分も尊重せず、目の前でため息をつくといったコミュニケーションをとるタイプは「操作型」と呼ばれます。

コミュニケーションタイプその2:
自分否定型のノン・アサーティブ

一方、自己否定が強いコミュニケーションのタイプもあります。「ノン・アサーティブ」と呼ばれ、自分よりも相手を優先してしまうコミュニケーションスタイルです。思ったことを言えず、自己否定的になりやすい傾向があります。

ノン・アサーティブのコミュニケーションタイプの人は、意見を述べる際に回りくどくなる、相手の反応を恐れ言いたいことを言えない、という点が見られます。「便利な人」と思われ、対等な信頼関係につながりにくいのもノン・アサーティブの特徴です。なかには、人に合わせすぎてしまい疲れてしまうケースもあります。

コミュニケーションタイプその3:
相互尊重型のアサーティブ

アサーティブタイプは、相手と自分の双方を尊重します。自分の意見をしっかりと伝え、相手の意見も尊重することができます。

アサーティブの特徴は、意見を述べる際に事実と主観を分けて考えられる点です。そのため、メッセージが曖昧にならずに意図が伝わりやすくなります。また、状況に応じて、批判と賞賛のフィードバックを使い分け、相手と対等な関係で誠実に向き合うことができます。

アサーティブコミュニケーションの実践ポイント

アサーティブコミュニケーションを実践するには、まず、自分自身に誠実でなければなりません。自分が抱く感情や要望を理解し、自分自身の気持ちを認めることが、相手との対等な関係を築く第一歩になります。

アサーティブコミュニケーションは、四つの柱で支えられています。以下のポイントを理解することで、アサーティブコミュニケーションを実践しやすくなります。

アサーティブコミュニケーションを支える四つの柱

  • 誠実:自分自身に正直になることで、相手にも誠実になれる
  • 率直:遠回しではなくストレートに、相手に“伝わる”言葉にする
  • 対等:上から目線でも卑屈でもなく。態度も心の中も対等に向き合う
  • 自己責任:言った責任、言わなかった責任は、自分が引き受ける

部下の意欲を下げないフィードバック

アサーティブコミュニケーションを取り入れることで、志田さんは児玉さんへどのように意見を伝えることができるのでしょうか。以下に、ポイントを紹介します。

ポイント1:注意や改善指導をするときは、まず誉める
漫画一コマ

マイナスのフィードバックを受けたとき、人が委縮してしまうのは自然な反応です。悪い点を指摘されることで、仕事へのモチベーションが下がることもあります。指導するとき、「ここができていない」と否定から入ることは避けます。

視点を切り替え、部下の頑張りや良い点を褒めたうえで、指導する流れを意識します。すると、部下も「これまでの働きを認めてもらえた」と、心を開いて指示を受け入れるようになります。ただ、指導のクッションとして形式的な褒め方をすると、逆に信頼を損ないかねません。心から賞賛したい部下の行動をきちんと伝えます。

ポイント2:「言いたいこと」を「具体的な行動に」置き換える

話していると、あれもこれもと指摘したいポイントが出てきて、本題から離れてしまうことがあります。この場合、部下は「たくさん叱られた」と意気消沈するだけで、行動の改善にはつながりません。

指導ではまず、自分が相手に伝えるべきことを整理します。そして、「言いたい内容」は直接的で具体的な言葉を用いて指摘します。仕事の進め方が思わしくない部下に、「そんなんじゃダメだ!」「もっと戦略的に考えよう!」と声をかけるのは、叱咤激励であり適切な指導とはいえません。改善が必要な「相手の行動」を明確にした上で、フィードバックを行います。

ポイント3:フィードバックをより良くする「影響」と「改善」

「相手には見えていない影響を伝える:Impact(影響)」「発展や改善を考える:Deveropment(発展・改善)」も、より良いフィードバックを行うポイントです。

今の行動を続けることで生まれるマイナスの影響を伝えると、相手は「何がダメなのか」を理解しやすくなります。あわせて、マイナスの影響を避ける工夫を一緒に考えてみるとよいでしょう。

この他にも、さまざまな指導の工夫やスキルがあります。「NOを上手に伝えるには」「怒りで相手を責めない」など、ケース別にヒントがまとめられているウェブサイトや本が活用できます。

【まとめ】

  • アサーティブコミュニケーションとは、自分も相手も尊重し、対等な関係性で行うコミュニケーションのこと
  • 部下のモチベーションを下げない指導には、否定から入るのではなく、相手の良い点を認め褒めることから始める
  • 耳の痛いことや、NOを伝えるときなど、さまざまなシーンで人間関係を円滑にするのに役立つ

(『優先順位が逆だよ!』と言いうのは、児玉さんの考えや行動を尊重していないコミュニケーションになってしまうな。児玉さんのA社への自発的な取り組みをほめたうえで、チームとしてB社を優先してほしいことをはっきり伝えてみよう)

「児玉さんのA社への働きかけは、頼もしいね!期待しているよ!」

「ありがとうございます」

「ただ僕が気になるのは、B社がチームにとっての重要顧客という点なんだ。取引額も大きいし、受注確度も高い。僕は、先にB社への提案をまとめたほうが数字につながると思うのだけどどうだろう?」

「うーん、たしかにそうですね……」

「A社の内部で話がまとまるまでまだ時間があるよね。今週はB社に注力して、それからA社に取りかかるのはどうかな?」

「わかりました! そうしてみます!」

(よかった、僕の言いたいことを児玉さんにうまく伝えられたみたいだ)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 中堅社員育成

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