「配転命令権」行使の有効性判断が必要
人事異動に応じず、従来の職場に出勤する社員への対応
ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士
山田 亨
3. 配転を拒否し、従来の職場に出勤する行為の法的評価
有効な配転命令を拒否して従来の職場に出勤する行為に対する法的評価を整理すれば、以下の通りです。
(1)服務規律違反
就業規則に定める服務規律には、通常、次のような規定が含まれています。
1. 勤務時間中、所属長の指示に従い、誠実に勤務すること
2. 職場の秩序を乱すような行為をしないこと
配転命令に従わず、新しい職場に出勤しないことは、これらの規律に違反します。また、配転命令後に従来の職場に出勤す る行為は、結局従来の職場に出勤しても仕事は与えられないため、無為に過ごしたり、会社からの配転命令に従って出勤すべき旨の命令に対してこれを無視また は拒否したり、会社に対して配転命令の不当性を訴えたり、場合によっては会社を誹謗中傷する行為に及んだりすることになります。
これらの行為は、別途上記の服務規律違反を構成することになります。
(2)懲戒事由
服務規律違反は、通常、就業規則に定める懲戒事由に該当します。
また、懲戒事由として、無断欠勤、業務命令違反行為、会社の名誉や信用を毀損する行為等が定められて いることもあります。新しい職場に出勤しなくても従来の職場に出勤している場合、無断欠勤と評価できるかは議論の余地がありますが、業務命令(配転命令自 体の他、配転命令後の新しい職場への出勤命令等を含みます)違反行為に該当することは明らかです。
懲戒事由に該当する場合、会社は懲戒権を行使することが可能になります。前記の通り、懲戒権の行使 は、懲戒処分内容と手続きの双方の観点から社会的に相当なものである必要がありますが、配転命令を拒否した事案においては、懲戒解雇の相当性を認めた裁判 例が複数存在します(マガジンハウス事件、大阪ビル管理事件、ケンウッド事件、日本入試センター事件等)。
しかし、他方で諭旨解雇処分を解雇権濫用と判断した裁判例もあり(山宗事件、三井記念病院事件等)、配転命令拒否をもってただちに解雇が正当化されるわけではありません。
実務上は、いきなり懲戒解雇処分にするのではなく、最初は出勤停止などの処分に留め、それでも社員が業務命令違反を継続する場合に解雇処分にするなどの段階的対応のほうが相当性を認められやすいと言えます。
なお、仮に会社が配転命令拒否の場合の対応として懲戒解雇を視野に入れているとしても、対象社員の納 得を得るに際し、「配転命令を拒否した場合は、懲戒解雇になる」といった説明をすることは、対象社員への強迫と解されるおそれがあるので、避けるのが適当 です(損害保険リサーチ事件)。
(3)その他
配転命令拒否、従来の職場への強行的な出勤の態様如何では、刑法上の威力業務妨害罪や住居侵入罪が成立する余地があります。また、民法上の不法行為を構成 する可能性があります。ただし、正当な組合の争議行為については、労働組合法上、刑事上および民事上の責任が免責されています(同法1条2項、8条)。
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