企業におけるメンタルヘルスの実態と対策
近年、メンタルヘルス不調者が増加し、メンタルヘルス対策が企業の大きな課題となっています。そのような中、労務行政研究所では、2010年4~5月に「企業のメンタルヘルス対策に関する実態調査」を実施。企業におけるメンタルヘルス不調者の実態や、各社の取り組みについて、2008年以降2年ぶりに調査しました。
※『労政時報』は1930年に創刊。80年の歴史を重ねた人事・労務全般を網羅した専門情報誌です。ここでは、同誌記事の一部抜粋を掲載しています。
最近3年間におけるメンタルヘルス不調者の増減傾向
最近3年間におけるメンタルヘルス不調者の増減傾向は、「増加している」が44.4%で最も多く、「横ばい」が33.7%、「減少している」が9.5%となりました。前回08年調査では、「増加している」が55.2%、「横ばい」が24.6%、「減少している」が2.8%でした。集計(回答)企業は異なるものの、今回は「増加」が10ポイント程度減少し、「横ばい」と「減少」が増えています。依然として「増加」が最も多いものの、過去の調査に比べるとその割合は減少の傾向がみられます。
調査(回答)企業の違いもあるため、もう少し長期的に動向をみていく必要はありますが、[図表2]でみるように、メンタルヘルス対策に取り組む企業はここ数年でも顕著に増加しており、こうしたことも増加傾向の歯止めに寄与しているのではないかと考えられます。
「増加している」企業に、“特に増加が目立つ年代層”を尋ねたところ(複数回答)、「30代」が48.2%、「20代」が47.3%で拮抗する結果となりました。「年代に関係なく増加」は、23.6%と2割強みられました。メンタルヘルス不調者は、20~30代の比較的若い層で増えていると認識され、これは、前回08年調査時と同様の傾向です。
過去にメンタルヘルス不調で休職した社員のうち、 完全に職場復帰できた割合
「過去にメンタルヘルス不調で休職した社員がいる」企業が92.7%とほとんどです。1,000人以上規模では、100%とすべてで過去に休職者が発生しています。
上記のうち、完全に職場復帰できたのは「半分程度」とする企業が25.1%で最も多く、以下「7~8割程度」が22.0%、「ほとんど(9割以上)」が20.3%と続きます。この3者に、「全員」復職できた(7.9%)を合計すると約75%となり、4分の3の企業で「半分程度」以上が完全復帰できたことが分かります。
見方を変え、復帰割合が半分に満たないところ(「2~3割程度」「1割台以下」「全員復職できなかった」)の割合を合計してみると、規模別では1,000人以上16.2%、300~999人25.6%、300人未満32.4%となり、規模が小さいほど完全復帰の割合は低い傾向がみられます。
メンタルヘルス対策の実施状況
健康保険組合や外部の専門機関を利用して実施しているものも含め、メンタルヘルス対策の実施状況を尋ねたところ、何らかの施策を「実施している」企業が86.5%と8割台を占めました。前回08年調査の79.2%と比べ、7ポイント程度増加しています。
[図表2]では05年、08年、今回10年の調査について実施率の推移を示していますが、実施率の増加は顕著であり、特に、300人未満規模ではこの5年間で倍増していることが分かります。
具体的な実施内容として最も多いのは「(2)心の健康対策を目的とするカウンセリング(相談制度)」で70.2%、以下「(3)電話やEメールによる相談窓口の設置」(67.0%)、「(4)管理職に対するメンタルヘルス教育」(59.6%)と続き、これら上位3項目は実施率が半数を超えています(複数回答)。
前回08年調査と比較すると、多くの施策で実施割合が高まっています。特に、「(5)一般社員に対するメンタルヘルス教育」の実施割合の増加(08年29.3%→10年44.5%)が目立っています。前述のように、「ラインケア」を担う管理職に対してメンタルヘルス教育 を行う企業は約6割に上ります。管理職がメンタルヘルスについて十分な知識と認識をもつことは、不調を来した従業員の早期発見、発症者(回復者)の円滑な職場復帰にもつながるといえるでしょう。これに加えて最近では、一般社員を対象にした「セルフケア」にも重点が置かれるようになっていることを表す結果です。
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