家族形態の多様化に伴う福利厚生制度のこれから
マーサージャパン株式会社 グローバル・ベネフィット・コンサルティング / Global Benefits Consulting アソシエイト コンサルタント 最首 花織氏
家族形態が多様化している現代では、既存の福利厚生制度が時代遅れになる事象が生じている。本コラムでは、具体的にどのような制度が時代遅れで、今後どのように見直していくべきかを挙げていく。
家族形態の多様化
これまで、福利厚生制度は一定の家族形態を想定して設計されてきた。正社員の夫を専業主婦の配偶者が支える家族形態を前提に福利厚生制度を設計する企業が多く見受けられた。しかし、昨今では共働き世帯数が専業世帯数の倍以上になり、独身者やシングルペアレントが増加するなど、様々な家族の形態がある。家族形態が多様化する中で、旧来の家族形態に前提を置いた福利厚生制度の提供に限界が来ている。
1990年代を境に共働き世帯の方が多くなっている。
単独世帯・夫婦のみ・シングルペアレンツが増加している一方、夫婦と子・核家族以外が減少している。
変化が求められる福利厚生制度
家族形態の変化により、福利厚生制度に生じる問題は大きく分けて二つある。一つ目は、公平性の問題である。単一の家族形態に合わせた制度を提供していても、多様化した家族形態を網羅できない。二つ目は、制度支給の効果が低下する問題である。制度対象者として網羅していても、的外れな支援となってしまっているケースも見受けられる。具体的な問題を以下の通り紹介する。
家族手当・配偶者手当
家族の有無で手当の額が変わる制度には、公平性の問題が発生する。元々日本の福利厚生の多くは、健康保険と年金の社会保障が堅調だった時代に形成されたものであり、手当類は社会保障の弱体化を補うための賃上げの一形態として導入された背景がある。そのため手当類は実質的な報酬の一部として見なされやすい。職務内容ではなく家族の有無で変動する金銭的サポートが企業の方針と合致しているか検証すべきである。
社宅
社宅については、二つの観点から不公平が生じる。一つ目は、規程上生じる不公平である。例えば、配偶者の年収がより高いことにより社宅に入れない従業員や、社宅への転居が難しい中途採用者への不公平などが挙げられる。
二つ目は運用上における不公平である。社宅支給要件に「主たる生計維持者」が含まれる企業が、社宅申込者が男性の場合は配偶者の年収は確認しないが、女性の場合は証明書提出などにより確認するという事例もある。
さらに、転勤者向け社宅も、制度支給の効果という点で時代への対応が迫られる制度だ。現代では転勤が時代にそぐわなくなってきている一面がある。転勤は配偶者のキャリアに影響を及ぼしかねない制度のため、今後更に共働き世帯が増加するにつれ、会社命令での転勤は実施しにくくなると考えられる。リモートワークも進む中、転居を伴う転勤に対して取捨選択が進み、同時に制度の見直しを行う企業も増えてくるだろう。
出産・育児・介護関連
出産・育児・介護関連制度は、制度支給の効果の点で課題がある。かつて、育児・介護は専業主婦が一手に担うことが多かったが、現代では従業員自身がその役割を担うことも増えている。
育児・介護に休暇が使える制度は今後も必要とされるので、減らしたり廃止したりすべきではないが、休暇一辺倒では従業員の幅広いニーズに応えることが難しい。休暇を取って育児・介護を担うということは、基本的に従業員自身でその役割を担うということになる。そうすると、できるだけその役割を担うのを減らして仕事を優先したい従業員のニーズは満たせない。今後は更にキャリアアップを重視する人が増え、休暇以外のサポートのニーズが増えることが予想される。
これからの福利厚生制度変革の要点
今後の制度を取り巻く環境と、制度変革の方向性について述べてみたい。
家族手当・扶養手当
支給の意味を明確にし、公平性のある制度に変更する企業が今後も増えると考えられる。例えば、扶養家族のいる従業員に対して広く支給されている手当を、育児・介護を抱える従業員の負担を軽くし、業務を行いやすくするために支給するなどの見直しが考えられる。
社宅
報酬を補うための社宅を職務とは関係がない要因で支給可否や内容を決定している場合は、今一度検証すべきである。今後、同様の社宅を残す場合は公平性を担保するか、もしくは転勤者への支援に特化するなど、支給の意味を見直す動きが増えるだろう。
出産・育児・介護
出産のタイミングが様々となり、不妊治療を受ける人口が増加している。2022年4月施行の法改正による健康保険対象の広がりから、より安価に高度な治療を受けられるようにはなったものの、自己負担額は依然として安い金額ではない。より従業員が治療を受けやすくなるよう、不妊治療サポートを提供する企業も徐々に出てきている。
育児・介護を外部サービスの力も借りて、従業員自身が割く時間を減らしたいというニーズも増えると考えられる。そのようなサービスの費用を会社から金銭的補助を出すことも今後更にに喜ばれるようになるだろう。
フレックスベネフィット(多様な従業員が自らに合った制度を選択できる仕組み)
今後ますます多様な制度が求められる中で、いかに限られた予算で実現するかが重要になる。潤沢な資金があれば、多様な制度を用意し、全て使ってもらうことでニーズに応えることができる。ただし現実的には、福利厚生費はどうしても限られた予算で運用しなければならない企業が多い。そこで、制度の選択肢としては幅広く持ちつつ、従業員ごとに使用できるポイントを付与して使用上限を決めるやり方も今後は増えていくだろう。
ポイントを付与と聞くと、カフェテリアプランのサービスを想像される方も多いかもしれないが、昨今では自社独自の運用とする企業も出てきている。
時代の変化に対応できていない、旧来の福利厚生制度を残している企業も多いのが実態ではないだろうか。自社の福利厚生の立ち位置や希望する効果の戦略を、時代に合わせて見直すことが望ましい。
組織・人事、福利厚生、年金、資産運用分野でサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファーム。全世界約25,000名のスタッフが130ヵ国以上にわたるクライアント企業に対し総合的なソリューションを展開している。
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