応募者の話を聞きながら眠ってしまった面接官
気に入らない応募者を次々に落とす経営トップ
面接官の失態で優秀な応募者にフラれた企業のケース
私のことを積極的に採用する気がないのでしょうか…
面接は、企業と応募者が直接触れ合う最初の場。企業が応募者を選考するのと同時に、企業側も応募者から見られ、判断される場でもある。したがって面接担当者の役割は重要だ。きちんと選考を行うことは当然だが、企業の代表として応募者に良い印象を与えることもまた必要である。最近は一次選考を人事ではなく、各部門のマネジャークラスが行うことも多い。面接担当者は企業の顔、という意識をしっかり持って臨まないと、思いがけない結果を招くこともある。
「面接が始まるまでに20分以上待たされたんです…」
「何と申し上げたらいいんでしょうか…。仕事内容などは求人票にあった通りで、希望に近いものではあったのですが、そうですねぇ、たぶん難しいような気がしますね」
企業での面接を終えての感想をお聞きしてみると、Aさんの口調は何とも歯切れが悪いものだった。
「難しいといいますと、具体的にどういったことでしょうか?」
「うーん、具体的に何がということではないんですが、あまり積極的に採用する気がないような印象を受けたんですよ。まあ、私のキャリアが足りなかったのかもしれないのですが…」
「そんなことはないと思いますけど。面接はどんな雰囲気だったですか?」
「言っても…いいんでしょうかね」
Aさんは少し考えていたようだったが、やがて少しずつ話しはじめた。
「実はですね…まず面接が始まるまでに20分以上待たされたんですよ。まあ、突発的な仕事が発生することもあるでしょうから、それ自体は気にしてないんですが、入ってこられた面接官の方がすごくお疲れのようだったんです」
「どんな感じですか」
「質問もすごく一般的なものばかりで、まさに形どおりの面接という感じだったんですが、そのうち、面接官の方が眠り始めたんですよ」
「え、面接中にですか?」
「そうなんです。じっと目を閉じていたので、そうやってこっちの話を聞いているのかと思ったんですが、その後、目を開けてちょっと慌てておられたので、たぶん眠っていたのではないかと…」
「なるほどねぇ」
たしかに、1対1の面接で相手が眠っていたら、真剣に採用する気があるのかと思うのも無理はない。場合によっては応募者が怒り出しても仕方のない事態である。
「どうしましょう。確かに失礼な話ですが、お断りされますか」
「いや、一度先方の結果を待ってみます。それから考えますよ」
Aさんはかなり大人の対応をしてくれた。
その翌日、企業側に面接の結果を聞いてみた。返事は「ご経験がマッチしないようなので、今回は見送らせていただきます」というものだった。なんとなく納得できない気もしたが、まさか「面接官の方が眠っておられたようですよ」とも言えない。
Aさんがあっさりとこの結果を受け入れて、「また次にいい求人を紹介して下さいよ」と言ってくれたのが救いだった。
「面接担当者がすごくダルそうな感じだったんです…」
もちろん、眠らなければ良いというものでもない。第一印象の良し悪しによって、採用の成否が決まってくる場合もあるのである。
「ご面接の印象はいかがでしたでしょうか」
Dさんに前日の面接の感想をお聞きしてみると、やはり面接担当者の印象が今ひとつだったらしい。
「なんかすごくダルそうな感じを受けましたが…。面接の開始時間を19時30分と遅めにお願いしてしまったせいかもしれませんが、あまり感じは良くなかったですよ」 「そうですか。たまたま昼間、お忙しい日だったのかもしれないですけどね」
Dさんの1次選考の結果は合格だった。企業からは、「ぜひ2次選考にお越しください」という連絡が入ったのである。ご本人にその結果を伝えると意外そうだ。
「そうですか。どうしようかな。やはり行ってみたほうがいいでしょうか。最初の印象であまり気が進まないというのもあるのですが…」
「それは行くべきでしょう。次回は違う立場の方がお会いになると思いますよ。前回会われた方があの会社の全てではないでしょうから、いろいろな面を見るという意味でも、ぜひ足をお運びになってみてほしいですね」
「そうですね…。でも少しだけ考えさせてください。いいでしょうか」
結局、数日待っている間に、Dさんには他の企業からオファーが出て、そちらのお世話になるということになってしまった。
結果論かもしれないが、初回の面接の印象が爽やかなものだったら、どうなっていただろう。Dさんは早い機会に2次面接に訪問していただろうから、少なくとも不戦敗の事態は免れたのではないだろうか。
本来の業務で忙しい中、並行して採用面接を行うのは大変なことだというのはよくわかる。応募者個人との相性の問題もあるだろう。しかし、やはり面接担当者は「企業の顔」なのである。優秀な人材を、ほんのちょっとしたことで逃している可能性も大いにあるのである。
社長面接で優秀な応募者が次々に落とされる企業のケース
テキパキとコミュニケーションできる人が好きなのかも…
役員面接、社長面接ともなると、人物確認や入社意思の確認…といった形式的な要素が強いケースが多いようだが、なかにはかなりユニークな面接を展開されるトップの方もいらっしゃる。自社の採用に熱心なのは良いことが、場合によっては、現場が採りたいと思っている人材を次々と落としているケースもあったりするのだ。人材紹介会社では、そういった個性的な面接への対策もご提供しているが、この対策には何といってもケース・スタディが重要。受験の順番によって有利、不利が出てしまうこともある。
「期待していた人材だったんですけど、残念です…」
「小中さん、とても残念な結果になってしまいました。本当に期待していた人材だったんですけどね…。Hさんには、誠に申し訳ないとお伝えください」
採用担当のNマネージャーの声には力がない。それはそうだろう。なかなか適任の人材がいなくて、もう半年も募集を続けていたポジションに有力な候補者が現れ、あとは社長面接だけ…というところで不合格になってしまったのである。
「なかなか難しいものですね。でも、社長様がダメだとおっしゃっているんですから、今から逆転というのは無理なんでしょうね」
「その通りです。配属予定部門では念願の人材だということで、入社後の仕事の段取りまでしていたようなのですが」
「私も残念です。でも、何が社長面接で問題になったのでしょうね。次回以降の参考にお聞かせいただけないでしょうか」
最終面接で不合格になってしまったHさんには申し訳ないが、採用を成功させるためにも今後のことを考えて情報を収集しなければならない。
「はっきりした理由はおっしゃらないので分かりません。全体に弱いというんですね。社長は営業畑の出身だから、テキパキとコミュニケーションが取れるような人が好きだとは思いますよ。そういう意味では、Hさんは落ち着きすぎていると見られたかもしれませんね」
「なるほど。もしよろしかったら、社長面接でどういう質問が出ていたかを教えていただいてもいいでしょうか。前もって準備が必要な質問があった場合には、事前に候補者の方にも、こういう質問が来るかもしれません…とお伝えしておいた方がいいかと思いますが」
「もちろんです。ただ、実は私も社長面接には同席していないんですよ。小中さん、次回の社長面接のときにお越しになりませんか。人材紹介会社の方が同席されるのは別に不自然ではないでしょう」
それからしばらくして、再度、有望な候補者の方に出会うことができた。候補者の方には、社長面接に臨むにあたって、「営業出身の社長なので、テキパキした方が好まれる」「コミュニケーション能力を見ている」というような事前情報をお伝えしてある。そのうえで、私も社長との面接に同席させてもらえることになった。もちろんオブザーバーなので、端のほうで聞いているだけである。
「今回も申し訳ありません。わざわざ来てもらったのに…」
ところが、このときもまた社長面接で不合格の判定が出てしまった。
「今回もまた本当に申し訳ありません。わざわざ来てもらったのに」
Nマネージャーは残念がっているが、私としては残念なのと同時に収穫もあった社長面接だった。社長の個性的な質問や、通常の面接では出てこないだろうという質問などが聞けたからだ。
「なかなか候補者をお出しできないポジションなので、この知識がいつ役に立つかわかりませんが、次回はうまくいきそうな気がします。がんばって候補になっていただける方を探しますよ」
それからさらに2カ月後。ようやく収集した情報を役立てるときがやってきた。候補者のGさんは、前回や前々回の候補者の方に負けない経験の持ち主である。ただ、普通に社長面接に臨んだら、意表を突いた質問などで慌ててしまうようなこともあるかもしれない。
私は、社長の予想される質問をすべて紙に書き出し、また気をつけたほうがいい回答の例なども書き上げ、Gさんと打ち合わせを行った。
「いやあ、これだけしっかり対策していただけると助かります。大体、社長面接のイメージがつかめてきました」
Gさんもやる気満々だ。そして当日を迎えた。今回も、候補者の方と一緒に面接に同席させていただくことにしている。社長の質問は、おおむね予想した通りの流れで展開していった。Gさんはやや緊張していたようだが、質問の大半があらかじめ予告されたものだから、基本は落ち着いて答えている。
そんなGさんの落ち着きぶりが気に入ったのか、社長面接の後半はしだいに和やかな雰囲気のものになっていった。
「今回は見事合格です。社長も気に入ってくれました。近日中に採用通知を発送します」
Nマネージャーもこれで一安心というところだろう。電話での声が心なしか弾んでいる。
しかし、考えてみると、Gさんとそれまでの候補者とで、それほど大きな違いがあったわけではない気が今でもしている。これが転職におけるタイミング、ご縁というものなのだろうか。