小学生を「学び続ける自走集団」に変える
ぬまっち先生流・やる気を引き出すしかけづくりとは(後編)[前編を読む]
東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭
沼田 晶弘さん
教育現場において、子どもたちの自主性・自立性を引き出すユニークな授業で注目されている小学校教諭の沼田晶弘さんは、子どもたちにさまざまなプロジェクトを任せ、知的好奇心に火をつけることで、「自ら考え、学びつづけるクラス」を実現しています(前編参照)。子どもたちから「ぬまっち」と呼ばれ、親しまれている沼田さんは、その信頼関係を一体どのように築いているのでしょうか。後編では、そのコミュニケーション手法ややる気を引き出す目標設定について、詳しくお話をうかがいました。
ぬまた・あきひろ●1975年東京生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭、学校図書生活科教科書著者、ハハトコのグリーンパワー教室講師。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞「教育ルネッサンス」に取り上げられて話題に。教育関係のイベント企画を多数実施するほか、企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。著書に『「やる気」を引き出す黄金ルール』(幻冬舎)『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)『「変」なクラスが世界を変える! - ぬまっち先生と6年1組の挑戦』(同)がある。
クラスの雰囲気がよくなり、先生がイジられることも
子どもたちは沼田さんとの間に、「先生と児童」という上下関係以上の信頼を感じているようですね。その関係性は、どのように築かれているのでしょうか。
実は、いつも第一印象がよくないんです。今でこそ、ボクがやっている授業が浸透してきたので好意的に見てくれる子もいますが、ボクの見た目がちょっとコワモテだから、最初は子どもたちとものすごく距離感がある。呼び方も、普段子どもたちからは「ぬまっち」と呼ばれているんですが、最初は普通に「沼田先生」。ボクも、子どもたちを「○○さん」と呼びます。子どもたちも一人の人間なので、いきなり呼び捨てにしたりしません。コミュニケーションを深めて少しずつ距離が縮まると、「ぬまっちと呼んでいいですか?」と言われるようになり、「いいよ。その代わり、ボクもファーストネームで呼ぶからな」と。そうやっているうちに、だんだん子どもたちがボクのことをイジるようになるんですよ。「日本が少子高齢社会なのは、ぬまっちが独身だからだ」とか(笑)。もちろん、本当にバカにしてるわけじゃなくて、愛がありますよ。そんなふうにボクのことをイジってきたとき、信頼関係の高まりを感じます。
関係性を深めるために、普段から子どもたちとはよく話すようにしています。給食のとき、多くの先生は自分の机に座って一人で食べて、残り時間を自分の仕事に充てたりしますが、ボクはいつも子どもたちと机を並べて食べます。毎日全員と交換日記をやり取りしていますし、顔を見れば一人ひとりの気分や体調も大体わかるので、声をかけることもあります。「なんか暗い顔してるじゃん。どうした?」「『朝ごはん食べるのが遅い』って怒られた」「へー、『遅い』って言われるくらい、朝からたくさん食べてるんだ。すごいな」といったように。
企業に置き換えて考えると、上下関係がなく、フラットなコミュニケーションをとることは、なかなか難しいですよね。
「上司だからナメられないように」と、高圧的な態度を取ったり、部下を叱りつけたりする人もいますよね。でも、偉そうにすればするほど、上司のいない飲みの席でどれだけ愚痴を言われていることか。
企業向けの講演を行うと、よく上司の方から部下とのコミュニケーションに関する悩みをお聞きするのですが、あまりにも部下に関わろうとしていないんじゃないかと思うんです。「今どきの若者はよく分からない」と言いながら、「これさえ押さえておけばOK」みたいな、マジックワードを欲しがっている。でも、そんなの、あるわけがないんです。
コップの中に毎日少しずつ信頼関係の水を貯めていって、表面張力ギリギリまで貯まったところに言葉をかけるから、水があふれる。それが心に響いたり、行動につながったりするんです。いくら空っぽのコップにその言葉をかけても、何の意味もありません。それに信頼の貯め方は、人によっても異なります。大げさなくらい褒めたほうがいい子もいれば、恥ずかしがり屋だから、目を見つめてニコッと笑うくらいのほうがいい子もいる。一人ひとり、性格も特性も違いますから。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。