小学生を「学び続ける自走集団」に変える
ぬまっち先生流・やる気を引き出すしかけづくりとは(前編)
東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭
沼田 晶弘さん
「係活動」は一切なし 児童が立ち上げる「プロジェクト」に任せる
「ライセンス」によって自分の努力が目に見え、周りからも評価されることで、もっと頑張ろうというやる気につながっているのですね。
同じような取り組みに、「プロジェクト」としての活動があります。ボクらのクラスには、係活動がありません。課題ややるべきこと、目標などは、すべてプロジェクト化して、子どもたちが自発的に取り組んでいます。たとえば、漢字テストの勉強。実は、うちのクラスの漢字テストは、すごく難しいんです。テストの範囲は、それまでに習った漢字全部。新聞を読むときに「漢字ドリルの○ページから○ページまでの漢字で」などということはありませんから。
普通に勉強したのでは、いい点が取れません。そこで、クラスの漢字テスト対策を始めたのが、「KTK(漢字テスト強化)」のプロジェクトメンバーです。この四字熟語一覧表は、「KTK」の子が作ったものですが、小学4年生前期までに習う漢字だけで作られた四字熟語を、自分で調べてリストにしてある。パソコンで入力してプリントしたものを、クラスみんなに配っています。これも、ボクがお願いしたわけではありません。プロジェクトのメンバーがどうすれば漢字テストの成績が上がるのかを考え、自主的に取り組んでいるんです。
プロジェクトは、どのように立ち上がるのですか。
発案者がいて、賛同者が最低1名いれば、プロジェクトの成立です。基本的には、ボクが「このプロジェクトをやりなさい」ということはありません。プロジェクトが達成されると、教室の後ろに花をつけて飾ります。教室に貼り出している紙の花は、「プロジェクト達成」の印です。
「プロジェクト」の取り組みは、以前担任していた6年1組でも行っていました。このクラスでは、小学校最後の学年だったこともあり、「卒業遠足でクラス全員が帝国ホテルで食事をし、リムジンに乗って学校に帰る」ことを最終目標に、プロジェクトを通じてさまざまなコンテストに応募し、賞金を集めたのです。ボクから「このコンテストに応募しなさい」と言わなくても、目標に向けて、みんなが自発的にプロジェクトを立ち上げ、一丸となって取り組みました。そして、最終的には貯まった賞金で、本当に「ホテルの食事とリムジン」を実現してしまったんです。卒業する時には、花の数は200を超え、壁一面が埋まっていました。
今担任をしている子どもたちは、ボクがこのクラスを見る前に受け持っていた6年1組のことを知っているから、「6年1組に負けないように、私たちは天井までビッシリ達成の花を貼りたい」と言っています。最近、その目標を達成するには、そもそも動いているプロジェクトの数が足りないことに、ようやく気づいたんです。だから今度は「PFP(プロジェクトを増やすプロジェクト)」を始めたみたいです。
なぜ、「係」として役割を分担せず、子どもたちが自主的に立ち上げる「プロジェクト」に任せているのでしょうか。
まず、自分で好きなプロジェクトを立ち上げられることが、やる気につながります。「天井まで花を貼る」ことを目指して、自分にできること、やりたいことに取り組んでくれる。「係」として役割を分担すれば、「やりたくないけどやらされている」と感じる子もいます。
そして、これは不思議なんですが、役割を決めた途端に、役割以上のことをしなくなるんです。例えば掃除の時間、「ほうき係」「ぞうきん係」「机を片付ける係」に分けると、みんなほうき係をやりたがって、突っ立ったまま「早く机を動かしてよー」と指示したりする。そのため、ボクらは掃除の時も役割を決めていません。かわりに「ダンシング掃除」といって、音楽を2曲流す間に掃除を終わらせると決めています。サビの時は一斉に踊って、それ以外の時間でいかに効率よく掃除するかを考える。そうすると、5分で掃除が終わってしまうんです。
恥ずかしがったり、ふざけたりして協力しない子はいませんか。
「ダンシング掃除」は、これまでボクが担任をしたいくつかのクラスで実施していたので、今のクラスの子たちももともと知っていて、特に抵抗はなかったようです。だけど、以前は嫌がる子もいました。「物事を斜めに見る」「失敗するかも、と心配する」「バカにされるかも、と恥ずかしがる」。やらない理由はそういった類のものです。これは子どもたちに限った話ではなく、大人でも同じです。
「それでもやれ」といったところで、人は動きません。それなら、動きたくなるように工夫する。ボクは、「バカにされるってことは、ダンシング掃除が気になっている、ということ。それをわざわざ口に出すということは、つまり『嫉妬』しているんだ」と話したんです。すると、他のクラスの子にからかわれても、子どもたちは堂々としている。結果的に、ボクらがやっていたことがテレビに取り上げられ、取材を受けるようになった。そうすると子供たちも、「俺たちが勝ったということだよな!」と、自分たちがやってきたことが間違っていなかったという自信が持てるんです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。