今春から改正健康増進法が全面施行!
企業がどこまでできる!?仕事中・私生活上の喫煙制限
弁護士
岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
令和2年4月1日に改正健康増進法および東京都受動喫煙防止条例が全面施行されます。これに向けて企業および官公庁の喫煙対策が加速しています。「喫煙した職員にその後45分間のエレベーター利用禁止」、「職員のみならず来訪者にも喫煙後45分間の敷地内への立入禁止」、「通勤路の歩きタバコや会社周辺のコンビニ前での喫煙禁止」といったルールを設ける例が報道されています。本稿では、こうした近時の受動喫煙対策・喫煙対策に関して、法的にどこまで認められるか、およびその法的根拠について解説します。
1 勤務「場所」における禁煙
事務所、工場などの屋内の職場は、改正健康増進法の第二種施設「多数の者が利用する施設」(厚生労働省Q&Aによれば「二人以上」)として、①屋内禁煙、②喫煙専用室設置または③加熱式タバコ用喫煙室設置のいずれかしか認められなくなります。従前許されてきた、紙巻タバコを喫煙しながらの就業やエリア分煙・時間帯分煙などは認められなくなり、違反すると、50万円以下の過料の罰則もあります。
そのような中、こうした法規制を上回る敷地内全面禁煙や建物内全面禁煙を実施する企業が増えています。これらは、労働法上、企業秩序定立権限の一環としての施設管理権に基づいて正当化されます。
2 勤務「時間」における禁煙
近年は、「場所」での禁煙に加えて、さらに勤務「時間」中の禁煙も導入する企業や官公庁が増えつつあります。
使用者は、労働法上、企業秩序定立権限を有し、労働者の労働義務の遂行について労務指揮権および業務命令権を有します。他方、労働者は、企業秩序遵守義務を負い、労働の内容・遂行方法・場所などに関する使用者の指揮に従って労働を誠実に遂行する義務(誠実労働義務)、また、労働時間中は職務に専念し、他の私的活動を差し控える義務(職務専念義務)を負っています。これらを根拠に、使用者は労働時間中の喫煙を禁止できると考えられます。
「喫煙の自由」について判断した最高裁昭和45年9月16日判決では、「煙草は生活必需品とまでは断じがたく、ある程度普及率の高い嗜好品にすぎず、……喫煙の自由は、……あらゆる時、所において保障されなければならないものではない。」と判示し、喫煙の自由は制限に服しやすいものと解されています。
「喫煙権」の「請求権的側面」(労働者が使用者に対して喫煙場所の設置・供与を求める)は、認められません。「喫煙の自由」の「自由権的側面」(労働者が使用者に対して喫煙への不干渉を求める)は、勤務時間外や休憩時間において一定程度認められますが、受動喫煙の「他者危害性」からして、ますます制限される傾向にあります。
喫煙者労働者の離席による非喫煙者労働者の負担増や不公平感も聞かれるところであり、また、喫煙者労働者が喫煙から戻ってきた際の衣服や呼気に残留しているタバコ煙(いわゆる「サードハンドスモーク」)が非喫煙者労働者に苦痛を与えていることなどもしばしば問題となっています。
このようなことから、労働時間中の喫煙の禁止は、必要性および合理性が認められる場合が多いと考えられます。具体的な取り組みとしては、就業規則に明記するなどの周知を図ったうえで、喫煙離席を「欠勤控除」と扱うことも考えられます。
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