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問題社員
“人手不足時代”の現実的な対応策

杜若経営法律事務所 パートナー弁護士

岸田 鑑彦

人手不足を背景として、問題社員に関する相談内容も以前とは変わってきました。

本来は採用しないような人物であっても、求人広告を出しても人が集まらない以上、ある程度は目をつぶって採用しなければならないのが現状です。特にその業界について知識と経験がある人物であれば、採用する会社としても教育の手間が省けて助かるため、よく精査せずに採用に踏み切ってしまいます。そして、雇ってみたら案の定、勤務態度が非常に悪く、周りの従業員や取引先とトラブルを起こしてしまうということがあります。

このような従業員に対して、従来であれば、会社も厳しく注意指導してきました。しかし、人手不足の状況においては、たとえ問題社員であったとしても戦力として使っていかなければならず、辞めてしまうのを恐れ、どうしても注意指導が甘くなります。その結果、周りの従業員への負荷が高まり、今度は優秀な従業員が辞めていくという悪循環に陥ります。

人手不足が理由で、会社が問題社員に対して抜本的な対策が打てないため、以前にも増して社内での細かい労務トラブルが増えていることを実感します。

「労働力を確保しつつ、企業秩序を維持する」

そのために会社は、問題社員との向き合い方を今一度考えなければなりません。

1 人手不足と労務トラブル

(1)権利意識の高まり

従業員も、人手不足であることを認識しているので、今まで以上に会社に対して権利を強く主張してきます。従業員自身、「自分がいなくなったら会社は困るだろう」と思っています。

もちろん会社側に明らかな非があったり、法律に違反したりしているような場合はともかく、例えば「この人とは性格が合わない」とか、「あの人から悪口を言われた」等と主張し配置の変更を求め、自身の主張が通ればそのまま働き、主張が通らなければ「会社のせいで辞めざるを得なくなった」として次の就職先が決まるまでの生活保障として、2~3ヵ月分の賃金相当額の支払いを求めてくるケースもあります。

これまでは「この職場は自分には合わないかな」と思って自主退職で終了していたような事案が、今では「会社のせいで辞めざるを得なくなった」として会社に責任追及をしてくるのです。「会社のせい」で自分はうつ病になり働けなくなってしまった(安全配慮義務違反)、うつ病の原因は上司のパワハラが原因なので会社も損害賠償義務を負う(使用者責任)等の主張を非常によく見聞きするようになりました。

長時間労働、退職勧奨、ハラスメント等、どんな労使トラブルでも、すべて会社の責任問題に発展する可能性があるのが現代の労務トラブルの実態です。

(2)現代型問題社員から派生する新たな労務問題

最近は、問題社員のメンタル不調だけでなく、問題社員への対応に疲れてしまった上司がメンタル不調に陥るケースの相談も増えてきました。

ビジネスガイド:問題社員 “人手不足時代”の現実的な対応策

上司が会社に対して、「この問題社員をどうにかしてくれ」と何度も相談していたにもかかわらず、会社がこの問題社員を自分にだけ押し付けたために、自分もメンタル不調に陥ったと主張するわけです。

本来、教育指導することが管理職や上司の役割であり、言うことを聞かない部下や折り合いの悪い社員を「何とかしてほしい」というのは、一面でワガママのようにも聞こえます。しかし、このような上司が、「これ以上は面倒見きれない」といって退職してしまうことも会社にとっては痛手となります。これは問題社員を配置転換する場合にも問題になります。配転先の受入れ態勢が整っていればよいのですが、場合によっては、配転先の上司が「そんな問題社員は受け入れたくない」と拒否するケースもあります。そういう意味では、問題社員だけではなく、それを取り巻く周りの従業員にも目を配らなければなりません。

(3)権利主張の仕方にも変化がある

問題社員に限った話ではありませんが、権利主張の方法にも変化が見られます。例えば、未払い残業代請求について、今までは退職してから残業代を請求する事案が多かったのですが、現在は在籍のまま残業代請求するケースが増えています。

在籍のまま残業代を請求してくる従業員に退職するつもりがないかというと、実はそうではないこともままあります。

経営者としては、在籍従業員から他の従業員への波及をおそれ、できることならこの従業員に退職してもらいたいという心理になります。

従業員側も経営者の心理をわかっていて、「残業代請求をした以上、会社に長く居ようとは思っていない。もし、ここですぐに社長が、私の要求した金額を払ってくれるのであれば、事を荒立てることなく退職するつもりもある」と打ち明けるわけです。

そして従業員側も、労使トラブルの解決水準に関する情報をインターネット等で仕入れているため、「これくらいもらえる」というイメージが先行しています。事案によって解決水準は変わり得るのですが、なかなかそれを従業員に理解してもらえず、紛争が長引くことがあります。

(4)従業員が労働組合を選ぶ時代に

今まではあまり考えられなかったことですが、労働組合に加入しているが、別の労働組合に加入したという通知が届くケースがあります。従業員の要求水準も上がっているのか、労働組合にお願いしたのに、方針が合わなかったり、成果が出ていなかったりと、諸々の事情で自分に合った労働組合に入り直すのです。会社としては、今までの労働組合とは良好に話合いができていたのに、新しい労働組合になってまた一からやり直しということがあり得ます。

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この記事ジャンル 人材マネジメント

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