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人事マネジメント「解体新書」

長期的観点から再考する「コア人材」の採用と育成【後編】
~長期的視野でコア人材の育成に取り組む2社の事例 (1/2ページ)

2015/12/16

短期的な成果を望むあまり、人材育成を軽視しがちになった成果主義への反省から、近年では、長期に渡って人材を育成することの重要性が見直されている。特に、企業のコアとなるビジネスリーダーについて、長期雇用を前提とした人材育成やキャリア支援に力を入れる企業が増えている。「前編」では、長期的視点から見直した「コア人材」の採用と育成に対する考え方を紹介したが、「後編」では2社の事例を取り上げ、長期的な視野の下、いかにコア人材育成に取り組んでいけばいいのか、その具体的なあり方を紹介する。

【事例1】10年に1度キャリアを振り返り、個人のプロフェッショナル化、チームビルディングの確立を目指す

大手エンジニアリングA社は、製鉄プラント、環境ソリューション、海洋・エネルギー、建築・鋼構造という四つの領域で事業を展開している。「ナンバーワン企業を目指す」とのスローガンを掲げ、人材育成に力を入れている点で、業界内では知られた存在である。その背景には、エンジニアリング事業の持つ大きな特性があった。

◆現場経験が必要不可欠な事業特性のため、人材開発・育成に時間がかかる

エンジニアリング事業は、仕事がプロジェクト単位で存在し、しかも自社でなく外部で行われるという特徴がある。製鉄所やメーカーなどの装置産業とは異なり、工場を持たずに顧客の元に出向き、プラントやインフラをつくることによって、顧客の課題を解決するという事業構造である。

そのため、A社で働く人々は国内外で稼働する大小さまざまなプロジェクトが現場となり、担当するプロジェクトが終了すれば、また次の職場へと移動することになる。当然、働くメンバーもその時々によって変わる。また、プロジェクトによっては3年以上という長い年月がかかる場合もあり、一人が複数のプロジェクトを担当することもある。

「各現場で個別の事業に対応しながら、プロセスを一通り経験して仕事を覚え、初めて一人前と言われるようになります。つまり、エンジニアリングという事業は、現場での経験の積み重ねによって成り立つ仕事であり、必然的に人材開発・育成に多大な時間がかかるのです。そのため長期雇用が基本となり、長く働いてスキルを高め、キャリアを重ね、力を発揮していくという意識が、会社側と社員側の両方にあります」(人材開発担当者)

プロジェクトを構成するのは、A社の社員ばかりではない。工事関係者など、外部の委託事業者を含む多様な人たちと一緒に仕事を行うことになる。さまざまな役割を持った多数のメンバーで取り組むので、チームワークは大変重要だ。そのため、経営者候補となるビジネスリーダーも大事だが、プロジェクトをリードし、うまく切り盛りできるプロフェッショナルを、コア人材として育成しなければならないのだ。

言うまでもなく、プロジェクトの現場をリードするのはプロジェクトリーダー(PL)である。PLはA社の社員だけでなく、外部の委託業者も含むさまざまなメンバーをまとめる立場にある。また、一人で顧客やベンダーとの交渉から、現場における設計管理、指示命令など、全てを仕切らなくてはならない場合も出てくる。PLには、経営者さながらの裁量が必要なのだ。

また、A社ではPLという立場になくても、一人ひとりに責任ある判断を求められることが多い。というのも、プロジェクトの現場に自分の上司が必ずいるとは限らないからだ。この場合、逐一誰かに判断を仰いだり指示を受けたりすることは難しい。自分で状況を的確に見て、判断しなければならない。プロジェクトごとに自分が担当する役割も変わってくることも多く、それぞれのプロジェクトに応じて自分の役割を認識し、遂行していかなければならないのだ。

「そのため、当社で働く人たちにはどんな想定外のトラブルに遭っても、的確そして迅速に対応できる能力が求められます。まさに事業構造上、人が収益の源泉になっていると言えます。このような背景から、人材開発・育成に力を入れるようになったわけです」(人材開発担当者)

具体的な取り組みとしては、コア人材としてプロジェクト遂行に必要な「プロフェッショナル化」と「チームビルディング」にフォーカスした。そして10年に1度、自分自身のキャリアを振り返るキャリア支援策と、チームビルディングを養う研修を開始した。A社における「プロフェッショナル化」と「チームビルディング」の考え方は、以下の通りである。

プロフェッショナル化 職場固有の専門知識・スキル、そして職務や所属に捉われない問題解決能力やイノベーション能力、ヒューマンスキルなどを持ち、自ら仕事をデザインし、結果を出せること
チームビルディング 個人主義に陥ることなく、チームとしての各プレーヤーが自分の役割を認識し、コミュニケーションを図りながら助け合い、有機的に機能し、目標達成につなげること

この二つの能力を早期の段階から身に付け、組織として最大限の成果を達成するために、長期的な人材開発・育成への取り組みをスタートしたのである。

◆「プロフェッショナル化」を実現するため、10年ごとにキャリアの振り返りの機会を持つ

まず、「プロフェッショナル化」を実現するための、長期的な施策(研修)を見ていくことにしよう。研修は、以下の三つの節目で行われる。

【入社3年目研修】

A社では、最初の10年間を「基礎体力」を身に付ける期間として位置付け、入社3年目の段階で2泊3日の合宿研修を実施する。ここでは経営の基本を理解し、その中で自分の所属する組織や業務の位置付け・役割を認識すると同時に、入社後の担当業務を振り返り、習得したこと・できていないことを確認する。研修終了後は人事とキャリア面談を行い、本人と会社双方のニーズを確認する。その際、会社として本人に期待することを伝え、「この能力を伸ばしてみたらどうか」「この仕事をしてみたらどうか」などの提案を行う。

また、入社後5年目までに、必ず1度はローテーションによって配属先を変える。将来はその道のプロになるにしても、視点を変えて仕事をしてみることによって視野が広がり、より納得感を持って仕事に臨むことができるからだ。

【30代後半:CDP(キャリアディべロップメントプログラム)】

そして30代後半には、CDP(キャリアディべロップメントプログラム)を実施する。入社してから習得した知識・経験などを振り返り、キャリアの棚卸しや自己分析を行うというものだ。同時に、今後のキャリアの方向性を考え、そのために何をすべきかを2泊3日の合宿制で、外部講師によるグループ討議や個人研究を行うという内容である。

【40代後半:CDS(キャリアデザインセミナー)】

40代後半では、CDS(キャリアデザインセミナー)を実施する。ここでもこれまでの自分を振り返ることで現在の自分を確認し、また社内外の環境やマネープランなどのプライベートも含めて、今後のキャリアデザインを行う。30代後半のCDPと異なる点は、健康管理や地域社会での活動など、プライベートな内容も盛り込んでいること。会社だけでなく、人生全般を視野に入れたものとなっている。これはプロジェクトによって勤める場所が変わり、それに合わせて生活の場を変えなければならないという、エンジニアリング業界独特の特徴も関係する。

ちなみに、CDP、CDSの受講者からは「10年という節目で一度立ち止まって、自分自身を振り返り、確認するよいきっかけとなった。改めてこの先、会社生活をどのように過ごし、そこで自分は何をしていくのかが明確になった」と高い評価を得ている。

入社3年目、30代後半、40代後半と、10年に1度の段階で自分自身を振り返ることは、単に個人の将来を考えるだけでなく、会社がそれぞれの個人に求めることを確認する場でもある。このような機会を持つことによって個人も会社にも納得感が高まり、組織として強い力を発揮できることになる。

◆「チームビルディング」では、ケーススタディを用いてマネジメント力を養う

次に、「チームビルディング」につながる研修だが、ここでは主要な研修について紹介する。

【新入社員上司研修】

まず、新入社員の上司に対して実施する「新入社員上司研修」がある。労務管理の基本や最近の若手社員の傾向・特徴、仕事の与え方などを習得させ、ティーチングやコーチングの基本を学んで自分に合った指導法を考える。また、上司同士の交流を深め、新入社員受け入れ後に連携できるネットワーク基盤を作る。

【新人上司フォローアップ研修】

その後、「新人上司フォローアップ研修」を行い、新入社員の育成状況を振り返り、上司同士で情報交換したり、議論したりする場を設ける。上司としての悩みなども話し合う中で、改善へのヒントを探り、来年度の新入社員の上司へのアドバイスをまとめる。

【新任マネジャー研修・シニアマネジャー研修】

さらに、「新任マネジャー研修」「シニアマネジャー研修」をそれぞれ2泊3日の合宿研修で行う。カリキュラムとしては、A社で実際に起こりやすいケーススタディを題材にし、個人研究・グループワーク・全体会議を実施する。

「当社ではプロジェクトごとに仕事が動き、直属の部下が上司から離れた場所で働くこともあるため、上司にとってはマネジメントに工夫が必要となります。また、組織上は部下がいなくても、現場では外部の業者などをマネジメントしなければならない場面もあります。そのような時には、いかに全体を見渡しながらマネジメントができるかどうかが課題となります。ケーススタディ中心としたのは、こうしたことに対応できるようにするためです」(人材開発担当者)

受講者からは、「新任マネジャー研修」について、「マネジャーに対する会社の期待感を強く感じた」「自分の思考が過去の経験や個人的な見解に基づいていることが多いことに気付いた」などの声が聞かれた。また、「シニアマネジャー研修」については、「改めて、管理者としての持つべき視点や考え方を認識することができた」「意思決定を行う際の解決プロセスの組み方が非常に参考になった」など、評価する声が多く、研修の狙いは概ね達成されているようだ。

【その他スキル系研修】

さらに「対話型コミュニケーション研修」を行い、上司と部下の信頼関係を構築するための考え方、スキルを学ぶ機会を用意している。受講した上司からは「部下との認識が違うことがよく分かった」、部下からも「他人は自分とは違う価値観を持っていることが分かった」といった声が上がっている。この他にも、「プレゼンテーション力強化研修」「提案仮説・攻略プラン作成研修」など、チームビルディング力を向上するためのスキルを学ぶコンテンツを、手作りで用意した。

A社は事業特性上、プロフェッショナル化とチームビルディングは、特に意識して取り組んでいかなければならないテーマである。そのことのできるコア人材を育成するためには、手間暇はかかるが、結局、長期的な取り組みを行うことが一番の早道だということなのだろう。

 


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