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キーパーソンが語る“人と組織”

人事は世の中でもっとも面白い仕事
注目の新制度「WAA」に込めた、
人と組織への熱く深い思いとは
(後編)[前編を読む]

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長

島田 由香さん

“言った”と“伝わった”は違う、言葉と対話の重要性を再認識

 「WAA」は、理由を問わず、働く場所・時間を自由に選べるのが特徴ですが、制度設計の段階で、この“理由を問わず”という部分に異論や反対はありませんでしたか。

異論は特に出ませんでした。そこはやはりお互いを尊重するというか、信頼関係ですからね。ユニリーバの組織文化を象徴するフレーズに“Be Yourself”というものがありますが、その価値観に照らせば、理由云々に関して個人の自由にゆだねるのはむしろ当たり前なんです。

ただ、そうはいっても、導入前に行った社員への説明会では、やはりいろいろな疑問や心配の声が上がり、認識の差やズレも浮き彫りになりました。たとえば、「みんながオフィスに来なくなったら、チームワークはどうなるのか」「さぼる人がいたらどうするのか」など。なかには「とうとうブラック企業の仲間入りですか」なんていう声もありました(笑)。なぜブラック企業なのかというと、実はWAAの導入とともに、「残業時間を月45時間にしてみましょう」というアクションもセットで実施していて、これを「45時間までしか残業代が出ない」と受け取る人がいたわけです。前半で人に働きかける人事の仕事において、「言葉」がいかに大切かという話をしましたが、今回、それをあらためて痛感することになりました。“言った”からといって、相手に“伝わった”とは限らない。取り組みの趣旨についてはすでに何度も発信していたので、当然分かってくれているだろうという思い込みや期待があったかもしれません。それが間違いなんだと、肝に銘じました。

 本当に、言葉の使い方やコミュニケーションは難しいですね。

でも、難しいからこそ、面白い。そういう受け止め方をするのか、という学びにつながりますからね。そもそも「WAA」も「月45時間」も、みんなにイキイキと働いてほしいという思いから始めたことであって、残業代カットは目的じゃない。対話して、そこを確認しあったら、相手も納得してくれました。

「みんなが会社に来なくなったらどうするのか」と心配した社員も、やはり受け止め方にギャップがあって、「オフィス以外の場所で働ける」を「オフィスに来てはいけない」と誤解していたんです。そうではなく、時間と場所の制約を取り払って働き方のオプションを広げる仕組みだと説明したら、理解してくれました。とにかく、まだ始まってもいないうちからあれこれ心配するのは時間の無駄だし、始めてみて問題があればすぐに改めるから、まずやってみましょう、と。そうした対話を重ねた上での導入ですから、今のところ、運用に大きな支障は出ていません。

 「WAA」を利用している社員の所在や予定、業務の進捗などに関する情報は、誰がどう管理しているのですか。人事もそれを共有するのでしょうか。

島田由香さん ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長

何をどこまで管理するかは、把握するための方法も含めて、すべてマネジャーに任せています。だからマネジャーの力量も、「WAA」を通じてより鮮明に見えてくる。人事としては、個々の社員の動向と同様に、そこに注目しているんです。グループのメンバーが自分の目の届かない場所にいれば、上司として心配になるのは当然でしょう。でも、われわれはあえて「心配しないで信頼しよう」と呼びかけています。「シンパイ」から「シンライ」へ――1字違いで大違いだと。上司に心配されて働く人と信頼されて働く人とでは、アウトプットの質や量も自ずと違ってきます。心配すると、どうしても疑心暗鬼になり、結局、枠やルールで縛りつけてしまう。それでは、部下の成長は望めません。信頼して、ある程度手を放したほうが、本人に責任感が生まれ、自立や自律も促されるはずです。

マネジャーによっては、グループウェアでメンバーのスケジュールを共有したり、シンプルに「WAA」や「出社」などと記したマグネットをホワイトボードに並べたり、それぞれの方法で部下の動きを可視化していますが、なかにはまったく“放置”しているマネジャーもいます。面白いなと思うのは、放置している上司の下で働く人の声を聞いてみると、それが嫌だという人もいれば、すごくやりやすいという人もいること。バラバラなんですね。マネジャーが細かく目を光らせるべきなのは、部下がいま、どこで何をしているかではありません。どんなことがその人のモチベーションが上がることにつながるのか――思いや感情に、もっと敏感になってほしいと思います。


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