【Q&Aでわかる】改正法施行後の厚生年金基金の選択肢と実務上の留意点
特定社会保険労務士
野中 健次
2014年4月1日から「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」が施行され、適格年金と同様に10年かけて厚生年金基金制度が原則廃止されます。
今後、それぞれの厚生年金基金は代行部分に対する純資産額の積立状況に応じて三つに分けられ、区分に応じて用意されている選択肢の中から対応を決定することとなりますが、設立事業所(基金に加入している会社)においては、どのように準備し、また、どのようなことを検討していけばよいのでしょうか。
本記事では、総合型厚生年金基金(以下、「基金」という)を前提として、まず三つの区分について解説し、区分ごとに改正法施行後の基金への対応および実務上の留意点をわかりやすく、Q&Aの形で紹介したいと思います。ただし、本稿の内容については、執筆時点のもので、2014年3月24日に発出された政省令等によって規定されている事項もありますので、ご留意ください。
また、設立事業所では、今後の対応を検討するにあたり、とかく資金面や経理面を優先しがちですが、基金は「公的年金」および退職金から派生した「企業年金」の両方の性格を有しています。ですから、退職金制度の一形態として検討する必要があるのは当然のことですが、従業員の処遇全般に影響を及ぼしますので、賃金体系を含む人事制度の見直しと一体で考える観点を持つことが大切です。
1. 改正後の基金の選択肢
Q1. 改正後、基金の採り得る選択肢にはどのようなものがありますか?
A1. それぞれの基金の代行部分に対する純資産額(時価)の積立状況に応じて、大まかに五つの選択肢が用意されています。
代行部分に対する当該基金の純資産額の積立状況を基準にして、表1のように「代行割れ」「代行割れ予備軍」「健全な基金」の三つに区分(注1)し、対応策を検討することになります。
(注1)代行割れ基金約4割、代行割れ予備軍約5割、健全な基金約1割(2011年度末)。
代行部分に対する純資産額の積立状況 | 対応策 |
---|---|
代行割れ (積立比率が1.0未満) |
1.特例解散(自主解散、清算型解散) |
代行割れ予備軍 (積立比率が1.0以上1.5未満) |
2.他制度へ移行 3.通常解散または解散命令 |
健全な基金 (積立比率が1.5以上または純資産額÷最低積立 基準額が1.0以上) |
4.他制度へ移行 5.存続 |
※ここでいう最低積立基準額は「代行+上乗せ」債務をいいます。
2. 代行割れ基金が採り得る選択肢と実務上の留意
Q2. 特例解散制度って何ですか?
A2. 代行割れしている基金に対して早期解散を促すために法施行日から5年間について特別に認められた制度で、(1)分割納付の特例、(2)納付額の特例、(3)「自主解散」または「清算型解散」の解散プロセスの見直し等が特徴です。
今回の改正で、2012年8月からスタートした「特例解散制度」を見直すことになりました。具体的には、(1)分割納付の特例(改正法附則13・ 22条の事業所間の連帯債務外し、改正法附則16・23条の利息の固定金利化、改正法附則14・23条の最長納付期間の30年への延長)、(2)納付額の 特例(現行通り。改正法附則11・20条の「通常計算した額」と「基金設立時から厚生年金本体の実績利回りを用いて計算した額」のいずれか低い額)、 (3)自主解散を基本としますが、一定の要件に適合する基金に対しては、厚生労働大臣が社会保障審議会(第三者委員会)の意見を聴いて清算型基金に指定す ることにより解散を促す(改正法附則19条)こと等が、主な改正点です。
自主解散は、解散しようとする日において代行割れしている限り、申請の要否および時期等に関する意思決定が基金の裁量に委ねられているのに対し、清 算型解散は、厚生労働大臣から指定を受けると、将来返上(将来分の代行部分の支給義務免除)や上乗せ給付の支給停止等、諸々の対応を求められるのみなら ず、清算計画の承認が得られるまで解散することができません。
なお、今回の改正で「事業所間の連帯債務の適用」を外すことにより、解散後、返済途中の会社が倒産した場合、その債務について最終的に厚生年金本体 で負担することが懸念されますが、これに対しては、すべての基金で最低責任準備金を精緻化(代行給付費の簡便計算に用いる係数の補正等)すること、すなわ ち、最低責任準備金の計算方法を変更することで積立不足を減少させることによる対策が用意されています。具体的には、最低責任準備金の総額が、精緻化前で はマイナス約1兆1、000億円であったのに対し、精緻化後はマイナス約6、000億円と、約5割も減額になると試算されています(2011年度末時点)(注2)。
また、分割納付の特例で無理なく返済できるように最大30年まで返済期間の延長策が用意されることからも、厚生年金本体で肩代わりするリスクは相当軽減されたと思います。
(注2)精緻化しても約90の基金では負担が減らないと言われている。
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