“人と企業のフラットな信頼関係”が日本を変える
シリコンバレー発の新しい雇用のあり方とは(前編)
東京糸井重里事務所 取締役CFO
篠田 真貴子さん
価値をもたらし合うフラットな雇用が終身信頼関係を築く
個人と企業が有期雇用を前提として「アライアンス」を結ぶためには、具体的にどのようにすればいいのでしょうか。
アライアンスのコンセプトは、個人と企業が信頼をベースにフラットな関係を築くこと。「信頼」と同時に、「フラットな関係」というポイントが重視されます。では、フラットな関係とは何でしょうか。「互恵的」という言葉がよく用いられますが、要するに、お互いにメリットがある関係、あるいはメリットをもたらしあうことが大事だとお互いに理解しあっている状態を、ここでは「フラットな関係」と表現します。ですから、これを築くプロセスとしては、企業は事業成功のために、個人は自らの成長のために、まずそれぞれの目標や成し遂げたいことを同じテーブルの上に並べ、お互いにそれが相手にどんな価値をもたらすのか、逆に相手からどんな価値が得たいのかを、はっきりと示さなければなりません。その上で、率直かつ真摯な対話を積み重ね、具体的な契約内容を詰めていきます。個人と企業が価値をもたらし合う仕事にコミットすることで、信頼関係を醸成するのが特徴です。そうして培われた絆は、仮に個人が退職しても継続される “終身信頼関係”の礎になります。
「卒業生ネットワーク」や「アルムナイ」(企業の離職者やOB・OGの集まり)とも呼ばれる、企業と退職者との“終身信頼関係”は、篠田さんが在籍していたマッキンゼーにも見られますね。
そうなんです。マッキンゼーは世界的に見ても、アルムナイの人脈づくりに秀でた企業で、この本にも事例として再三登場します。私自身、昔の同僚とは今でも親しくしていますし、仕事で教え合ったり、助け合ったりすることも少なくありません。もちろん、会社側にとってもメリットは非常に大きい。とくにマッキンゼーのようなB to Bのサービス業では、転職した卒業生を介して、その転職先と商談が生まれることがよくありますから。他の分野でも、社内の人的資源だけで、変化や競争の激しい事業環境に対応していくのはもう限界でしょう。いろいろな分野へ転職した卒業生との信頼関係を守り、育て続けることのメリットは、今後ますます大きくなっていくはずです。
アマゾン、ピクサー、リンクトインなど、興亡の激しいシリコンバレーで勝ち続ける企業を支えているのも、この「卒業生ネットワーク」だと言われています。
先日、シリコンバレーのあるメガベンチャーの経営者が来日された際、お話をうかがう機会があり、「この本を読んで考えが変わったんだ」という言葉をいただきました。かつてはその方も、社員が会社を辞めるというと、もう怒り心頭。「二度とうちの敷居をまたぐんじゃない!」というぐらい腹が立ったんですって。創業者だから、自分が育てた会社から人が離れると、自分自身を否定されたように感じるんでしょうね。「社員は自分を信頼してついてきている」という思い込みが強すぎて、裏切られた気がしたそうです。でも、それは本当のフラットな信頼関係ではありません。今ではその経営者の方も、「アライアンス」の意義を深く理解されたそうで、日本法人の社員の方によると、人事の仕組みも進め方も、実際に大きく変わったそうです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。