106万円の壁~社会保険料の負担OK企業が増加~
古橋 孝美(ふるはし たかみ)
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今までの調査結果を時系列に並べると、平成22年版、平成24年版では共に「保険料負担が増えないよう、パート・アルバイト(※)の労働時間を適用基準未満に設定する」がトップに挙がっていました。パート・アルバイトを雇用する理由で多く挙がるのが、「人件費の抑制」です。であるならば、彼らの社会保険料負担は割に合わない、とする企業が多いのもうなずけます。
※平成27年版では「非正規雇用従業員」と聴収しています
しかし、「保険料負担が増えないよう、パート・アルバイトの労働時間を適用基準未満に設定する」企業の割合は、平成25年版では34.4%、平成27年版では20.5%と減少傾向にあり、ついに最多回答ではなくなりました。代わりに増加したのが、「保険料負担が増えても、特にパート・アルバイトの労働時間の調整は行わない」です。平成25年版、平成27年版ではそれぞれ39.2%、43.8%の回答を集め、平成27年版では「保険料負担が増えないよう、パート・アルバイトの労働時間を適用基準未満に設定する」とした企業の割合を23.3ポイント上回り、2倍以上になっています。
こうした企業の意識の変化には、長らく続いている人材不足の影響があるのではないでしょうか。パートの有効求人倍率は上昇を続けており、2016年4月では1.69倍の高水準となっています。また、平成28年5月の労働経済動向調査(厚生労働省)によると、パートタイム労働者過不足判断D.I.(「不足」から「過剰」を引いた数値)は、調査産業計で31ポイント、27期連続で不足超過となっています。
そのような状況で、企業が、保険料負担を避けるためにパート・アルバイトの就労調整を一律に行うことは、得策ではありません。適用基準に満たない労働時間・収入を想定すると細切れのシフトとなり、同じ分量の仕事を行うにも、より多くの人員が必要になってしまうからです。保険料負担を避けるためにパート・アルバイトの労働時間を調整しようとしても、そうしてしまうと、より深刻な人員不足に陥る可能性があります。
また、企業のパート・アルバイトの捉え方が変化してきたことも一因ではないでしょうか。近年の最低賃金の大幅な上昇、均衡処遇の推進などパート・アルバイトを雇用する“割安感”は失われつつあります。また、労働契約法の改正(有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約<無期労働契約>に転換できる)もあり、契約更新をいたずらに重ねることはできなくなりました。
今後、自社の有期労働契約の労働者をどのような戦力と捉え雇用していくのか、考える必要に迫られた企業も多かったのではないでしょうか。先の人材不足感にあいまって、パート・アルバイトに対し、“どうせ雇用するのであれば、生産性を高め、戦力化した方が有効である”という認識が強くなっているように感じます。
今は、多様な働き方の実現が叫ばれ、従来の働き方・働かせ方から脱却していく過渡期のように思われます。自社に合ったより具体的、戦略的な対応策を検討するヒントになれば幸いです。
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●文/古橋 孝美(ふるはし たかみ)
2007年、株式会社アイデム入社。求人広告の営業職として、人事・採用担当者に採用活動の提案を行う。2008年、同社人と仕事研究所に異動。「パートタイマー白書」、新卒採用・就職活動に関する調査等のアンケート調査を担当。雇用の現状や今後の課題について調査を進めている。2015年出産に伴い休職、2016年復職。
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