男女別にみたミドル(40代後半~50代前半)の転職状況
~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子氏

要旨
転職がミドルシニアに広がり、企業間で人材獲得競争が活発化すれば、働くミドルシニアから見ると、より「働きがい」や「働きやすさ」を実感できる職場に移るチャンスが増えていく可能性がある。そこで本稿では、ミドル(40歳代後半~50歳代前半)の直近の転職状況について、政府統計を用いて分析した。
まず、厚生労働省の「雇用動向調査」からミドルの転職者を職業別にランキングすると、40代後半では1位「専門的・技術的職業従事者」(開発・設計など)、2位「生産工程従事者」(生産工程で行われる仕事)、3位「事務従事者」の順だった。この三つの職業は、就業者数はほぼ同じだが、転職者数は1位と2位以下で差が開いていた。働く人に、専門技術や高度な職務経験があるかどうかで、転職機会に差がついていると考えられる。
40代女性の転職者数を職業別に見ると、1位は「事務従事者」。女性の場合、事務の就業者数が圧倒的に多いことが影響していると考えられるが、事務の中途採用を行った企業への調査では、採用理由の2番目に、「即戦力としての期待」が挙がっていたことなどから、事務の中でも、コーポレート職種のような専門スキルのある女性たちが多く転職していると考えられる。
50代前半男性は、そもそも団塊ジュニア世代で就業者数が多いこともあり、転職者数も40代後半より多い。職業別では、就業者数が3位の「専門的・技術的職業従事者」が転職者数1位となっており、やはり専門知識や技術があることが転職機会に関連していると考えられる。50代前半女性も、団塊ジュニア世代で40代後半女性より就業者は多いが、転職者数は少なかった。女性の場合、高度なスキルや職務経験がある人を除いては、一般的には50代では転職が難しくなるのが実態と言えそうだ。
また、いずれのカテゴリーでも「管理的職業従事者」(管理職)の転職者数は、就業者数の割に多く、やはり専門知識・技術や高度な職務経験の保有が、ミドルの中途採用では重視されていると言える。
一方、転職者数を産業別にランキングすると、いずれの性・年齢階級でも、人手不足の産業が概ね上位となっており、欠員補充のために中途採用を増やす企業が多いと考えられる。
転職によって賃金が増えたミドルがどれぐらいいるかを分析すると、性・年齢階級別では、「増加」が「減少」より多いのは、40代後半男性と50代前半男性。「減少」が多いのは、40代後半女性と50代前半女性だった。ただし女性の場合、転職の際に、賃金よりも、柔軟な働き方ができるかどうかを優先する人が多いと考えられるため、賃金面だけで評価することには限界がある。
産業別に、転職後の賃金変動の構成割合を見ると、「建設業」や「運輸業、郵便業」では概ね、賃金が増加した人の割合が、減少した人の割合よりも大きかったが、「医療、福祉」では概ね、減少した人の割合が大きいなど、同じように人手不足が深刻な産業であっても、賃金変動の状況には差があった。高度なスキルや経験を必要とする組織やポジションで求人を出す場合、転職者が条件を満たしていなければ、賃金は減少する可能性がある。
働く人の側から見れば、「人手不足だからミドルでも転職できるだろう」と安易に考えるのではなく、別組織でも応用できるスキルを養い、職務経験を積むことが重要だと言えるだろう。
1――はじめに
転職は従来、若年層以外には厳しいという見方が強かったが、近年は人手不足の影響で、ミドルシニアにもハードルが下がってきていることを、筆者の既出レポートで説明した 1。今後さらに、企業間で人材獲得競争が活発化すれば、働くミドルシニアにとっても、より「働きがい」や「働きやすさ」を実感できる職場に移るチャンスが増えていくだろう。そこで、シニア(50代後半~60代前半)の転職状況を分析した前稿 2 に続き、本稿では、ミドル(40歳代後半~50歳代前半)の直近の転職状況について、実際にはどのような産業や職業に転職しているのか、どういった転職をすると、賃金アップする可能性が高いかなどにつて、政府統計の分析結果から報告する。
1 坊美生子(2025)「男女別にみた転職市場の状況~中高年男女でも正規雇用の転職や転職による賃金アップが増加」(基礎研レポート)
2 「男女別にみたシニア(50代後半~60代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~」(基礎研レポート)
2――ミドルの就業状況
2-1│ミドルの人口と就業者数
ミドルの転職状況について分析する前に、現状でのミドルの就業状況を確認しておきたい。この世代の最大の特徴は、年間出生数が200万人を超えていた「団塊ジュニア世代」が、50代前半に含まれているため、他の世代に比べて就業者数が多いことである(図表1)。総務省の「労働力調査」(2024年)によると、「50~54歳」の就業者数は、男女合わせると841万人で、すべての年齢階級の中で最大である。また、より上の世代に比べると、女性の社会進出が進み、女性の就業率が上昇したことも特徴である。男女別、年齢階級別のミドルの就業者数や就業率などは図表2に示した。
因みに、年間出生数が120万人前後に低下した「25~29歳」の階級だと、就業率は「50~54歳」と大きな差はないが、就業者数は男女合わせて572万人に減少する。このような急激な少子化が、各産業に人手不足をもたらし、ミドルシニアに対する採用拡大につながっていると言える。
2-2│就業者数の職業別ランキング
次に、ミドルが就いている具体的な職種を確認する。同じく総務省の「労働力調査」(2024年)より、「45~49歳」と「50~54歳」の就業者数を職業別にランキング(「45~49歳」の就業者数による順位付け)したものが図表3である。なお、「就業者」には、自営業者や企業の役員なども含まれる。
まず男性について見ると、「45~49歳」では就業者420万人のうち、「専門的・技術的職業従事者」(開発・設計など)と「生産工程従事者」(生産工程で行われる仕事)と「事務従事者」がいずれも全体の2割弱で、ほぼ肩を並べている。トップの「専門的・技術的職業従事者」の内訳を見ると、「技術者」、「保健医療従事者」(医師や看護師、理学療法士など)、「教員」、「その他の専門的・技術的職業従事者」(研究者、弁護士、保育士など)の4分類のうち、「技術者」が半数以上を占めている。
4位は「販売従事者」であり、その内訳を見ると、「商品販売従事者」(販売店員など)、「販売類似職業従事者」(不動産仲介など)、「営業職業従事者」(金融・保険営業職業従事者、医薬品営業職業従事者など)の3分類のうち、「営業職業従事者」が大部分である。
次に「50~54歳」を見ると、首位が入れ替わって「事務従事者」が最大の82万人に上る。次いで「生産工程従事者」、3位が「専門的・技術的職業従事者」である。この三つは男性全体でも三大職業であり、ミドル男性でもやはり三大職業である。
就業者数に対する各職業の構成割合は、「45~49歳男性」も「50~54歳男性」も大きな違いはないが、「管理的職業従事者」に関しては「50~54歳」の方が、構成割合が0.7ポイント高い3.3%である。因みに、男性の中で最も「管理的職業従事者」の割合が高くなる年齢階級別は「60~64歳」(5.4%)である。また、タクシー運転手を含む「輸送・機械運転従事者」も「45~49歳」よりも「50~54歳」の方が1.3ポイント上昇して7.0%となる。因みにタクシー運転手は、役職定年や定年退職後に入職する男性も多く、年齢階級別でみると「輸送・機械運転従事者」の構成割合は「65~69歳」で最も高い9.4%となる。
次に女性について見ると、「45~49歳」では就業者358万人のうち、最大の119万人が「事務従事者」であり、全体の3割を超える。事務は、女性の25歳から60歳未満のすべての年齢階級で3割前後を占めており、女性の最大の職業であるが、中でも就業数に占める構成割合が最大となるのが「45~49歳」の33.2%である。2位は「専門的・技術的職業従事者」だが、内訳を見ると、男性と違って、半数近くが「保健医療従事者」(医師や看護師、理学療法士など)、3割強が「その他の専門的・技術的職業従事者」(研究者、弁護士、保育士など)であり、「技術者」は1割未満だった。
女性の「50~54歳」でも、やはり「事務従業者」がトップで、全体の3割以上を占める。その内訳を見ると、「一般事務従事者」、「会計事務従事者」、「その他の事務従事者」の3分類のうち、「一般事務従事者」の構成割合は「45~49歳」より下がるが、「会計事務従事者」は上がる。同じ事務職の中でも、「一般事務」に就く女性の方が、離職が早いと言えそうだ。「50~54歳女性」の職業の2位も「45~49歳」と同様に、「専門的・技術的職業従事者」であり、やはり、内訳は「保健医療従事者」と「その他の専門的・技術的職業従事者」が多い。
就業者数に対する各職業の構成割合を、「45~49歳」と「50~54歳」で比較すると、「50~54歳」の方が、「専門的・技術的職業従事者」が2.2ポイント低下するのに対し、介護サービス職業従事者などの「サービス職業従事者」は1.5ポイント上昇する。
2-3│雇用者数の産業別ランキング
次に、就業者から自営業者などを除いた「雇用者」(役員を含む)の人数について、産業別に順位付けしたものが図表4である。まず男性は、「45~49歳」では雇用者384万人のうち「製造業」が4分の1を占める。これに「卸売業,小売業」と「建設業」が続いている。「50~54歳」でも上位の順位は変わらないが、全雇用者に占める構成割合を見ると、「製造業」では「45~49歳」より「50~54歳」の方が9.0ポイント小さい。
次に女性は、「45~49歳」では雇用者336万人のうち「医療、福祉」が3割弱を占める。すべての年齢階級を合わせても、「医療、福祉」の雇用者は4人のうち3人が女性であり、女性中心の産業であるが、ミドルの雇用者数に関しても同様の傾向だった。2位以下は「卸売業,小売業」と「製造業」が続いている。女性の場合も、「50~54歳」でも「45~49歳」と上位は変わらないが、トップの「医療、福祉」の内訳を見ると、「45~49歳」よりも「50~54歳」の方が、「医療業」はやや減少し、「社会保険・社会福祉・介護事業」がやや増加している。「社会保険・社会福祉・介護事業」は、年齢階級別にみると、「50~54歳」の雇用者数が最大である。
3――ミドルの転職状況
3-1│転職者数の職業別ランキング
ここからは、厚生労働省の「雇用動向調査」より、直近のミドルの転職状況についてみていきたい。なお、同調査は、雇われている人に関する調査であり、転職によって自営業者や役員になった人は含まれない。
始めに、ミドルの転職を職業別に分析する。同調査より、常用労働者 3 のうちパートタイムを除く「一般労働者」について、転職者数の職業を、男女別に順位付けしたものが、図表5である。なお、ここで指す職業は、転職後に就いた職業である。
まず「45~49歳男性」では、全体の転職者15万4700人のうち、「専門的・技術的職業従事者」が最大の約4万3100人である。図表3で見たように、45~49歳男性では75万人が従事する最大の職業であり、母数が大きい影響が考えられる。ただし、就業者数で言えば、「生産工程従事者」と「事務従事者」も同規模だったが、転職者数は比較的少ない。本人に、専門的な技術や高度な職務経験があるかどうかで、転職者数に差がついていると考えられる。「管理的職業従事者」は、図表3でみたように、就業者数は約11万人と比較的少ないが、転職者数は2万3700人で、職業別の順位は3位となっている。やはり、専門的な知識や技術、高度な職務経験がある職業が、転職しやすいと言えるだろう。
「45~49歳女性」について、まず全体の転職者数に着目すると14万3,200人。男性に比べて、就業者数は60万人以上少なかったが、一般労働者の転職者数は約11万人差しかなく、女性の方が、雇用が流動的だと言える。出産退職後に再就職するケースが多いことや、より家庭と仕事を両立しやすい職場を求める人が多いことなどが、影響している可能性がある。
職業別の順位を見ると、「事務従事者」がトップ、次いで「専門的・技術的職業従事者」となっている。事務従事者は就業者の母数が多いことが関連していると見られる。前稿で紹介したように、厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」によると、「事務的な仕事」の転職者を採用した事業所が「採用した理由」では、「離職者の補充のため」(58.5%)に次いで、「経験を活かし即戦力になるから」(42.0%)が多いことから、同じ事務職の中でも、経営管理や人事、財務、法務など、いわゆる「コーポレート職種」と呼ばれるような分野で、専門スキルや実績がある女性が、転職を果たしている可能性がある。
職業別順位3位の「サービス職業従事者」には、「介護サービス職業従事者」や、「飲食物調理従事者」、「接客・給仕職業従事者」などが含まれる。
次に、「50~54歳男性」を見ると、転職者数は約15万600人。1で説明したように、「45~49歳男性」よりも、就業者数が多いこともあり、転職者数もやや多い。職業別に見ると、就業者数が3位の「専門的・技術的職業従事者」が首位だった。次に多いのが「管理的職業従事者」であり、ここでもやはり、高度な職務経験がある管理職は、転職市場のニーズが大きいと言えるだろう。
「50~54歳女性」を見ると、転職者は約10万6900人。図表3でみたように、「45~49歳女性」よりも就業者数は多いが、転職者数は少ないことが分かった。女性では、高度なスキルや職務経験がある人を除いては、50代前半になると、一般的には転職が難しくなると言えそうだ。
職種別に順位を見ると、首位は母数が最大の「事務従事者」、2位は「専門的・技術的職業従事者」、3位は「サービス職業従事者」で、順位自体は45~49歳と同じである。1、2位を見ると、やはり、専門スキルのある人が多く転職していると考えられる。なお、順位は6位だが、「管理的職業従事者」の転職者は約4900人。図表3でみたように、労働力調査によると、50~54歳女性の「管理的職業従事者」は約2万人に過ぎない。雇用動向調査と労働力調査では、「管理的職業従事者」の対象範囲や調査時期などに違いがあり、正確な意味では労働力調査の就業者数が「母数」だとは言えないが、50代前半の女性管理職は、転職が活発だと言って間違いないだろう。
3 期間を定めずに雇われている人や、1カ月以上の期間を定めて雇われている人。
3-2│転職者数の産業別ランキング
次に、同じく厚生労働省の「雇用動向調査」から、ミドルの転職について、産業別に分析する。まず「45~49歳 男性一般労働者」では「製造業」がトップ。図表4で見たように、雇用者数がトップであることが関連しているだろう。2位の「医療、福祉」は、雇用者数では6位だったが、転職者数は2位に躍り出た。「医療、福祉」の内訳を見ると、「社会保険・社会福祉・介護事業」が過半数だった。
厚生労働省の「労働経済動向調査」(令和6年11月の状況)によると、1位から4位までの産業は、企業側の人手不足感が、全産業の平均に比べて強い。主に人手不足産業が、積極的に中途採用を増やしていると言えそうだ。
「45~49歳女性」の1位は、雇用者数も最多で、専門性もあり、人手不足感も強い「医療、福祉」である。2位の「製造業」、3位の「卸売業、小売業」も雇用者数が多く、人手不足感が強い産業である。「45~59歳男性」とは違って、「医療、福祉」の内訳を見ると「医療業」が過半数を占めていた。
「50~54歳男性一般労働者」では、やはり人手不足感が強い「製造業」、「建設業」、「運輸業、郵便業」が3位までを占めた。この三つの産業では、「50~54歳」の方が「45~49歳」よりも雇用者数が多く、構成割合も大きかった。「医療、福祉」の順位は8位に下がり、内訳を見ると、「医療業」が過半数となっていた。
「50~54歳 女性一般労働者」のトップは、45~49歳と同じく「医療、福祉」である。2位の「卸売業、小売業」、3位の「製造業」まで、雇用者数でトップ3の産業が占めた。
4――賃金アップした人が多いミドルの転職先
4-1│企業規模別にみた賃金変動の構成割合
次に、厚生労働省の「雇用動向調査」より、転職によって賃金増減したミドルの構成割合を、転職先区分ごとに分析する。まずは企業規模別にみたものが図表7である。
まず「45~49歳男性」を見ると、常用労働者 4 のうちパートタイムを除く「一般労働者」から「一般労働者」への転職者のうち、賃金が「増加」した人は全体の31.0%、「減少」した人は26.6%で、増加した人の方が多い。10人中7人が、転職後の賃金は「同等または増加」ということになる。企業規模別に見ると、賃金が増加した人の割合は、「300~999人」や「1,000人以上」と「30~99人」で「増加」が3~4割と大きかった。人件費に余裕のある大企業や中堅企業と、人手不足が深刻化している中小企業が、良い労働条件を示して、新設、拡大する事業の担当者を募集したり、空きポストの補充をしたりしていると考えられる。
一方、「45~59歳女性」では、同様に「一般労働者」から「一般労働者」への転職者のうち、転職によって賃金が「増加」した人が33.9%、「減少」した人が39.9%で、減少した人の方が多かった。ミドルでは、女性の方が、専門スキルや高度な職務経験がある人、管理職経験者が少ないことが関連していると考えられる 5。企業規模別に見ると、「1000人以上」と「100~299人」で「増加」の割合が4割弱と高かった。女性の場合、転職の際に「柔軟な働き方」を重視する人が最も多いため、賃金が減少しても、本人の希望に反しているとは限らないが 6、金銭面だけを見れば、ミドル女性で転職によって賃金アップする人は少数派だと言える。
次に「50~54歳男性」を見ると、賃金が増加した人は29.3%、減少した人は22.8%で、依然「増加」した人の方が多い。従来、転職で処遇が上がるのは若年層というイメージを持つ人も多かったと思うが、40代後半から50代前半のミドル男性では、実際に転職で賃金ダウンしているのは約2割だった。企業規模別に見ると、「300~999人」や「1,000人以上」で「増加」の割合が4割弱と高かった。
最後に「50~54歳女性」では、「増加」が31.9%、「減少」が39.3%で、減少した人の方が多かった。企業規模別に見ると、1000人以上で4割弱と高かったが、100~299人で5割弱に上り、突出して高かった。人手不足が深刻化する中小企業が、より良い労働条件を示して、ミドル女性を積極的に中途採用していると考えられる。管理職として、前職よりも好待遇で招いているケースもあるだろう。
4 期間を定めずに雇われている人や、1カ月以上の期間を定めて雇われている人。
5 坊美生子(2024)「『中高年女性正社員』に着目したキャリア支援~『子育て支援』の対象でもなく、『管理職候補』でもない女性たち~」(基礎研レポート)
6 坊美生子(2025)「女性管理職転職市場の活発化~「働きやすさ」を求めて流動化し始めたハイキャリア女性たち~」(基礎研レポート)
4-2│産業別にみた賃金変動の構成割合
最後に、同調査より、転職によって賃金が増減したミドルの割合を、産業別に分析したものが図表8である。まず「45~49歳男性」では、「建設業」で「増加」が6割超と圧倒的に高く、「減少」はほとんどいない。厚生労働省の「労働経済動向調査」(令和6年11月の状況)によると、建設業の人手不足感は、全産業の中で最悪であり、人員面で逼迫した企業が、良い労働条件を示して人材獲得を急いでいると考えられる。産業別転職者数で3位だった「運輸業、郵便業」も、「増加」が半数近くに上った。運送業でも運転士不足が深刻化している影響があると考えられる。産業別の転職者数が最多だった「製造業」は、「増加」が33.2%、「減少」が32.2%で、ほぼ均衡していた。同様に、人手不足感が強い産業だが、転職者のスキルや経験等によって、賃金の変化は分かれたようだ。
「45~49歳女性」では、産業別で転職者数がトップだった「医療、福祉」では、「増加」が28.5%に対して、「減少」が53.1%と過半数を占める。人手不足感が強く、専門性も高いと考えられるが、労働条件は厳しい結果となった。転職者数が2位の「卸売業,小売業」ではわずかに「増加」が「減少」を上回った。転職者数が3位の「製造業」では「増加」より「減少」の方が高かった。逆に、減少よりも増加の割合が高かったのは「金融業、保険業」で約6割に上った。金融、保険の中でも専門スキルのある女性が転職していると考えられる。
次に、「50~54歳男性」では、「建設業」は「増加」は21.9%で、45~49歳に比べると小さいが、「変わらない」が77.0%で、「減少」はほとんどいなかった。転職者数が最多の「製造業」では、「増加」よりも「減少」の方が多かった。転職者数が3位の「運輸業、郵便業」では、「増加」が42.9%、「減少」は38.2%で、45~49歳に比べると、差が縮まっていた。「医療、福祉」では、45~49歳とは逆に、「増加」が70.0%を占めた。「医療、福祉」の転職者の内訳が、45~49歳では「社会保険・社会福祉・介護事業」が過半数で「医療業」は少数だが、50~54歳では逆転することが、影響している可能性がある。
「50~54歳女性」では逆に、「製造業」で「増加」の割合が6割弱に上った。設計や開発部門で専門技術のある女性が賃金増加しているというよりも、企画や人事など、事務系のコーポレート職種で専門スキルを持つ女性が、管理職層への就任を含め、好待遇で転職しているとも考えられる。「運輸業、郵便業」と「金融業、保険業」でも「増加」が7割を超えた。
5――終わりに
本稿では、直近のミドルの転職について、具体的な状況をみてきた。始めに述べたように、従来は、「転職で成功するのは若年層」という見方が強かったように思うが、4で述べたように、ミドル男性では、転職によって賃金が増加する人の割合が、減少する人の割合を上回るなど、賃金面で「転職に成功した」と言える人が、ミドルにも増えてきたと言えるだろう。
ただし、詳細に見ると、属性によって違いがあるので注意が必要である。第一に、ミドル女性については、転職によって賃金が減少した人の方が、増加した人よりも多い。ただし、ミドル世代の女性は、「仕事と家庭の両立」へのニーズが大きく、賃金よりも、在宅勤務やフレックスタイムがしやすくなったり、転勤がなくなったりするなど、働きやすさの向上を優先している人も多い。従って、女性の転職の成果に関しては、本稿の分析だけで評価するには限界があり、別の視点で調査、分析する必要があるだろう。
転職者の職業別ランキングからは、いずれの性・年齢階級でも概ね、専門的な知識・技術や高度な職務経験がある人が、転職機会が多いと言えそうである。一方で、産業別の転職者数ランキングを見れば、人手不足の深刻な産業が上位に多く、専門性の有無に限らず、人員補充のために、中途採用を増やしているケースも多いと言えるだろう。
転職による賃金変動を見ると、「建設業」や「運輸業」の男性では賃金の増加が減少を上回った一方で、「医療、福祉」の女性や、「製造業」の50代男性では減少が上回るなど、同じ人手不足産業であっても、賃金変動には違いがあった。産業や職種によって、高い専門性が求められる組織やポジションでの採用は、たとえ人手不足であっても、企業側が求める技術レベルや経験を転職者が保有していなければ、賃金は減少するとも考えられる。
転職する人にとっては、安易に「人手不足だからミドルでも転職できる」と考えるのではなく、別組織に移っても応用できるようなスキルを養い、職務経験を増やしておくことが重要だと言えそうである。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
https://www.nli-research.co.jp/?site=nli


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