問題社員
“人手不足時代”の現実的な対応策
杜若経営法律事務所 パートナー弁護士
岸田 鑑彦
2 問題社員対応の心構え
(1)従業員を大切にすることと甘やかすことは違う
労使関係を「円満」にするためには、会社が従業員を大切にし、コミュニケーションを図ることが大事であるということは疑いのないところです。
ただし従業員を大切にすることと、従業員を甘やかすことは違うと考えます。
従業員に嫌われたり、騒がれたりすることを恐れるあまり、本来注意指導すべき場面でそれができていないケースが目立ちます。人手不足であっても、やはり注意すべきことは注意すべきです。
もっとも、注意する際は、「社長である自分が、このタイミングで、このようなことを注意すれば、この従業員はどういう行動をとるだろうか、どういう気持ちになるだろうか」という相手の立場に立って考えることまでが求められていると言えます。
(2)「労基署に確認した」に惑わされない
問題社員に関する相談を受けていると、「問題社員が『労基署に行って確認してきた。会社の対応は違法だと指摘された』と言ってきた」というフレーズをよく聞きます。それだけ労基署に相談に行く労働者が増えているということの現れだと思います。
しかし、そのようなことを言われたとしても、慌てる必要はありません。
筆者が会社に対して法的なアドバイスをする際も、会社からの情報によってアドバイスの内容は変わり得ます。
労基署に確認してきたといっても、どのような情報を労働者が伝えたのかわかりません。もしかすると、本人の都合の良いことしか伝えていないかもしれません。したがって、どのような情報を伝えて、どのような相談をしたのかわからない以上、「労基署に確認した」からといって、直ちに会社の対応に問題があると解すのは早計です。
最近は、このような労基署経由での労使トラブルの解決事案も増えています。従業員が弁護士や労働組合ではなく、労基署に相談に行き、労基署から会社に問合わせがあり、事実上、労基署が間に入ったような形でやり取りを重ねて、最終的に労使合意に至るケースです。
(3)事案に応じて柔軟に対応する
問題社員からの要求事項について、その要求の根拠がわからないということが頻繁にあります。そういった場合、まずは請求の根拠を明らかにするよう求めるのがセオリーです。しかし、根拠を明らかにするように求められても、従業員自身よく根拠がわかっていないという場合、結局、弁護士や労働組合のところに相談に行くということになります。そうなると、本来は、労使間で話合いによる早期解決ができた問題だったかもしれない案件が、第三者が間に入ったことで解決までに時間がかかってしまうことになりかねません。ケースバイケースで、どのタイミングで解決すべきかの嗅覚が経営者やアドバイスする側に求められます。
最近では、従業員側が、あっせんを申し立てるケースも増えています。会社によっては、「あっせんで話し合ったとしても、結論は変わらないのであっせんには参加しない」という方針をとられることもあるかと思います。しかし、個人的には、可能であれば、あっせんには参加したほうが良いと考えています。話合いが纏まらないにしても、労働者側がどのような落としどころを考えているのか、どのような証拠を持っているのかがわかることがあるからです。特にあっせんの場合、弁護士や労働組合にまだ相談していないケースもあります。そうすると労働者側もきちんとした証拠の整理や取捨選別ができておらず、実は思わぬ録音や証拠があることがあっせんを通じてわかったりします。このように新たに得られる情報もあるため、あっせんに参加する意味はあると考えます。
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