リスキリング1兆円予算で賃上げできるのか?
~1兆円予算の中身は?カギはスキルを高める労働移動~
第一生命経済研究所 総合調査部 マクロ環境調査G 主任研究員 白石 香織氏
要旨
- 岸田首相は2022年10月3日の所信表明演説で、リスキリング支援として「人への投資」に5年間で1兆円を投じると表明した。それ以来、政府は矢継ぎ早に推進策を講じ、今や「リスキリング」という言葉は流行語大賞の候補に入るほどの脚光を浴びている。
- 政府は今後、「1.労働移動」、「2.リスキリング」、「3.賃上げ」の三つの課題を「同時に取り組む」としているが、筆者は三つの課題の「解決に向けた道筋」は、「2.リスキリング」によって、成長分野への産業転換に必要な「1.労働移動」を円滑に進め、その結果「3.賃上げ」につなげることだと考えている。
- リスキリング1兆円予算を賃上げにつなげるためには、企業の「生産性・付加価値向上」によって持続的な賃上げの好循環を形成することが重要である。マクロ経済の視点からも、賃上げには企業が成長分野の事業から収益を拡大することで「①付加価値」を増やし、同時に「②労働分配率」を上げる必要がある。その際、スキルを高める労働移動(=効果的なリスキリング)を促すことが、賃上げの実現性を高めるポイントとなる。
- 「学び直しをして新しい仕事に就く」までが広義のリスキリングである。政府の5年間で1兆円の投資は、「①労働移動支援」、「②転職支援」、「③学び直し支援」を3本柱として今後施策が展開される。その際も、③の学び直しをいかに①②の労働移動・転職支援によって仕事へとつなげるかが、成功のカギを握る。
- 国家戦略としてリスキリングを推進するドイツ、フランス、カナダが優れているのは、AIによる労働市場分析・提案といったデジタル技術を活用し、官民連携により、学び直しを仕事へつなげる仕組みを構築している点にある。
- リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのか。まずは、企業が主体となり2つの軸(「①付加価値」「②労働分配率」)を改善し、持続的な賃上げに向けた好循環を形成することが急務である。さらに、1兆円の予算を基軸に、個人がリスキリングを積極的に行える土壌を社会全体でつくることができれば、実現は可能である。
1.政府が急ピッチで進めるリスキリング
政府は「人への投資」を新しい資本主義の柱として位置付けている。岸田首相は、2022年10月3日の所信表明演説で、リスキリング支援として「人への投資」に5年間で1兆円を投じると表明した。また、10月12日に開催された日経リスキリングサミットでは、首相自らパネルディスカッションに登壇し、この1兆円投資策の3本柱(5節で詳述)を発表した。さらに、10月下旬に発表された総合経済対策においてはその具体策が示され、現在、リスキリングに伴う労働移動を加速させるための「企業間・産業間の労働移動円滑化に向けた指針」策定に向けて政府内で議論が行われている。
こうした政府による矢継ぎ早の動きが影響し、「リスキリング」という言葉は、流行語大賞にノミネートされるほど、一躍脚光を浴びることとなった。今後の方針として、首相は「労働者に成長性のある産業への転職の機会を与える『1.労働移動』の円滑化。そのための学び直しである『2.リスキリング』。これらを背景とした構造的『3.賃金引き上げ(以下、賃上げ)』の三つの課題に同時に取り組む」としている。筆者はこの三つの課題の「解決に向けた道筋」は次の通りだと考えている。それは、「2.リスキリング」によって、企業を成長分野への産業転換を促す際に必要な「1.労働移動」を円滑に進め、「3.賃上げ」につなげるという道筋だ。果たして、このような道筋を描き、リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのだろうか。本稿では、まず賃上げに向けた道筋を解説した上で、5年間で1兆円予算の中身を検証し、国家戦略として進める海外のリスキリング事例を参考に、賃上げの実現性について企業からの視点で考察していく。
2.「リスキリング1兆円予算で賃上げ」に向けた道筋
政府の「三つの課題(1.労働移動、2.リスキリング、3.賃上げ)」の解決に向けて筆者が考える道筋を図解したものが資料1である。前提として、低迷する日本経済の成長を促すためには、デジタルやグリーンといった新しい成長分野に企業がビジネスの活路を見出す「産業構造の転換」が必要となり、その際に既存分野から成長分野へ働き手を動かす「1.労働移動」が求められている。この労働移動を「2.リスキリング」によって円滑に行うことで、政府は「3.賃上げ」の実現を目指していると考えられる。
このリスキリングを「3.賃上げ」につなげる際、岸田首相は前述のサミットで「賃上げが高いスキルの人材を引き付け、企業の生産性向上につながり、さらなる賃上げを生むという『好循環』を機能させていく」という「賃上げによる好循環の形成」について述べた。賃上げを一時的なものではなく、継続的なものにするにはこうした好循環の形成は急務である。一方で、筆者は持続的な賃上げのためには、企業の「生産性・付加価値向上」による好循環の形成が重要だと考える。資料1の下部分にあるとおり、企業の生産性・付加価値の向上を起点として、それを原資に賃上げが行われ、より高いスキルの人材を採用できるようになる。こうした人材が活躍する分野で生産性・付加価値がさらに上がるという「持続的な賃上げに向けた好循環」を目指すべきだと考える。
企業の「生産性・付加価値向上」には様々な戦略があるが、産業構造の転換を目指す際、「成長分野での挑戦」に向けた後押しが重要となる。例えば、既存分野を持つ伝統的企業では、既存事業の生産性向上とともに、新規成長分野への拡大に果敢に挑戦するマインドを経営者が持つことが大きな一歩となる。一方で、特に成長分野でビジネスをスタートさせるベンチャーやスタートアップ企業を中心とした新興企業には、マインドの実現に向けて不足するヒト・モノ・カネ・情報等への支援が求められる。こうした「成長分野での挑戦」に必要となるリソースを社会全体で補っていくことが今後必要となっていくだろう。
3.リスキリングは賃上げに結びつくのか?
政府が賃上げを目指す背景には、平均賃金が伸びない日本の現状がある。日本では1990年代から約四半世紀にわたり賃金水準が伸び悩んでおり、国際比較においてもその傾向は顕著である(資料2)。その要因の一つに、労働市場の硬直化がある。日本では、終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムの下、従業員は企業に長期間勤めることが良しとされてきた。一方の企業も、たとえコロナ禍であっても雇用を守り、政府も雇用調整助成金等の措置で雇用を下支えするなど、社会で雇用を守る姿勢を維持してきた。その結果、労働市場の流動性が低く、賃金が伸びない状況となっている。加えて、非正規雇用比率の上昇も平均賃金の押し下げ要因となってきた。
一方、マクロ経済の観点から見ると、他の要因も見えてくる。資料3は賃金が生み出される構造を簡略化して示したものである。企業活動から新たに作り出される付加価値のうち、労働者へ分配される「人件費」を付加価値で割った割合を「労働分配率」と呼ぶ。企業の低成長により「①付加価値」が増えない、および/もしくは「②労働分配率」が上がらないことが、賃金が伸びない要因となってきた。
資料4は日本の名目GDPと労働分配率の推移(1994-2021年)を見たものである。世界金融危機(2008年)と新型コロナウィルス感染症蔓延(2020年)の影響を受け浮き沈みはあるものの、日本は「①付加価値」を示す名目GDPが長年伸び悩み、「②労働分配率」は減少傾向にある(注1)。今回、政府がリスキリングを含む投資によって賃上げを目指す際も、この二つの軸を改善していけるかがポイントとなる。つまり、企業が自社の成長分野や新規分野での事業を拡大し、そこからの収益を拡大することで「①付加価値」を増やし、企業の賃上げマインドを醸成する。そして、同時にリスキリングで成長分野への労働移動を円滑に行うことによって、前述の資料1における「持続的な賃上げに向けた好循環」を形成し、「②労働分配率」の上昇につなげるということである。
なお、少し古いデータにはなるが、経済産業省の産業構造審議会(2016年)は、産業構造の転換を促す変革シナリオに沿って企業が成長した場合の試算を示している。資料5にあるとおり、「付加価値」の指標である名目 GDP 成長率は +2.1%ポイント、賃金上昇率は +1.5%ポイント現状放置シナリオを上回るとの結果が出ている。産業構造の転換に伴って付加価値、賃金とも大きく増加する中、名目 GDP 成長率(年率3.5%)を賃金上昇率(同3.7%)が若干上回ることで労働分配率も改善することが見込まれている(注2)。こうした変革シナリオを実現し、労働移動の円滑化および賃上げにつなげるためにも、リスキリングが重要な役割を果たすことが期待されている。
また、今回の政府の施策には転職を後押しするものも含まれているが、転職で賃金は上昇するのだろうか。資料6は、転職前後での賃金の変化を雇用形態別に見たものである。正社員から正社員への転職は、男女とも約65%の人がその前後で給与は変わらない、もしくは減少している。年齢によっても異なるものの、転職しても賃金は増えにくいという事実は、日本の労働市場の実情を表しているといえる。一方、非正規社員から正社員への転職の場合、男女とも約6割が賃金が上昇している。
もちろん賃金体系の違いから上昇は当然だという解釈もあるが、「(正社員転身に向けて)スキルを磨いたうえでの転職(=リスキリング)は賃金上昇する」と前向きに捉えられる面もあろう。既に示した賃上げに必要な2つの軸(「①付加価値」「②労働分配率」)の改善を行う中で、スキルを高める労働移動、つまりは効果的なリスキリングを展開していくことにより、正社員から正社員の転職も含めた、幅広い層での賃上げを促すことが重要となる。
4.改めてリスキリングとは?
ここまでリスキリング1兆円予算による賃上げの実現のための道筋を考察してきた。では、この実現性を高めるためには、どのようなリスキリング施策を推進したらよいのだろうか。本章以降では、改めてリスキリングについて解説したうえで、その効果的な施策について考えていきたい。
リスキリングとは、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)といった大きな社会の変革で生まれる新しい仕事に、労働者が円滑に移行できるようスキルや知識を身に付けさせる企業戦略・国家戦略を指す。「個人のリスキリング」という表現も聞かれるものの、リスキリングは主に企業が主導する人事戦略であり、それを政府が支援及び協働することで国家戦略として推進する動きが広がっている。さらにリスキリングは「学び直し」と言い換えられることもあるが、「学び直しをして新しい仕事に就く」までが広義のリスキリングであると筆者は考える。後述するが、この学び直しで終わらせずに仕事へつなげる仕組みづくりが、1兆円投資における成功のカギを握る。
また、リスキリングには2パターンあると考えている(資料7)。1つは、社外への転職に向けたリスキリングであり、これを「市場リスキリング」と呼ぶことにする。もう一つは、社内の成長部署や新しい職務に移行するためのリスキリングであり、これを「企業内リスキリング」とする。
資料7が示すとおり、「市場リスキリング」は社外への転職を軸とするものであり、受け入れ企業にとっては新しい労働力の受け入れを、また結果として従業員を送り出す企業にとっても社外でも通用する人材の育成を意味する。いわば「労働力の社会共有」が企業の目的となる。労働移動の例としては、転職のほかに社外副業(注3)、ボランティア活動等が含まれる。転職するかもしれない従業員のために会社が支援するというのは、日本企業の文化としてはなかなか受け入れ難い考え方かもしれない。しかし、欧米の大企業中心に従業員の社外への移動を支援する「アウトスキリング」と呼ばれる動きも出ており、日本でも退職した従業員向けのカムバック制度等が広がり始めている。今後は従業員を囲い込むのではなく、転職や副業を中心とした企業への出入りを許容し、人材を社会全体で共有することが重要になると考える。
一方の「企業内リスキリング」は、成長部署への異動や新しい職務の遂行が目的となり、企業にとっては「労働力の高度化」と位置づけられる。労働移動の例としては、ジョブポスティング等による社内異動、在籍型出向、社内副業(注4)、社内起業等が挙げられる。リスキリングを行う目的によって、労働移動の方法は異なり、それに伴い適切な施策も異なる。ここを整理せずに議論されるケースも散見されるが、この2つのタイプを念頭に、政府や企業は支援策を講じていくことが重要である。
5.1兆円予算の中身は?
次に、政府が掲げる「人への投資」としての5年間で1兆円の中身を検証していきたい。首相が前述のサミットで発表した人への投資の3本柱は、①転職・副業を受け入れる企業や非正規雇用を正規に転換する企業への支援(労働移動支援)、②在職者のリスキリングから転職までを一括支援(転職支援)、③従業員を訓練する企業への補助拡充(学び直し支援)であった(注5)。
そこで、資料8に、この3本柱に沿って今後どのような施策が展開されるか筆者の予測をまとめた。具体的には、総合経済対策で示された施策からリスキリングに沿った施策を抜粋し(注6)、3本柱に分類した上で、前章で挙げた「市場リスキリング」と「企業内リスキリング」のどちらに該当するかを示した。
その上で、各省の令和5年度予算概算要求(22年夏頃)および令和4年度補正予算(22年12月)より、予算規模をわかる範囲で掲載している。仮にこの右枠の予算額を積み上げていくと、合計で約1900億円となる(注7)。概算要求と補正予算が混在しているため正確な数字ではないが、5年間で総額1兆円の予算を単純計算で年2000億円組むとすると、大体このような規模感になると予測する。次に各施策の内容を具体的に見ていきたい。
まず、「①労働移動支援」には、転職者や転籍、正規雇用への転換、在籍型出向、中小企業での副業といった多種多様な労働移動を実践する企業への支援が含まれている。注目すべきは、22年12月に成立した経済産業省関連の補正予算において追加された「副業・兼業支援補助金(43億円)」である。副業促進をメインとした施策として、今後、人材を送り出す企業・受け入れる企業への補助が加わることとなり、労働移動を促す強力な支援策となりそうである。
次に、「②転職支援」では、「市場リスキリング」への支援、つまり転職を主眼とした個人への支援がメインとなる。個人の支援ではあるものの、どのような学び直しをするのか、受け入れ企業とのマッチングをいかに行うか等が焦点となるだろう。岸田首相は「学び直しから転職へ一気通貫で支援していくような制度を新設」と述べており、個人が民間の専門家に転職相談できる仕組みとして人材派遣会社への支援金の拡充が予想されている。22年12月成立の経済産業省関連の同補正予算では、「リスキリング(学び直し)を通じたキャリアアップ支援事業」として753億円が計上され、今後どのような企業がどう支援していくかに注目が集まりそうである。
最後に、「③学び直し支援」については、失業者が新たな職業に就くための従来からの職業訓練支援や、従業員に職業訓練を行う企業への支援等がある。また、文部科学省の「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」では、社会人向けにデジタルやグリーン分野のプログラムを提供する大学への支援も盛り込まれた。今後、官民連携に加えて「学」との連携を推進していくこともますます重要になるだろう。前述の通り、広義のリスキリングは「学び直しをして、新しい仕事に就く」までを指す。政府の1兆円予算においても「③学び直し支援」を、いかに「①労働移動支援」および「②転職支援」によって新しい仕事につなげていくかが成功のカギとなるだろう。
6.国家戦略として推進する海外リスキリング事例
では、日本が今後、リスキリングを推進する際、どのように施策を拡充・新設していけばよいだろうか。国家戦略としてリスキリングを推進しているドイツ、フランス、カナダの事例を見ていきたい(資料9)。
資料9では、ドイツの雇用エージェンシーによる「AIキャリア診断を活用した国家戦略リスキリング」、フランス職業安定所とEdtechベンチャー連携による「学習伴走型・官民連携リスキリング」、そしてカナダ政府と人材育成ベンチャー協働の「AIによる労働市場分析・提案型・官民連携リスキリング」の3つの事例を紹介している。
こうした海外事例で共通しているのは、「学び直しで終わらせない仕組み」が施策に組み込まれている点である。単に職業訓練のメニューを提供する、就職先を斡旋するだけでなく、AIによるキャリア診断・労働市場分析・提案、専門家との毎週の1on1セッション等を活用し、学び直しを仕事へとつなげる仕組みが構築されている。また政府が、技術を持つベンチャー企業と協働し、AIなどの最新技術を駆使した効果的なリスキリングを行っているのも特徴である。
日本で国家戦略としてのリスキリングを展開する際も、学び直しは学び直し、仕事は仕事と支援体制が縦割りにならないよう留意しなければならない。その上で、民間企業や大学等との協働による施策を積極的に展開していくことが期待される。このように、学び直しを仕事につなげる仕組みを構築し、大企業だけでなく中小企業の従業員、非正規雇用者、女性や高齢者、潜在的な労働者も含めた多様な層にリスキリングを促していくことが、賃上げの実現性を高めるために必要となる。
7.「企業」が賃上げの好循環をリードし、「社会全体」でリスキリングを推進していくべき
リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのか。まずは、企業が主体となり2つの軸(「①付加価値」「②労働分配率」)を改善し、持続的な賃上げに向けた好循環を形成することが急務である。さらに、企業は、従業員がリスキリングを積極的に行える環境整備を行う必要がある。例えば、学び直しをして移動する意欲のあるリスキリング人材を積極的に受け入れ、社内で適正な評価・処遇を与える体制を整えるといったことも必要となるだろう。
その上で、1兆円の予算を基軸に、個人がリスキリングを積極的に行える土壌を社会全体で形成していくことが求められる。1兆円予算を投じた施策を、学び直しから仕事へとつなげる効果的ものとすることはもちろんのこと、産官学のリソースをフル活用し、社会全体でリスキリングを支援していくことが重要である。例えば、社会人が学びやすいよう、産学が連携して成長分野に関するオンラインや夜間講座の開設をすることや、海外事例のように技術を持つ民間企業と政府が連携してより効果的なリスキリングの仕組みを構築するといったことも挙げられる。最近では、日本でもリスキリングコンソーシアム(官民連携により学び直しや転職・副業等の労働移動を支援する場)が形成されており、こうしたコンソーシアムと政府および企業とのさらなる協働および社会全体での活用についても検討に値する。加えて、転職や副業、出向といった意欲的な「労働移動」は社会にとってプラスなものだという意識の醸成も必須となるだろう。
このように、企業がリードして賃上げの好循環を形成し、社会全体でリスキリングを推進していくことができれば、リスキリング1兆円予算で賃上げは「可能」だと考える。2022年、骨太の方針をはじめとした日本の政策パッケージに初めて「リスキリング」という言葉が盛り込まれ、その後5年間で1兆円もの予算が投じられることとなった。さらに、足元でも賃上げのモメンタムが形成されつつある。こうした流れを絶好の好機と捉え、今こそリスキリングによる持続的な賃上げを産官学が一丸となって実現していくべきである。
【注釈】
- 労働分配率が2008年(世界金融危機)、2020年(新型コロナ感染症蔓延)に上昇しているのは、経済的ショックにより付加価値が急激に減少したため。労働分配率は人件費÷付加価値額で計算されるため、分母の付加価値額が下がる一方、分子の人件費は下方硬直性があるため、労働分配率は上昇する。
- ①付加価値および②労働分配率も増加すれば、賃金は増加するが、労働分配率が一定でも、付加価値が増大すれば賃金は増加する。逆に、付加価値が一定でも労働分配率が上がれば、賃金は増加するということに留意したい。
- 社外副業は、社内異動や新しい職務遂行を目的に行われるケースもあるが、将来的に転職につながる可能性が比較的高いと考え、ここでは「市場リスキリング」と定義した。
- 社内副業とは、業務時間中に所属している部署以外の別部署で働くことを認める制度。将来的な異動や新しい職務の遂行が目的となるケースが多い。
- ①労働移動支援、②転職支援、③学び直し支援の名称は筆者の命名。
- 総合経済対策における「人への投資強化と労働移動の円滑化」に掲載された全施策は載せず、筆者の判断にて施策の影響範囲が大きいと考えられるリスキリング施策を抜粋。
- 総合経済対策で示された施策からリスキリングに沿った施策を抜粋し、積み上げた額が1916億円。実際に記載された全施策を積み上げた場合はそれ以上になる。
【参考文献】
- 古郡鞆子「働くことの経済学」(1998年5月)
- 厚生労働省「令和4年度版 労働経済の分析」(2022年9月)
- 内閣府「物価高克服・経済再生実現のための 総合経済対策」(2022年10月)
- NHK「“中流危機”を超えて『第2回賃金アップの処方せん』」(2022年9月)
- 電通報「“DX騒ぎ”に隠された、既存人材リスキリング(能力再開発)の重要性」(2021年10月)
- 経済産業省「新産業構造ビジョン~第4次産業革命をリードする日本の戦略~(中間整理)」(2016年4月)
- 経済産業省「令和5年度経済産業政策の重点」(2022年8月)
- 経済産業省「経済産業省関係令和4年度補正予算のポイント」(2022年12月)
- 厚生労働省「令和5年度予算概算要求のポイント」(2022年10月)
- 厚生労働省「令和4年度厚生労働省第2次補正予算案のポイント」(2022年11月)
- 内閣府「令和5年度予算概算要求の概要」(2022年8月)
- 内閣府「令和4年度第2次補正予算(案)の概要」(2022年11月)
- 金融庁「令和5年度歳出概算要求」令和5年度予算概算要求
- 金融庁「令和4年度第2次補正予算(案)について」(2022年11月)
- 文部科学省「令和5年度予算概算要求主要事項」(2022年8月)
- 文部科学省「令和4年度文部科学省第2次補正予算事業別資料集」(2022年12月)
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