週休3日で働くということ
リクルートワークス研究所 村田弘美氏
「金曜日は、1週間の業務の調整日。仕事の状況に合わせて、休む、半日、フルタイムで働くという選択をします」と、北欧企業への取材では、それが当たり前のように話していた。いわゆる自己裁量の圧縮労働制である。取材後、自分も自主的な週休3日制を開始して3年目になる。
2021年4月には、リクルートも週休約3日制(正確には2.8日)が可能な休暇制度を導入した。年間の所定労働時間は変えず、1日の労働時間は長くなるが、リモートワークは通勤時間がないため、稼働時間はさほど変わらない。業務の性質によって、全社員に適用できるとは限らないが、導入にあたっては世界にあるさまざまなカタチの「週休3日制度(週4日勤務)」(以下、週休3日制)の事例を参考にしていただきたい。
週休3日制の3つのタイプ
2021年6月、政府の「経済財政運営と改革の基本方針」は、多様な働き方の実現に向けた働き方改革の実践として、選択的週休3日制度の導入促成、普及を掲げた。近年になって、制度を導入、検討する企業も増えつつある。
主な目的は、全員一律のルールではなく、個人の働き方の自由度を高める「働き方改革」、労働時間の削減、個人のキャリア形成サポート(能力開発、学位取得、副業)、ワーク・ライフ・バランスの実現、余暇の充実(地域貢献、休息、自由時間)、シニアの再雇用、仕事のシェアリング、など企業により異なる。導入企業の実施状況を見ると、週休3日制は大きく3つのタイプに分類される。
1つ目は、週の労働時間や業務量の総量は変えない「A.圧縮労働型」、2つ目は、週の労働時間や業務量を削減し、それに給与などを対応させる「B.労働日数/時間・報酬削減型」、3つ目は労働日数・労働時間を削減し、給与などは変えない「C.労働日数/時間削減・報酬維持型」である。他には当初から週4日の労働契約をする時短やパートタイムの社員制度がある(図表1)。
各タイプの特徴を挙げると、「A.圧縮労働型」は、1日当たりの労働時間が長くなるため、従業員の長時間労働や健康管理に留意する必要がある。「B.労働日数/時間・報酬削減型」は、目的にもより異なるが、企業側の業務調整目的の場合、報酬の削減を補填するために副業を認める企業もある。「C.労働日数/時間削減・報酬維持型」は欧州企業に多く見られるもので、労働時間は削減するが、労働生産性を上げて業績や品質を維持させる、業務改善の施策をとる、必要に応じて代替人材を採用する、テクノロジーを導入するなど、業種や職種などによって三者三様の施策をとっている。
アイスランドのトライアルは「成功」
近年、欧州では賃下げをせずに労働時間を短縮する週休3日制への関心が高まっている。テクノロジーの進化もあり、パンデミック以前の働き方に戻りたくないと考える人も多く、労働時間の短縮を求める声は「ニューノーマル」の定義に関わりつつある。週休3日制は、欧州各国で議論され、世界中でさまざまなパイロット・プログラムや試行が進められている。
英国のシンクタンクのAutonomyとアイスランドの研究機関Association for Sustainability and Democracy(Alda)が2021年6月に発表した報告書「GOING PUBLIC: ICELAND’ S JOURNEY TO A SHORTER WORKING WEEK」では、アイスランドのトライアルが画期的な取り組みであるという。
アイスランドは他の北欧諸国と比べて、労働時間が長く生産性が低い、ワーク・ライフ・バランスの充実度も低いという課題を抱えていた。そこでレイキャビック市議会とアイスランド政府は2015~2019年に労働時間を短縮する2つの大規模なトライアルを実施した。2500人以上の労働者(労働人口の1%超)が参加し、多くは週労働時間を40時間から35~36時間に短縮し、生産性の維持や向上、ワーク・ライフ・バランスの改善を目指した。労働時間の短縮に伴う賃下げは行っていない。トライアルの対象は当初9時17時勤務者であったが、のちにシフト勤務者や保育園、社会サービス事業者、病院等の職場で働く労働者に拡大した。
トライアルの結果、多くの職場で、生産性やサービスの提供は維持、向上した。ストレスや燃え尽き症候群、健康、ワーク・ライフ・バランス等、さまざまな指標において労働者のウェルビーイングは劇的に改善したという。この成功をきっかけに、労働組合や連合は多数の組合員の労働時間の恒久的な短縮を実現した。アイスランドの労働人口のおよそ86% がトライアル以降も労働時間を短縮している。
欧米各国でパイロット・プログラムが始まる
デンマーク、スウェーデン、スペイン、アイルランド、ベルギー、米国、カナダの7カ国でも、これまでに週休3日制のトライアルを実施している。「A.圧縮労働型」では、デンマークのオシェーレト市、スウェーデンの介護施設、米国のユタ州、テキサス州、コロラド州のボルダー郡、ウェストバージニア州、カナダのノバスコシア州、オンタリオ州が実施した。「C.労働日数/時間削減・報酬維持型」では、ベルギーのサン=ジョスで短縮した労働時間の相殺や労働者の世代間における職の分布の改善を目的として、若年者を新規採用して対応したという。
アイスランドの成功を受けて、2022年にトライアルを開始する国もある。スペインは、2022年にコンサルティング、法律、プログラミング、テレマーケティング、建築分野の200社以上の企業が実施する。スコットランドは、1月から実施している。アイルランドでも、1月から6カ月間実施し、労働組合、非営利団体、企業、学者など、非常に多くの組織が、今後の働き方についての可能性を探っているという。
また、ドイツでは、2018年から金属産業と電気産業で週4日勤務制が実施されているが、賃金の補償はなく、いまも交渉が続いている。オーストラリア、ニュージーランド、インドでも週休3日制のあり方について議論されており、関心の高さが窺える。
週休3日制を導入した企業
ここまで各国の萌芽事例を紹介したが、デスクリサーチ上では、世界で既に56社以上の導入企業があり、生産性向上や従業員の自律性、ワーク・ライフ・バランスの維持などで、成果を上げている企業も多い。また、トライアルを機に業務を見直して改善するなど、より最適な働き方のための工夫がされている。導入にあたり、雇用主が曜日を固定する場合は導入、運用しやすいが、個人裁量では周囲との調整やコミュニケーション、顧客の理解を得ることが難しいことが明らかになっている。他にも1日単位の労働時間の管理や健康管理など、配慮すべき点は多い。総じて、労働者の導入意向は高く、生産性向上や労働時間短縮への意識が高まっており、トライアル導入を検討する意義はある。
「働く」ことのスタンダードが変わる日は近いかもしれない。
出所:取材、記事をもとに筆者作成
リクルートワークス研究所は、「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会の創造」を使命に掲げる(株)リクルート内の研究機関です。労働市場・組織人事・個人のキャリア・労働政策等について、独自の調査・研究を行っています。
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