指針にそぐわない新卒採用の実情
関 夏海(せき・なつみ)
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内定受諾意思確認書類の提出を求める企業の多さは、学生を対象に行った調査でも明らかになっています。「2016年3月卒業予定者の就職活動に関する調査(2016年6月1日状況)」では、内々定を獲得している学生に対し、入社の意思確認の有無を尋ねています。企業から内定受諾意思確認が「あった」学生は88.7%で、約9割に上ります。そのうち、意思確認方法が「内定承諾書(誓約書)等の書類提出」だった学生は59.3%でした。
経団連の「採用選考に関する指針」(2014年9月16日改定)には、大きく5つの内容がまとめられています。なかでも「1.公平・公正な採用の徹底」には、正式に内定日前の誓約書の要求について記されています。
“公平・公正で透明な採用の徹底に勤め、男女雇用機会均等法や雇用対策法に沿った採用選考活動を行い、学生の自由な就職活動を妨げる行為(正式内定日前の誓約書要求など)は一切しない。また、大学所在地による不利が生じないよう留意する。”
また、「4.採用内定日の遵守」では、
“正式な内定日は、卒業・終了年度の10月1日とする。”
と記されています。つまり、「採用選考に関する指針」に則って考えると、10月1日以降に誓約書の要求をするように、ということになります。
しかし実際には既に述べた通り、内定受諾確認書類の提出を求める企業の8割弱が、10月1日よりも前に、書類の提出を要求しています。冒頭の「緊急メッセージ」が発信された理由のひとつには、文部科学省の調査においても、学生の自由な就職活動を妨げる行為が多く報告されたためと考えられます。
今現在、「採用選考に関する指針」や、就職問題懇談会から発信のある申合わせなどを加味した採用活動をしなくても、罰則等はありません。そして、それは内定受諾確認書類においても同じで、提出があったとしても法的な効力はありません。企業には内定者の入社意思を醸成したり、入社動機を高めたりできる施策がますます必要となるでしょう。
【参考資料】2016年度新卒採用に関する企業調査(2015年6月状況)
調査対象:2016年度の新卒採用を行う企業の新卒採用業務担当者生
有効回答者:1,000名
調査期間:2015年6月13日~15日
【参考資料】2016年3月卒業予定者の就職活動に関する調査(2015年6月1日状況)
調査対象:2016年3月卒業予定で、民間企業への就職を希望している大学4年生・大学院2年生の男女
有効回答者:623名
調査期間:2015年6月1日~3日
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●文/関 夏海(せき・なつみ)
2014年、株式会社アイデム入社。同年8月、人と仕事研究所に配属。賃金に関する統計・分析を担当。人と仕事研究所WEBサイトで発信している労働関連ニュースの原稿作成なども行っている。
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