入社直前に急病になったら
即戦力と期待していた企業も困惑
- 1
- 2
入社予定日は明日に迫ったが……
「もう起きても大丈夫なんですか」
私はお見舞いの果物を手に、横浜郊外のMさんの自宅を訪ねていた。G社に納得してもらうためにも、Mさんの現状を自分の目で確認しておくべきだと考えたからだ。スウェットの上下を着てソファにもたれかかったMさんは、見るからに元気がなかった。
「室内ではこうしていられますが、外にはまだ出られません。今も目がまわっていて……」
「では、明日の出社も難しいでしょうか?」
「そうですね。行っても仕事にならないと思います。医師の診断書は用意したので、何とか交渉してもらえませんか」
「わかりました。対応してもらえるよう、頼んでみます」
私はその足でG社に向かった。しかし、そこで待っていたのは厳しい答えだった。
「Mさんが回復するのがいつになるかわからないと本社に報告したところ、それなら別の人を探しなさい、と指示されました。Mさんにも貴社にも申し訳ないのですが、今回のお話はなったことにしていただけますか」
G社は外資系企業だ。人事部長も海外の本社の方針には逆らえないのだという。
「Mさんはまだ正式に入社されたわけではありませんが、弊社が内定を出したことで前職を退職されています。ですから慰謝料として、予定年俸の数ヵ月分をお支払いする予定です。具体的には後日、Mさんと直接やりとりさせてください」
「それは、もう決定ということでしょうか」
「そうです」
それから約1ヵ月後、体調が戻ったMさんからG社との話し合いが終わったという連絡があった。あれほど弱っていたMさんだったが、2週間もすると本来の調子に戻ったのだという。すでに転職活動も再開しているらしい。
「一安心しました。頑張ってください」
G社から支払われた慰謝料から、人材紹介会社が手数料などをもらうわけにはいかない。この場合はMさんとG社の話し合いがなんとか円満に終わったことを、素直に喜ぶべきなのだろう。
- 1
- 2