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有所見率は53.2%!
〔平成26年〕ストレスチェックとの違いは?
健康診断での有所見者に対する対応

労働衛生コンサルタント

村木 宏吉

昨年12月1日から、常時使用する労働者数が50人以上の事業場では、ストレスチェックの実施とその結果報告の提出が義務付けられました。厚生労働省が、労働者の健康管理をより一層推進する取組みを始めたことになります。

健康管理の基本は健康診断です。では、健康診断において“有所見”となった社員への対応はどのようにすべきでしょうか。再検査の指示をしたのに受診を拒否している場合、どのように対応したらよいでしょうか。また、受診勧奨のやり方とともに、健康診断にまつわる会社のリスクや留意点等にはどのようなものがあるでしょうか。本稿では、これらを解説していきます。

(この記事は、『ビジネスガイド 2016年5月号』に掲載されたものです。)

1. 労働者の受診義務

本稿では、定期健康診断を中心に述べていきます。労働安全衛生法(以下、「安衛法」という)66条以下に、事業者に対する健康診断の実施義務と実施後にとるべき措置が定められています。

photo

一方、労働契約法5条には、使用者の安全配慮義務が定められています。会社側が安全配慮義務を果たすためには、労働者の健康状態を把握しなければなりません。そのためには、100%の受診率を目指す必要があります。

というのは、過労死等が典型ですが、脳血管疾患と虚血性心疾患は、定期健康診断でその予備軍が把握できるからです。高血圧、高血糖値、高コレステロール値と肥満がそれです。これらの所見が複数認められる方は、長時間労働を制限しなければなりません。過労死等の労災認定基準から、時間外労働の制限は、健康診断結果により、次の通りとすべきです。

週40時間労働を基本とした限度(1ヵ月あたり)
健康診断で所見皆無 100時間以下
健康診断で有所見 80時間以下
複数項目で有所見 60時間以下
複数で治療中 45時間以下

脳・心臓疾患は、所見がなくても突然発症することがあります。このため、筆者は、一応100時間を超える時間外労働等は避けましょうという立場をとります。これは、労災認定後の莫大な損害賠償請求を避けるためです。

実は、安衛法で健康診断について定めている第7章の標題は、「健康の保持増進のための措置」です。保持とは、現状維持です。同法1条にも「安全と健康の確保」との言葉が入っていますが、現在の我が国では、健康状態の現状維持が困難な状況にあります。なぜなら、厚生労働省が発表している定期健康診断の直近(平成26年)の有所見率は、全国平均で53.2%を示しており、半数以上の労働者に何がしかの所見が認められるのです。

ところで、労働者の中には、健康診断の受診を嫌がる方がいます。会社の指定する医師は嫌だという方と、健康診断そのものを受けたくないという方です。いずれも、何かしらの疾患を有している方が多く、その疾患を会社側に知られたくない、という場合が多いです。

しかし、法令上、事業者に健康診断の実施義務があるのと同様、労働者にはその受診義務があるのです。そのため、就業規則や安全衛生管理規程などに、労働者の受診義務を明文化しておくことが望ましいです。そうすれば、法令の根拠を基に、業務命令として健康診断の受診を命ずることができるわけです。

(労働安全衛生法66条5項)
労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。

なお、このただし書の規定により労働者が提出する健康診断の結果を証明する書面は、受診後3ヵ月以内のものでなければなりません。これは、雇入れ時の健康診断に関する労働安全衛生規則(以下、「安衛則」という)43条ただし書の規定から類推されるものです。

そして、労働者が提出する書面は、「当該労働者の受けた健康診断の項目ごとに、その結果を記載したものでなければならない」(安衛則50条)ものです。

2. 再検査の拒否に対する懲戒処分・労務提供の受領拒否

健康診断実施後に、事業者が行うべきことには、次のような事項があります。

(1)健康診断の結果の記録(安衛法66条の3)
(2)健康診断の結果についての医師等からの意見聴取(同66条の4)
(3)健康診断実施後の措置(同66条の5)
(4)健康診断の結果の通知(同66条の6)
(5)保健指導等(同66条の7)
(6)面接指導等(同66条の8)

このうち(2)は、健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師または歯科医師の意見を聴かなければならないとするものです。

そして、(3)において、医師または歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設または設備の設置または整備、当該医師または歯科医師の意見の衛生委員会もしくは安全衛生委員会等への報告その他の適切な措置を講じなければならないのです。

photo

当然のことながら、要再検査とか、要精密検査となれば、それらを受診しないことには、(3)の措置を講じる必要があるかどうかの判定ができないこととなります。

近年、大規模な交通事故などで、自動車運転者が突然意識を失うなどの事例がいくつか報道されています。自動車に限らず、業種によってはクレーンその他の機械等を操作している場合もあるわけですから、健康管理は重要です。医師等の意見によっては、懲戒処分や労務提供の受領を拒否することも必要な場合があります。

特に脳・心臓疾患は、サイレント・キラーと呼ばれるように、前触れがなく突然発症します。しかし、健康診断を受診すれば、その予備軍はある程度把握可能なのです。そのためには、就業規則や安全衛生管理規程における規定の整備が必要です。

なお、過労死等長時間労働に起因する脳・心臓疾患で労災保険の対象となるのは、次のものに限られています。

脳血管疾患 虚血性心疾患
脳梗塞 心筋梗塞
くも膜下出血 狭心症
脳出血(脳内出血) 心停止(突発性心停止を含む)
高血圧性脳症 解離性大動脈瘤
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