職場のメンタルヘルス最前線 増加する“新型うつ病社員”への対処法
オフィスプリズム/臨床心理士・社会保険労務士
涌井美和子
3.2つのケースから
次に、典型的なうつ症状が見られる従来型のケースと、「新型うつ」と呼ばれるような対応に苦慮するケースについて、より具体的なイメージをつかむために、それぞれ典型的な例をみていきましょう(もちろん、匿名性に充分配慮するため、様々な事例を合成しています)。
A いわゆる「従来型」のケース
40代男性。既婚。食品メーカーの営業所で既存顧客営業を担当。真面目で仕事熱心、部下や後輩からの信頼も厚かった。ところが、年度末の繁忙期を越えたあたりから、顔色が悪くなり元気がなくなってきた。それでも仕事を頼まれると断れず、深夜残業が続くことも多かった。だんだん笑顔もなくなり、顔色も悪くなって痩せてきた。物忘れが多くなり、仕事のミスも続くようになったため、見かねた上司が定時で帰宅するよう勧めても、「自分のせいで仕事が遅くなってしまったので、きちんと終えてからでないと帰れません」と青い顔をしながら断るばかりだった。「自分は会社の荷物かもしれない」と深く落ち込んだり、会議でもボーっとしたりすることが多くなった。些細なミスでもひどく責任を感じ、「自分の能力不足が原因です」と自罰的な発言が目立つようになっていった。
B 「新型うつ」と呼ばれるケース
20代男性。独身。出版社で営業事務を担当していた。真面目で負けず嫌いな性格のため、仕事はできるが気分にムラがあり、日頃から会社に対する不満も多かった。あるとき上司がBさんの業務態度を注意したことをきっかけに、会社を休むようになってしまった。数日後、Bさんから「うつ状態のため休養を要す」という診断書とともに休職願いが郵送されてきた。びっくりした上司が本人に電話したところ、「出勤前になるとうつ症状がひどくなるので、出社が不可能。主治医からは仕事のストレスが原因と言われたが自分もそう思う。ついては、傷病手当金の手続きをお願いしたい」ということだった。結局Bさんは数ヵ月の休職に入ったが、心配した上司がたまに電話を入れても、悪びれる様子もなく「気晴らしが必要だと言われているので趣味のゴルフは続けている」と語るのだった。さらに、しばらく電話が通じず心配していたところ、「せっかくの機会だし、療養をかねてハワイでパラセーリングとゴルフをしてきました」などと、あっけらかんと話すのだった。
4.「新型うつ」の特徴
典型的なうつ症状がはっきり見られない「うつ病」については、これまでも笠原嘉氏などをはじめ、様々な専門家が指摘してきました。「新型うつ病」については、前述の通り便宜上つけられた名称で学問上の定義も曖昧ですから、ここではあくまで人事労務管理上の実務的な視点から、その特徴を列挙してみたいと思います。
【 「新型うつ」の特徴 】
- 自分の好きな仕事や活動の時だけ元気になる(うつ症状が軽くなる)
- 「うつ」で休職することにあまり抵抗がなく、休職中の手当など社内制度をよくチェックしていて、上手に利用する傾向がある
- 身体的疲労感や不調感を伴うことが多い
- 自責感に乏しく、他罰的で会社や上司のせいにしがち
- どちらかというと真面目で負けず嫌いな性格
典型的なケースとしては、不本意な人事異動や仕事のストレスをきっかけに「うつ病」になり、自分から進んで診断書を提出・休職し、休職中も趣味の活動を続 けたり海外旅行に出かけ、復職の段階になるとすっきり回復せず、ズルズルと休みを繰り返す、などのようなイメージだと思われます。
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