若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?
-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子氏

【激変した理想の生き方】
統計的には日本の少子化は未婚化(初婚同士婚姻減)とパラレルに進行している。
1970年の出生数・初婚同士婚姻数は193.4万・91.5万であったが、2023年は72.7万・35.6万で、出生数は38%水準、婚姻数は39%水準にまで減少した。出生数と婚姻数は、ほぼ減少率に差がない6割減 1 という大幅減となっている。
大幅な初婚同士婚姻減の理由として感覚論としてまず挙げられることが多い、「婚姻に対する意欲」はあまり減少しておらず 2、激減ともいえる婚姻減を説明するには、説明力に乏しい。一方、この半世紀における統計的にみた婚姻に関する「激変」要因としては、現在の若者とその親世代とでは「理想とする夫婦像」が大きく変わっていることが挙げられる(図表1)。
若い世代の理想の家族形成に関するライフデザインが大きく変化しているにも関わらず、昭和時代に主流だった昔ながらの家族形態をイメージした雇用概念を雇用主が持ち続けるならば、若い世代は就職してはくるものの、その先の夫婦形成について考えたときに、無理してまで理想でもないライフコースには進まずに、自らの生活を優先した生き方に向かっていくのはごく自然の流れと思われる。
図表1の上表が男性、下表が女性、左側は親世代が若かったころ、右側は子世代の若者の理想のライフコース・ランキングである。
一目でわかるのは、国の統計で1980年代までは大半だった専業主婦世帯を理想とする回答者の割合が、父親世代では4割弱存在するが、息子世代ではわずか7%にまで驚くほど支持率が激減していることである。その一方で、父親世代では「そんな理想を妻に持つ男性はなかなかみかけない」レベルに支持が低かった(10.5%)両立コース(子どもが生まれても妻が仕事を辞めずに働き続ける世帯)を理想とする割合が、息子世代では39.4%とトップの支持を得ている状況である。
つまり、現在の管理職や経営者などの主たる年齢層となっている父親世代が、いくら「わが社の男性社員が喜ぶだろう、これで結婚を考えるだろう、子どもをもう一人持つかもしれない」という期待から、夫片働き、または夫が経済主戦力的な家族を想定した男性収入上昇策等を打ったとしても、息子世代には響きにくい、ということである。
若手男性社員は喜ぶどころか、
「どうして多様性の令和時代に、男性だけが経済的に頑張って、女性や子どもを食べさせることが当たり前だとされなきゃいけないのか?」
となり、人材確保すら難しい状況にもなりかねないことをデータは示唆している。
女性の方も、専業主婦を母親世代の3人に1人が若い頃に理想としていたが、娘世代では、7人に1人程度であり、かつては5人に1人程度だった両立コースを、若い女性の3人に1人以上が理想の生き方と回答している。このような理想の変化の中で、母親世代が「仕事なんてそこそこでいいから、結婚を」などと言おうものなら、実家に娘がよりつかなくなる恐れさえある、そんな時代となっている。
このデータのもととなっている出生動向基本調査は、およそ5年おきに国の人口問題研究所の大規模調査として実施されてきたが、両立コースの指示割合は回を重ねるごとに着実に上昇してきている。
1 両データの時系列相関係数0.97
2 社会保障・人口問題研究所 「第16回出生動向基本調査」(2021年)参照
【東京都在勤の若者が最も支持した働き方は?】
日本全国、有効求人倍率がほぼ1以上と人手不足が強まる中で、東京都と福井県はともに年間を通して約1.8倍という、人材確保の激戦区となっている 3。また、東京都は全国の若者に人気の就職先として、若者の転入超過エリアであり、東京一極集中もほぼ20代前半の就職期に集中して発生している。
そのような背景から、東京商工会議所が2024年8月に、東京在勤の18歳から34歳の若者の理想のライフコースを調査した。その中で、「結婚・子育てを想定した場合、望ましいと思う制度」について、制度の利用状況とともに質問した結果が以下である(図表2)。
3つまで選択可能なマルチアンサーで、家族を持つまで(結婚)、持った後(子育て)についての望ましさについて分けることなく尋ねている 4 が、1位がテレワーク61.2%、2位がフレックスタイム制58.5%となり、そのほかの柔軟な働き方を大きく引き離す結果となった。
柔軟な働き方というと、中高年はどうしても「時間」視点のみでとらえがちであるが、テレワークという「場所」の柔軟さが若い世代から強く求められていることを、雇用者は知っておく必要があるだろう。そして、その希望にこたえることが、人口減の抑制につながる可能性を高めることも知っておきたい。
現在の10代から20代後半人口までのZ世代は、デジタルジェネレーションとしても知られている。親世代よりも圧倒的にデジタルの使用に慣れ親しみ精通した「情報強者」世代が、「タイムレス」のみならず「ボーダレス」な働き方 5 も重視するのは当然といえるかもしれない。
3 独立行政法人労働政策研究・研修機構ホームページ「職業紹介-都道府県別有効求人倍率」
4 同調査の回答者属性の婚姻内訳は、既婚35.6%、非交際の独身34.5%、交際中の独身29.3%、その他の多様なパートナーシップが0.5%。自身の婚姻状況に関わらず、結婚や子育てを想定して望ましいと思う制度について、若い世代の意見を知ることができる点が興味深い。
5 「ボーダレス」を中高年は国際的、といったイメージでとらえやすいが、そうではなく、同じ業種、同じ職種であっても、「場所に縛られずに勤務できる」ようなDXが求められていることに気づきたい。
株式会社 ニッセイ基礎研究所
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
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