悪質クレームに対応する
従業員ケアの必要性と対策
弁護士
村上 元茂(弁護士法人マネジメントコンシェルジュ)
11. 企業のレピュテーションを落とすことなく「クレーマー」を撃退するまたはかわす(対応責任者に引き継ぐ)方策の従業員への教育方法
初期対応段階の従業員が対応責任者に事案を引き継ぐとしても、引き継ぐ際の対応に起因する二次クレームやレピュテーションリスクには特に注意が必要です。
そこで、全ての従業員に対して(「顧客」と「クレーマー」の判断を求めないとしても)初期対応方法の教育指導は必須であり、その際、クレーム対応マニュアルの作成と従業員研修が有効です。
まず、クレーム対応マニュアル作成のポイントは、経営陣からのトップダウンではなく、日々不当なクレームに苦しんでいる現場従業員からのボトムアップの作成とすることです。
例えば、当事務所では、まずは初期対応にあたる可能性のある現場スタッフ(対応責任者に限らない)に集まっていただき、どのようなクレーム事例が多いのか、どのような対応をすることが多いのか、クレーム対応にあたって現場として何に困っているのかについて聴取したうえ、問題となることの多い事例を中心にマニュアルを作成していきます。
なお、マニュアルの弊害として挙げられることの多い内容の硬直化を避けるためのポイントは、頻繁な改訂・改正作業をすることです。当初から完全なマニュアルを作成することは不可能であると割り切り、クレーム対応における失敗・マニュアルの不備が生じる度に内容をアップデートしていくのです。
次に、当該マニュアルを用いた従業員研修を行います。
従業員研修においては、具体的な対応方法はもちろん、クレーム対応における心構え、対応の仕方によっては炎上する(レピュテーションリスクが生じる)こと等を含め、クレーム対応全般にわたって詳細な研修をします。
そして、初期対応にあたる従業員については、別途、初期対応において処理すべき事案(例:軽微なものに限る)とその他の事案の区別、および二次クレームを発生させずに対応責任者に事案を引き継ぐ方法にフォーカスして研修を行います。
その際、企業として初期対応にあたる従業員に求めていること(一部の軽微事案を除いては、クレーム処理ではなく適切に事案を引き継いでくれればよい)を明確に伝えるのがポイントです。
12. おわりに
クレーム対応においては、従業員への過度の期待や依存は従業員をストレスに曝(さら)すだけであり、徹底したルール化による安心感の共有こそが、従業員をクレーム対応のストレスから解放するとともに企業ポリシーの理解にもつながります。
本稿が、企業が安全配慮義務の履行として不当クレーム・悪質クレームから従業員を守るための一助になれば幸いです。
【執筆者略歴】
●村上 元茂(むらかみ もとしげ)
弁護士法人マネジメントコンシェルジュ 代表弁護士。株式会社アクセア社外取締役。明治学院大学卒業、平成20年弁護士登録(東京弁護士会)。主な取り扱い分野は、クレーマー対応、消費者事件(企業側のみ)、労働事件(企業側のみ)。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。