第1回人材育成シンポジウム
~ 経営に貢献する人材マネジメントを目指して
2011年2月3日(木)・4日(金)に、社団法人日本能率協会が主催する「第1回人材育成シンポジウム」が開催されました。多くの企業の人材育成担当者 や、社内インストラクターが参加した、本シンポジウム。セッションではさまざまな事例や研究結果が報告され、盛況のうちに終了しました。『日本の人事部』 編集部では、初日の2月3日の模様を取材。セッションの一部を、レポートとしてご報告します。
日時 | 2011年2月3日(木)・4日(金) |
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場所 | 東京コンファレンスセンター・品川 |
趣旨 | 経営に寄与する人材育成部門を目指し、人材育成責任者・担当者や社内インストラクターが一堂に会し、その専門知識・スキルの習得を行なう。その一環で、人材育成のベストプラクティスとその成功要因を学ぶ場として、能力開発優秀企業賞受賞企業の取組み事例を紹介する。 |
参加対象者 | 企業の人材開発部門責任者、担当者、社内インストラクター |
オープニングセッション
オープニングセッションでは、まず、「第23回 能力開発優秀企業賞」(※1)の表彰式が行われました。「本賞」をあいおいニッセイ同和損害保険株式会社、「特別賞」を株式会社エイチシーエル・ジャパ ン、富士通株式会社の2社が受賞。それぞれの企業の代表者が、受賞の喜びを語りました。
受賞企業・テーマ | |
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(※1)能力開発優秀企業賞:企業内の能力開発活動を通じて、体質が改善・強化された優秀な企業または事業所を表彰することにより、産業界に有効な能力開発のあり方を広く普及することをねらいとして、1988年度に社団法人日本能率協会が創設した賞
続いて、能力開発優秀企業賞の審査委員長で、慶應義塾大学総合政策学部教授の花田光世氏から、『受賞企業の事例に見る、経営に貢献する人材育成のキーポイント』と題し、「能力開発優秀企業賞」を受賞した各社についての講評がありました。各社が受賞した理由、評価のポイントなどについて、「多様性への対応」「個の主体性とチャレンジ」「価値創造」に分類し、解説されていました。
次に、前世界銀行・副総裁、西水美恵子氏による『グローバル時代に求められる真のリーダーシップとは~一人ひとりの信念が組織を変える』と題した特別講演が行われました。
「人の世に不変なものは変化のみ」。講演はこの言葉からスタートしました。世界銀行の職に就いていた際、多くの発展途上国で貧困解消のために尽力していた西水氏。特にブータンから学んだことは多く、先述の言葉もブータン国王から教わったそうです。
西水氏は、世界銀行で組織の意識改革の難しさに直面し、くじけかけていた時にこの言葉を知り、怖いものがなくなった、と語っていました。
そのほかにもブータン国王からは、リーダーの基本を数多く学んだそうです。たとえば、国民総生産量より「国民総幸福量」が大切、とする考え方。これは企業経営にも当てはまります。企業経営の第一義は、社員とその家族の幸福を追求することであると強調していました。
西水氏は、「数多くの国家のリーダーや貧民との出会い、組織の中での仲間との関わり合いを通じて、リーダーシップ精神は誰にでもあることを学んだ。その精神を引き出し、開花させることこそが人づくりである」と講演を締めくくりました。
第23回 能力開発優秀企業賞 受賞企業事例発表
受賞企業事例発表では、各賞を受賞した企業の代表者によって、能力開発の具体的な取り組みに関する講演が行われました。
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
同社では、保険業界の再編、業界全体を揺るがした保険料や保険金支払いの問題など、経営を取り巻く急激な変化に対応していくため、品質向上を重視。 2007年には、「顧客本位の会社」に生まれ変わるため、また、2001年度の合併以降、真に一つの会社となるため、新たな人事制度を導入したそうです。 「品質向上は社員一人ひとりによって支えられる」という考えのもと、「全社員の業務品質の底上げ・均一化」「お客様目線の習得」「多様な人財の育成(ダイ バーシティの実現)」「上司の評価のみに依存しない人事運営」を軸とした、全社員対象の『人財育成プログラム』を構築。「全社員マスタープログラム」「新 入社員の全員損害サービス部門配属」「専門人財育成の管理・評価」「女性活躍推進」などの取り組みを行っています。 講演の最後に、同社の人事・総務担当 執行役員の金杉恭三氏が力強く語った「合併など、会社に大きなインパクトがあるときは変革のチャンス。多少大胆でも、思いきって人事制度や仕組みを変えていく必要がある」という言葉が、印象に残りました。
株式会社エイチシーエル・ジャパン
世界29ヵ国で事業を展開するグローバル企業のエイチシーエルは、「バリューゾーン」(お客様のために真の価値を創出する場所)で働く従業員を支援する理 念として、「従業員第一、顧客第二」主義(EFCS)を掲げています。2005年、「同業他社に比べて低い成長率」「マインド・シェアの低下」「マーケッ ト・シェアの低下」などの問題に直面していた同社は、変革のためのフレームワークとしてEFCSを導入。従来の組織構造を逆転させ、「従業員第一」に力を 入れた結果、業績は向上し、従業員満足度も70%上昇したとのこと。社内の透明性を高める「360度フィードバック」、従業員の能力開発のための「I- Learn」「キャリア・パワー」など、充実したシステムやプログラムを導入しています。 講演の中で、同社の日本法人 代表取締役社長のハリクリシュナ バート氏は「国籍は問わず、エイチシーエルのポリシーに共鳴した人材を採用し、自立を育みながら活用していきたい」と、熱く語っていました。
富士通株式会社
同社では、お客様と業務目線で語り、課題を解決できる人材――「フィールド・イノベータ」の育成を2007年10月からスタート。第一期生として富士通グ ループ内から150名の幹部社員が選抜され、1年間にわたり、「フィールド・イノベータ育成プログラム」が行われました(現在は、第四期生を育成中)。マ インド変革と実践を重視した同プログラムは、幹部社員の意識を大きく変革し、人間力の向上にもつながったとのこと。「お客様システムを作りっぱなしにしな い」という、トップの強い意思のもと始まったこの取り組みにより、現在、約400名のフィールド・イノベータが育ち、現場で活躍しているそうです。 「これからの時代、技術だけ持っていても、お客様の求めるニーズは満たせない。フィールド・イノベータは、プロフェッショナルとして、新たな価値を提供す る役割を持っている。組織の変革者として育てたい」という、同社 常務理事 フィールド・イノベーション本部長 山本広志氏の言葉は大変印象的でした。
ASTDインターナショナル・ジャパン研究報告会
ASTDインターナショナル・ジャパン(※2)からは、4つの委員会による研究結果の報告がありました。いずれも長期に渡る調査やさまざまな事例、インタ ビューに基づいていて、大変興味深いものばかり。本レポートではこの中から、「リーダーシップ開発委員会」による報告を取り上げます。
(※2) ASTD:American Society for Training & Development=米国人材開発機構は、1944年に設立された非営利団体で、米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置いています。約160 の支部と65,000人の会員(20,000を越える企業や組織の代表を含む)をもつ、訓練・人材開発・パフォーマンスに関する世界最大の会員制組織で す。 ASTDインターナショナル・ジャパンは、米国ASTDの日本支部で、ASTDの情報発信などを含め、各種の活動をボランティアで行っています。http://www.astdjapan.com/index.html
「リーダーシップ開発委員会」報告
「グローバルでアイデンティティを発揮するために求められるリーダーシップを開発するには? ― グローバル・リーダーシップ開発への考察と提言 ―」
「リーダーシップ開発委員会」からは、委員長の永禮(ながれ)弘之氏(株式会社エレクセ・パートナーズ 代表取締役)が登壇し、調査研究結果について報告しました。同委員会では、日本企業におけるリーダーシップ開発のあり方や課題について考察。2010年度 の調査研究テーマは「グローバルでアイデンティティを発揮するために求められるリーダーシップを開発するには?」というものです。 昨今の急速なグローバル化の進展により、日本企業にとって、グローバル市場への進出は必須課題となっています。その中で結果を出していくためには、グロー バルリーダー、特に現地を統括する優秀な「カントリーマネジャー」(海外事業所を統括する現地トップ)の育成が緊急の課題であると考え、同委員会ではこれ をゴールに定め、議論を展開してきたそうです。
同委員会では、グローバルリーダー(カントリーマネジャー)に求められるもの、また、グローバルリーダーを育成・活用していく企業に求められるものをいく つか定義し、調査のテーマとして設定。海外現地法人や外資系企業日本支社のトップまたはその経験者へのインタビュー、グローバルリーダーの育成・活用に関 する先進企業のしくみの調査などを行ってきたそうです。セッションでは多くの調査結果が報告されましたが、研究テーマの論点のひとつに「グローバルで通用 するリーダーに必要な力とは?日本人リーダーの強みと改善機会は何か?」というものがありました。
委員会ではまず、「組織マネジメント力」「戦略設定・実行力」「アイデンティティ実行力」「アイデンティティ発信力」「多様性受容力」「感性コミュニケー ション力」「正義感」という「グローバルで通用するリーダーに必要な力」の仮説を設定。その上で、日本人リーダーのリーダーシップ発揮の現状について考 え、整理を行ないました。それによると、日本人リーダーは、感情を踏まえたコミュニケーション力が強みである一方で、「不十分な判断材料や混とんとした状 況の中で論点設定して決断する力」「多様な価値観の人たちと論理的にコミュニケーションする力」については、改善の余地が大きいのではないかと考えたそう です。
その上で、実際に何人かの日本人グローバルリーダーとして活躍している人または活躍した人に対してインタビューを実施。事前に設定した仮説を検証していき ましたが、大半の人が「グローバルで通用するリーダーに必要な力」を満遍なく身につけていることがわかったそうです。その中でも、特に「判断軸をぶらさず に本質をとらえて決断する力」「組織リーダーの役割へのコミットメント、オーナーシップ意識」「利害関係が異なる多様性が高い組織内で調整、合意形成を図 る力」「社会貢献意欲」「高い傾聴力、観察力をもとに、状況や人の感情を読み取る力」が高いことがわかり、一方で、必ずしもネイティブが経営者としてビジ ネスシーンで使う水準の英語力は必要ではないという結論に達したとのこと。グローバルリーダーとして成果を上げられる人とは、先述の力をバランス良く備え ていて、その力を十分に発揮していることがわかりました。
このほかにも、さまざまな事例や調査結果の報告があり、最後には、参加者が数名ずつのグループに分かれ、「自社のグローバルリーダー候補者には、どのよう な経験を積んでもらうのが望ましいか」とうテーマで、ディスカッションを実施。短い時間ではありましたが、グローバル・リーダーシップというテーマで、活 発な議論が交わされていました。
人材育成に関するさまざまなセッションが行なわれた、今回のシンポジウム。参加された方々にとっては、たくさんの「学び」「気づき」があったことで しょう。『日本の人事部』編集部では、今後も、人事担当者としてぜひ聴いておきたい講演、参加しておきたいセミナーなどのレポートをお届けしていく予定で す。次回のレポートにもどうぞご期待ください。
<お知らせ> 社団法人日本能率協会では、2011年9月6日(火)~9日(金)に「HRD JAPAN 2011」を開催します。人事・人材育成に携わる実務化や専門家、経営者が参加するHRの大イベント。詳しくはこちらをご覧ください。