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外国人雇用よくあるトラブルと対応
行政書士
佐野 誠
Q4 業務範囲をめぐるトラブルが噴出している
弊社では昨年から新たに外国人社員を雇用しましたが、業務内容をめぐり小さなトラブルが噴出しています。日本人社員では当然と思える、顧客へのお茶出しや清掃、それに社内行事への参加などをめぐり、「いちいち、これは業務なのか?」と確認されることが多く困っています。どのように対処したらよいのでしょうか
A4
日本人の社員にとっては当然と思われる業務内容について、外国人社員は「それは業務に含まれていない」と考えるケースが多くみられます。特に欧米や中国などの合理的な考えが主流の国ではこのような相違が生じることが多く、雇用前に明確な職務範囲を提示することが重要です。もちろん、すべての人に当てはまるわけではなく、日本の就労ルールをある程度知っている外国人留学生やアジア系の外国人の場合には日本人と同じ感覚で対応しても十分通じることもあります。
一般的に欧米では職務内容を非常に重要視しており、企業が求める職務に対して必要な資格、能力、業務経験、身体的特徴などを明確に記した「ジョブ・ディスクリプション」と呼ばれる職務記述書が作成されます。求人に応募する際にはこの記述を見て自分が適しているかを応募者が判断し、採用後は当然にこれに記載された職務において自分の能力を発揮できるように最適なコンディションで職務に挑むことになります。そして、この職務においてどのような業績を残したかにより、評価が決まります。そのため、自分が雇用企業でどのような役割を果たせばよいか、どのような業績を上げればよいかが明確になっています。このような環境下では、自分の専門性を高めより良い業績を上げることに集中できますが、その反面、自分に与えられた職務以外には無関心となることが多くあります。
一方、多くの日本企業では職務内容を明確にすることなく人物重視で採用を行い、その後のオンザジョブトレーニングなどを通じて専門となる配置を決定するケースが多くみられます。この場合、自分の職務内容は明確ではありませんが、雇用企業の指示に従い幅広くどんな業務でもこなしていくことが求められます。その一方で、専門性や高い業績を上げることは難しく、人柄や上司からの信頼度などで評価が決まることが多くなります。
上記はあくまでも一般的な特徴を述べただけであり、すべての企業が当てはまるとは言い切れません。また、双方にメリットとデメリットがあり、当然、どちらのほうが優れていると決めることでもありません。しかし、このような職務に対する捉え方の違いが、日本の外国人雇用においては多くの誤解を生じさせています。
欧米の考え方をもって日本企業で働いている外国人社員は、「自分の職務ではないことを求められても、十分に対応できない」、または「何でこんな仕事まで私がやらなければならないのか」というように不満を募らせます。一時的には納得したように見えても、このような状況が積み重なっていくとさまざまなトラブルとなって表れます。これを防ぐには雇用前から職務内容を明確に記述し、納得してもらったうえで採用することが最も簡単な方法です。もちろん、採用しようとする外国人社員の日本企業の理解度に応じて度合いは異なりますが、ある程度は職務内容を明確にしておく必要があります。特にトラブルとなりやすいのは、残業発生の有無、お茶出しなどの顧客対応、整理整頓などの環境整備、社員旅行や忘年会・新年会などへの参加です。すべてがはっきりと割り切れるわけではありませんが、ある程度の目安やどのような趣旨で実行しているかといった情報を提供する必要はあります。
また、当然ですが業務として全員が参加する場合には就業時間内に行う、残業の支給対象とする、何らかの手当をつけるなどの措置が必要となります。一方、業務ではなく各自の判断に任せるといった場合には、外国人社員が参加しなったことに対して咎めることは難しいでしょう。
外国人雇用を行う場合には、ある程度の合理的な考えが必要となります。形骸化している業務や行事などを見直す機会にもなりますので、会社としての対応を考えなおしてみてください。
項 目 | 欧米の働き方 | 日本の働き方 |
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1.考えの基本 |
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2.採用方法 |
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3.重視する部分 |
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4.働き方 |
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5.特 徴 |
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