職場のメンタルヘルス最前線 増加する“新型うつ病社員”への対処法
オフィスプリズム/臨床心理士・社会保険労務士
涌井美和子
6.コミュニケーションのヒント
対応に苦慮するケースの場合、担当者が彼らに振り回されているうちに疲弊し、うんざりした気分になっていることも少なくないでしょう。しかし、このようなネガティブな感情に敏感に反応するのも彼ら彼女らの特徴の1つですので、問題がさらにこじれないよう充分に配慮する必要があります。
人のコミュニケーションにおいては、言葉そのものが相手に伝える内容はわずか約7%、残りはボディ・ランゲージと声のトーンで、それぞれ55%、38%と言われています。つまり、うんざりしたネガティブな感情を抱えていると、知らず知らずのうちに相手に伝わってしまうのです。
より良いコミュニケーションのためには、担当者がまず自分の気持ちの整理をしてから臨むこと、感情と行動の不一致に気をつけること、などがポイントになるでしょう。
7.社会や企業の問題でもある
「新型うつ病」と呼ばれるケースが増えてきた背景には、性格形成や精神的な発達の過程でつまずいていたり、不幸な家庭環境で育っていたり(物質面では恵まれていても精神的な暴力を受けてきた人も少なくありません)、葛藤経験が少なく精神的に未熟な人が増えてきたことと無関係ではないでしょう。
しかし一方で、商品を偽装して消費者をだます企業や、二重派遣に象徴されるような、労働力の搾取に対して何も感じない自己中心的な企業が増えたことも、無関係ではないと筆者は考えます。社会規範や倫理観が弱くなり、ずるく上手に立ち回った者ばかり利を得る社会であれば、自分を見失ったり、自分の殻に閉じこもったり、はみ出ようとする者がいても不思議ではないでしょう。
人と人との関係は「鏡」だと言う人もいます。つまり、相手に問題があるのは必ずしも相手の問題ばかりではなく、自分の反応を映し出している部分があるというのです。「新型うつ病」の出現は、社会や企業の問題を映し出す「鏡」なのかもしれません。
【 参考文献 】
- 笠原嘉「軽症うつ病」講談社現代新書
- 貝谷久宣「気まぐれ『うつ』病」ちくま新書
- 「職場のうつ」アエラムック
- 香山リカ「仕事中だけ《うつ病》になる人たち」講談社
- 石井妙子「『問題社員』対応の法律実務」日本経団連出版
- 「DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引」医学書院
- Marilyn Pincus:Managing Difficult People,adamsmedia,2002.
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