職場のモヤモヤ解決図鑑【第36回】
中途入社社員の早期活躍に必要なマネジメントとは?[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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志田 徹(しだ とおる)
都内メーカー勤務の35才。営業主任で夏樹の上司。頼りないが根は真面目。口癖は「う~ん…(無言)」
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児玉 夏樹(こだま なつき)
社会人3年目の25才。志田の部下。ネットとサブカルが好き。
志田さんは、中途入社した岡野さんが現場になじんでいることに安堵しつつ、まだ期待した成果を出していないことを気にかけています。即戦力として入社した社員に早く活躍してもらうにはどうすればいいのか……。上司ができる働きかけについて見ていきます。
中途入社社員の活躍を妨げるさまざまな障害
「即戦力」のラベルが中途入社社員をダメにする?
「中途採用者は即戦力」という認識は、ときに中途入社社員がパフォーマンスを発揮する妨げとなります。経験者だからすぐに仕事ができるという周囲の思い込みにより、「本来必要な導入研修が省略される」「指導担当者が付かない」といったように、サポートが手薄になる事態が起こりえます。
- 【参考】
- 組織再社会化|日本の人事部
入社後すぐに本来のパフォーマンスを発揮できる中途入社社員は、ほとんどいないでしょう。配置転換などで部署やチームを異動した経験がある方は、そのときの状況を思い浮かべてみてください。同じ社内でも、新しい配属先で成果を出せるようになるまでには時間がかかったのではないでしょうか。
中途入社社員の活躍までに乗り越える壁
中途社員が活躍するまでには、大きく四つの壁があります。
一つ目の壁:人脈 |
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業務を遂行する際には、組織内の人脈を把握していることが重要です。部署内だけでなく全社・社外とのつながりが増える過程で、中途入社社員は社内の暗黙のルールを理解し、メンバーや顧客との信頼関係を構築します。 |
二つ目の壁:アンラーニング |
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これまでの経験から得た知識やスキルを意図的に捨て去り、新たに必要なことを学びなおさなければなりません。中途入社社員には、前職でのやり方に捉われず、必要に応じて考え方や行動をアップデートすることが求められます。 |
三つ目の壁:評価基準 / 役割学習 |
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職場で自らに期待されている役割を知るとともに、何をすれば評価されるのかを学ぶ必要があります。 |
四つ目の壁:スキル |
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新たな職場や業務で必要となるスキルや知識を身に着けなければなりません。 |
これらは相互に作用しているため、例えば本人が積極的に学ぶ姿勢があっても、職場内の人的ネットワークに欠ける場合、その成長意欲がうまく仕事の成果につながらない事態が起こりえます。
中途入社社員の活躍を促す支援の仕方
こうした障害を取り除き、中途入社社員の活躍を促すには、以下のポイントを意識した関わり方が求められます。
ポイント1:ネットワーク支援 |
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中途入社社員が仕事をスムーズに進められるようにするには、組織内の橋渡し役となるキーパーソンを紹介することが重要です。「誰が・何を・知っているか」(トランザクティブ・メモリー)を共有し、ときには対象者に仲介します。人脈を築く際の障がいの解消につながり、パフォーマンス向上を助けます。 |
ポイント2:メンタリング支援 |
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中途入社社員の振る舞いや仕事の進め方について、アドバイスをすることも必要です。中途採用者本人が、足りないスキルや学ぶべき行動に気づけるようになり、アンラーンが促されます。 |
ポイント3:フィードバック支援 |
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前編で紹介したように、仕事の区切りで面談を設けるなどして、中途入社社員の気づきや振り返りを促すことも効果的です。新たなスキル習得につながったり、職場で期待される役割を理解したりするなど、成長を助けることができます。 |
ポイント4:セーフティネット支援 |
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プライベートな雑談や何気ないコミュニケーションも含めて、安心感や心理的安全性を確保することも上司の役割です。 |
参考:『転職学』(中原淳著)
上司ができる中途入社社員へのサポート
職場の上司は、こうした中途入社社員へのサポートにおいて、「適応エージェント」や「コミュニケーションの場のデザイン」といった役割を果たします。
中途入社社員の適応エージェントとして積極的に関わる
適応エージェントとは、中途入社社員の適切な相談相手のことをいいます。現場の様子を把握しているため、人事よりも細かで具体的なアドバイスが可能です。仕事での不安や、実際の業務のフィードバック、人間関係の構築をサポートします。
【適応エージェントの具体例】
- 1on1の定期面談の実施
- 仕事の割り当てを吟味し検討する
- 業務で関わる人とつながるようにMTGの参加者を調整する
中途入社社員のコミュニケーションの場をデザインする
中途入社社員が孤立しないよう、社内で他のメンバーと関わる機会をセッティングします。つながりができることで、入社後の不安がやわらぎます。また、中途入社社員のこれまでの経歴や職場での役割を共有することで、周囲の社員もサポートがしやすくなります。
【コミュニケーションの場の具体例】
- 朝会や夕会
- ランチでの歓迎会
- 全社MTGや月の定例MTGなどが持つ役割の説明
参考:『中途採用人材を活かすマネジメント』(尾形真実哉著)
中途入社社員にこそ、教育体制を整える
オン・ボーディング研究をしている甲南大学の尾形真実哉氏は、中途入社社員を受け入れる際は、即戦力という認識は一旦横に置いて、「新卒入社の人材よりも少し早く成果を出すことができる人材」くらいに捉えておくべきだと話しています。
上司が中途入社社員と積極的にコミュニケーションをとり、本人の仕事に対する希望やこれまでのスキル・経験を把握することで、仕事のミスマッチが起こらないように配慮することも重要です。メンバーとのコミュニケーションを促す場でも、適切なフォローができるでしょう。
現場のリソースをオン・ボーディングに割くのが厳しい場合は、情報共有ツールなどを活用して職場環境を整えます。「ここにいけばこれがわかる」と情報が整理されていれば、中途入社社員だけでなくチーム内の業務効率化にもつながります。人事からの導入研修や定期面談に合わせて、上司やチームメンバーからフォローすることが、中途入社社員の活躍を促します。
【まとめ】
- 「即戦力だから支援は不要」「お手並み拝見」という周囲の意識が、中途入社社員のパフォーマンス発揮の妨げになる
- 中途入社社員が活躍するには、「人脈」「アンラーニング」「評価基準・役割学習」「スキル」が重要
- 上司の積極的な関わりが、中途入社社員の活躍を後押しする
僕自身が、もっと岡野さんに関わらないといけないな
チームでも業務マニュアルを見直したり、人を紹介したりして支援します
岡野さんが困っていることも、僕からあらためて聞いてみるよ!
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!