経験やスキルより「ストレス耐性」で採用する企業
人員削減で、サポートする余裕のない人事部 厳しい仕事のストレスで体調を崩す社員が増加

中途採用での主な選考基準といえば、経験・スキル・意欲・人柄などが挙げられるが、今はそこに「ストレス耐性」が新たに加わろうとしている。もちろん、以前から人柄などの中にある程度は含まれていたともいえるが、近年注目されているのは、単に忍耐強いとか前向きであるといった「気持ちの問題」よりも、仕事のストレスに耐えられる精神的なタフさ、柔軟さがあるかどうかだという。その背景には、厳しい仕事のストレスから体調を崩す社員が増え、対応する人事部も人員削減で余裕がない現実がある。

精神的にたくましい人材が欲しいのです

「先日1次面接を行ったKさんとHさんですが、残念ながら今回はご縁がありませんでした。また良い方をご紹介ください」

A社の採用担当からの「不採用」の連絡だった。A社は業界では上位の人気企業だ。2次面接に進める人材はそう多くはない。ただ、KさんもHさんも同じ業界でのキャリアはそれなりに持っていただけに、ちょっと惜しかったな…というのが私の正直な気持ちだった。

A社の採用担当者は、こんなことを言ってきた。

「部門マネジャーが面接したのですが、もっとたくましくて、精神的にタフな方がいいと言うんです。面接と同時に行った適性テストでも、少し線が細いという結果が出ていたので、今回は見送りになりました。次回は、極端にいえばスキルはなくてもいいので、そういった気持ちの強い方を紹介してください」

これには私も驚いた。これまでA社はスキルの十分な人材しか採用しない、いわゆる即戦力志向の強い企業として知られていたからだ。

そこで、私が思い浮かべたのがEさんだった。Eさんは異業種での経験しかない。ただ、中堅企業で営業を中心に一人何役もの仕事をこなしてきたタフな人材だった。このまま中堅企業で終わるのではなく、大手にステップアップしてスケールの大きい仕事をしてみたいという、野心的な転職希望者である。しかも、まだ20代と若い。

本来ならA社に推薦することはまずない人材だ。業界知識もないし、大手企業での勤務経験もない。しかし、精神的なタフさに関しては自信を持って推薦できる人材だと思ったので、まずはこのEさんを紹介して様子をみることにした。Eさんに打診すると、A社ならばぜひ応募してみたいという。

「この前、ご要望をいただいていた精神的に強い人材ですが…」

今までのように経験業界やスキルだけで書類審査されると、そこで不採用になってしまうかもしれない。そう思って、ぜひ一度直接会ってみてほしいと、特別枠としてご紹介することにした。

「わかりました。お会いしましょう」

採用担当の返事は早かった。どうやらA社内では、すでにこの特別枠での選考が進んでいるらしい。Eさんは書類選考なしで、すんなりと1次面接に進めることになった。

人材採用“ウラ”“オモテ”

企業と求職者の仲介役である人材紹介会社のキャリアコンサルタントが、人材採用に関するさまざまなエピソードをご紹介します。

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