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人事・労務関連コラム掲載日:2006/04/03

組織変更、減資、機関設計、新株発行……、中小企業がとるべき「新会社法」への対応策

1.中小企業にとっての「新会社法」成立の意味

1.「新会社法」の成立

会社法制が大きく変わりました。「会社法」(2005年法律第86号)および「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(同年法律第87号)が、いわゆる新会社法として、2005年6月29日、第162回国会において成立し、7月26日に公布されたのです。

新会社法は、最近の社会経済情勢の変化に対応するために、会社法制の全領域を見直し、様々な制度間の不均衡や不整合の是正等を行い、新たな制度の創設をするなどして「現代化」を図ったものといわれています。今回の商法改正は、これまでの商法の一部改正とは質的にも量的にも異なったものといえます。旧商法中の会社に関する条項、有限会社法、商法特例法等にかかわる法律を一本化して、平仮名口語体の1つの法典としてまとめてあり、条文数も979条にのぼるものです。新会社法は、2006年5月1日から施行されます。

2.中小企業への影響

ところで、わが国には中小企業が会社を設立し経営する方途として、非公開を想定した会社類型である有限会社がありますが、株式会社との社会的信用の違いや後日の組織変更の煩雑さなどを理由として、実際には定款に株式譲渡の制限の定めをして株式会社の形を選択する(株式譲渡制限会社)ことが多いのが実情です。しかしながら、旧商法の株式会社の規定は、公開性を前提としているため、株式譲渡制限会社には経済的実態がそぐわない点が多々あったことは否定できませんでした。

そこで、新会社法の制定過程における最も主要な論点として、株式の譲渡が制限されている株式会社と有限会社の規律を統合し、一本化して1つの会社類型として規律することが検討審議されました。その結果、新会社法では、現行の株式会社・有限会社の両会社類型を統合した新たな類型としての株式会社についての規定が設けられました。そのため、1939年に制定されて以来、中小企業法制において大きな役割を果してきた有限会社法が廃止されることとなり、新会社法の制定は、中小企業をめぐる法制史上において最大の変革をもたらすものと言われています。

中小企業を経営する者にとり、新会社法は、どのような影響があるのか、またどのような対応が必要なのかが問われています。すなわち、142万社に及ぶと言われている現存有限会社にどのような影響があるのか、中小企業としては、新たな類型の株式会社をどのように活用したらよいのか等、様々な疑問が提起されています。

本稿では、新会社法における諸制度のなかからいくつかの問題点を取り上げて、若干の解説を加えていきます。法の施行にあたり、中小企業者はどのような対応が必要なのかについてのご参考になればと願っています。

2.中小企業がとるべき対応のポイント

Q1 有限会社の廃止と株式会社への組織変更
(1)現存の有限会社は、新会社法の施行後どうなりますか? 株式会社に変更したほうがよいのでしょうか?
(2)変更する場合に留意する点はどのようなことでしょうか?

1.特例有限会社

新会社法が施行されると、有限会社法が廃止されますので、施行の際に現に存する有限会社は、すべて経過措置(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律。以下、単に「整備法」という)の適用対象となります。したがって、特段の手続きを要することなく、新会社法の施行日以降は、同法の規定による株式会社(株式譲渡制限会社)として、当然に存続するものとされます(整備法第2条1項)。ただし、このような既存の有限会社は、整備法において、その商号について「有限会社」という文字を用いなければなりません(整備法第3条1項。以下、「特例有限会社」という)。特例有限会社については、整備法により次に述べるようないろいろな措置が講じられることになります。

2.整備法に規定される特例有限会社の特則の措置

適用される特則の主なものや、経過措置と適用除外については次の通りです。既存会社としては、整備法に伴う定款の整備や登記手続に対応する必要があります。

(1)株主総会の特別決議要件は、現行の有限会社における社員総会の特別決議の要件と基本的に同様である(株主総会の特則。整備法第14条3項)(2)株主総会および取締役以外の機関としては、監査役を置くことができるのみであり、取締役会、会計参与、監査役会、会計監査人または委員会を置くことができない(機関の設置に関する特則。整備法第17条)(3)監査役の監査権限は、会計に関するものに限られる(監査範囲に関する特則。整備法第18条)(4)株式の譲渡制限の定めに関する特則がある(整備法第9条)(5)検査役選任、会計帳簿の閲覧請求等に関する特則がある(整備法第23条、26条1項、39条)(6)その他、経過措置として、社員名簿は株主名簿とみなされ(整備法第8条1項)、有限会社の定款の定めのうち、目的、商号、本店所在地のほか、資本減少等の債権者保護手続の公告方法に関する定めは、いずれも存続する株式会社の定款の定めとみなされる(整備法第5条)。また、休眠会社のみなし解散制度や特別清算制度は適用されない(整備法第35条)。

3.整備法に規定される特例有限会社の特則の措置

特例有限会社は、既存の有限会社の運営の継続性、安定性を考慮して認められた制度と言われています。他方、有限会社法の規律が実質的に維持されている会社であるため、機関設計に限度があり、金融機関の与信判断では不利益が否めません。そこで、新会社法の施行時または経営をめぐるその後の事情の変化に対応させて、特例有限会社として有限会社形態を維持しないで、株式会社に移行することを考慮するのが相当と思われます。商号に「株式会社」の文字を使用する旨の定款変更株主総会決議と、登記手続として特例有限会社についての解散の登記と商号変更後の株主総会についての設立登記などの登記をすること(整備法第45条、46条)だけで株式会社への移行は可能です。したがって、現在有限会社である中小企業としては、前述の通り、特例有限会社の場合にも、自社の経営の実態に合わせて検討するとしても、可能な限り通常の株式会社への移行を選択するのが賢明と考えます。

Q2 最低資本金制度の緩和
新会社法は、最低資本金制度の下限規制を廃止していますが、中小企業にとってどのような影響があると考えられますか?

1.現行法上の扱い

現行法の下では、出資者有限責任を前提とする株式会社では1,000万円(商法第168条ノ4)を、また債権者保護の観点から有限会社においては300万円(有限会社法第9条)を、それぞれ最低資本金の額として定めています。したがって、当該最低資本金額に満たない会社の設立は認めない制度になっています。

2.最低資本金規制の緩和

新会社法では、前述の現行法上の扱いが廃止され、最低資本金制度が緩和されて、(イ)設立に際して払い込むべき金銭等の価額、(ロ)剰余金分配規制における純資産額、(ハ)会社成立後資本として表示できる額のそれぞれの下限規制について検討されて、手当てされています。

設立時の払込額については、制限を設けないことになりました。なお、新会社法も資本の制度そのものを廃止していない(新法第445条等)ので、資本金の最低額は1円ということになり、ゼロとすることはできません。

剰余金の分配は、払込価額の規制とは別に、純資産が300万円を下回るときは、行うことができません(新法第458条)。

会社成立後に資本として表示できる額についても制限を設けないこととなりました。すなわち、資本減少手続、法定準備金減少手続を行うことによりそれぞれ減少させることができる資本金、法定準備金の額について下限規制を行わないこととなりました(新法第447条1項・2項、第448条1項・2項)。

3.中小企業に及ぼす影響

設立時の最低資本金制度の下限規制の廃止により、手持ち資金が乏しくても株式会社の設立が可能となりました。反面、財務基盤の脆弱な企業や会社の実体を伴わない会社が増えることも否定できません。当該会社に融資や取引を実行する場合、その財務状況や法人格の同一性等の十分な調査や確認が必要となります。

欠損となっている中小企業においては、取引上の信用力改善の必要から(貸借対照表上の欠損を解消するため)、減資を行うことができ、定時総会における減資で、減少後も配当可能剰余金が生じないときは、普通決議で足りるとする手続きの規制緩和もされました(新法第447条、309条2項9号)。また、現行法では法的倒産手続によらずに100%減資(既存株主すべての交代)が可能か争いがありましたが、会社が種類株式の一類型として、当該種類の株式について、株主総会の決議によってその全部を取得できる旨の定めをした株式(全部取得条項付種類株式という)を発行できる(新法第108条12項7号)として、100%減資の手続きを実現できることになりました。したがって、中小企業における欠損解消対策は相当容易になったといえます。

Q3 株式・持分の譲渡の調整
新会社法は、従前の株式譲渡制限会社の株式や有限会社の持分について、その譲渡に関して、法規制の調整をどのように行っていますか?

1.従前の非公開会社における法規制

旧商法の株式会社に関する規定は、公開性を前提としていました。しかしながら、わが国の企業の大部分は、非公開会社で占められているのが実情です。そして、非公開会社に関する企業形態としては、従来、株式譲渡制限のある株式会社(現在、株式会社は、約104万社存在するが、そのうち資本金1億円未満の会社が96%を占め、その大部分が株式譲渡制限会社と言われている)と有限会社との2つがありました。

両社は、同じような閉鎖会社でしたが、その沿革の違いからか、法規制についてはかなりの違いがありました。例えば、取締役の法定員数、取締役会や監査役設置の要否、取締役の法定任期の有無などの他に、株式・持分の譲渡制限の態様についても規律が異なっていました。

2.新会社法における非公開会社に関する法規制

新会社法は、非公開会社として同一の実態を有する株式譲渡制限株式会社と有限会社について、後者に認められていた諸制度を株式譲渡制限株式会社に取り込むことによって、一類型として有限会社制度を維持するという方法で、法規制の調整を行っています。すなわち、その調整に関して、株式譲渡制限株式会社、有限会社のいずれか一方でのみ認められていた法律関係をいずれも選択肢として新たに認めたり、定款自治に委ねたりしています。

株式の譲渡制限に関しては、定款により、ある種類の株式の譲渡は会社の承認を要することを定めることができるとした(新法第108条1項4号)ほかは、譲渡制限についての定款自治を認めています。そして、一定の場合において会社が承認したものとみなすときは当該一定の場合の定め(新法第107条2項1号ロ)を置くことを認めています。それにより、株主間の譲渡は承認手続を不要として、従前の有限会社法第19条1項との一体化がなされました。あるいは役員持株会など一定の属性の者への譲渡に承認手続を要しないものとし、先買権者を定めておくことも可能としました(新法第140条5項)。

また、定款で、相続等一般承継による譲渡制限株式の取得者に対して、会社が売渡請求できる旨を定めることができる(新法第174条ないし177条)とされました。

Q4 機関設計の柔軟化
新会社法では、会社の機関につき、株主総会と取締役の設置は必須ですが、それ以外の機関の設計は、定款の定めにより多様な選択肢を提供しています。中小会社では、どのような点に留意して機関設計を行えばよいのでしょうか?

1.既存の有限会社の場合

新会社法の規定の中には、既存の有限会社にそのまま適用すると、会社の運営の継続性や安定性を害する恐れのあるものもあります。そこで新法施行後も、既存の有限会社が、「有限会社」の商号を継続使用する場合には、その存続を認め「特例有限会社」として扱われて、従前の有限会社法とほぼ同様の規律が維持適用されます。

会社の機関の設置について、有限会社法においては、社員総会以外は、必置の機関である取締役と任意的設置機関である監査役のみでした。特例有限会社は、前述の通り既存の有限会社の運営の継続性等を確保するために設けられた例外的なものです。したがって、会社の機関設計につき新法におけるのと同様な広範な定款自治を認める必要性はないものと解されます。

そこで、特例有限会社では、有限会社法と同様、「株主総会」および「取締役」のほかは「監査役」のみを置くことができるとしています(整備法第17条1項)。そして、「監査役」を置く特例有限会社については、有限会社法における監査役の職務の範囲との連続性を維持するため、監査の範囲を会計監査に限定する旨の定款の定めがあるものとみなされます(整備法第24条)。

2.中小株式会社の場合

従来の商法において、中小株式会社の場合、「取締役会」と「監査役」が必置の機関として設置が義務付けられていました。「監査役会または監査委員会」および「会計監査人」は、中会社が「みなし大会社」を選択した場合に、セットとして設置可能とされていたにすぎません。

新会社法は、必須の機関である「株主総会」と「取締役」の設置のほかは、「取締役会」、「会計参与」、「監査役」、「監査役会」、「会計監査人」、「委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)」を組み合わせることにより、多種多様な機関設計が可能としています。そして、監査体制の強化のために、中小株式会社において「会計監査人」や「会計参与」も設置できるとしています。機関設計の多様化、自由化が認められるようになったわけです。

3.機関設計の留意点

従来、金融機関が取引先である株式会社の信用力を審査し与信判断をする場合には、その会社が「会計監査人」による外部監査を経ているかどうかを考慮していたのが一般的でした。そこで、新会社法の施行後も、特例有限会社の選択をした場合、機関設計は「監査役」を設置しても、前述通りその権限は会計監査に限定されているので、ガバナンス体制の弱さにより、株式会社より相対的に低い信用力評価を与えられることになると言われています。

株式会社の場合にも、金融機関の与信判断の視点で機関設計を考えて、業務執行の監視体制や、会計の外部監査体制を考慮して、適宜、会計監査人、取締役会、監査役会等を設置するべきでしょう。

Q5 取締役会・監査役会の廃止
新会社法の下で、株式譲渡制限のある株式会社は、定款で定めれば取締役会や監査役会を設けなくてもよくなりましたが、中小企業では廃止したほうがよいのでしょうか?

1.機関設計の自由化

新会社法においては、株式会社の機関設計に関して、いかなる機関設計を選択する場合も株主総会は必要的機関ですが、その他の業務執行・監査機関に関して、公開会社である大会社については、基本的に選択できる機関設計(「取締役会+監査役会+会計監査人」という機関設計または委員会設置会社の機関設計)に変更はありません。しかしながら、大会社の業務執行行為は、複雑多岐にわたることが容易に予測されるため、信用リスク、システムリスク等の状況を正確に把握して適切に制御すること、すなわち、リスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することが必要です。

他方、大会社を対象とする委員会等設置会社においては、監査委員会だけで会社の業務遂行が適切かつ効率的に行われるかを十分に監査することは、困難な場合が少なくないと思われます。そこで、取締役会が、内部統制システムの体制を整備し、これにより業務執行が法令および定款に適合し、かつ効率的になされることを監視させることにより、監査委員会は、この体制を利用して監査を行う仕組みを採用することにしています(新法第364条4項6号、同5項)。

2.公開大会社以外の機関設計

公開会社である大会社以外の株式会社については、公開会社であるか否か、大会社(新法第2条6号。資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社)であるか否(=中小会社)かの会社の規模に応じて機関設計の選択肢は増えています。

例えば、株式譲渡制限会社の場合、(1)取締役会+監査役+会計監査人、(2)取締役会+監査役会+会計監査人、(3)取締役会+三委員会等+会計監査人(会計参与は、いずれも任意)、(4)取締役会+監査役、(5)取締役会+監査役会、(6)取締役会+会計参与などの機関設計があり得ます。

3.株式譲渡制限会社=中小会社にとっての選択

従来は、中小株式会社には「取締役会」と「監査役」の設置が強制されていました。新会社法は、(1)公開会社、(2)監査役会設置会社、(3)委員会設置会社についてのみ、「取締役会」の設置義務を負わせ、それ以外の会社は取締役会の設置は任意としました(新法第327条1項)。そして、中小株式会社については、前述のような様々な選択肢を認めましたので、中小株式会社にとって、業務等の監査体制の強化を阻む規制は、ほぼ完全になくなったと言われています。

そこで、専門職である会計参与を役員にするなどして、適宜会社のリスク管理体制(=内部統制システム)が図られるならば、会社の信用力にマイマス面はないものと考えられますので、取締役会や監査役を廃止しても良いと解されます。

Q6 監査役の権限の拡大、補欠監査役の選任
(1)監査役の権限につき、小会社でも、原則として会計監査だけではなく、業務監査も行うことになりましたが、従来通り会計監査に限るとした場合は、どうなりますか?
(2)補欠監査役は選任すべきですか?

1.従前の監査役の権限

従来の商法や商法特例法のもとでは、規模による会社類型として、大会社(資本の額が5億円超または負債総額が200億円以上)、中会社(資本の額が1億円超で、大会社に当たらないもの)、小会社(資本の額が1億円以下で、大会社または中会社に当たらないもの)がありました。これらの会社区分の下で、大会社や中会社の監査役は、会計監査権限と業務監査権限の双方を有していました(旧商法第274条、281条ノ2、281条ノ3、旧商特第12条、14条)。

他方、小会社である株式会社および有限会社の監査役は、会計監査権限しか有しないとしていました(旧商特第22条、23条、25条、有限33条ノ2、34条)。

2.新会社法における監査役の権限

新会社法においては、規模による会社類型の区分に関しては、大会社区分については維持しています(新法第2条6号)が、中小の区分はしていません。そして、会社の規模・機関設計のいかんを問わず、「監査役」が設けられれば、一律に業務監査権限・会計監査権限を付与しています(新法第381条)。

他方、立法過程における中小企業関係者の主張通り、株式譲渡制限会社(ただし監査役会を設置する株式会社または会計監査人を設置する株式会社を除く)については、定款で監査の範囲を会計に関するものに限定できるとしました(新法第389条)。これは、株式譲渡制限会社においては、一般に所有と経営が一致している場合が多く、業務監査については「株主間の相互監視」によって相当程度その目的が達成できるものと考えられるからだと言われています。

新法は、このような観点から、株主自身による業務監査の実効性を確保し、取締役の業務執行の監督を可能とするために、各株主に対して、(1)取締役会議事録等を裁判所の許可なく閲覧や謄写する権利(新法第371条2項)、(2)一定の要件の下での取締役会招集請求権等の付与(同367条1項)、(3)取締役の違法行為差止請求権に係る要件の緩和などを認めています(同360条)。

3.補欠監査役等について

補欠取締役または監査役を、取締役または監査役の法定のまたは定款に定める員数を欠くに至っていない段階であらかじめ選任すること(いわゆる補欠役員予選の問題)は、従来も明文の規定はなかったものの、登記実務の上で、定款で定めれば補欠監査役を予選できるとしていました(平成15年4月9日、民商第1078号民事局商事課長回答)。新会社法は、定款の定めがなくても、法務省令で定めるところにより、補欠の役員を総会で選任し得るとしました(新法第329条2項)。

株主数の多い会社では、役員の欠員が生じた場合、臨時株主総会の開催費用や仮取締役・仮監査役を裁判所が適宜選任してくれるかの点などから、補欠役員の予選の利便性は窺えるところですが、小会社においては、その必要性は少ないと解されます。

Q7 会計参与の導入
新会社法の施行後、中小企業としては「会計参与」を導入して設置したほうがよいのでしょうか?

1.会計参与の意義および任務

新会社法は、株式会社の機関設計について自由化、柔軟化を図りました。それは、「監査」にかかわる機関についても同様であり、その1つが「会計参与」制度の創設です。会計参与は、株式会社の任意設置機関とされていますが、設置する場合には、会社から独立した立場にある公認会計士(監査法人を含む)または税理士(税理士法人を含む)の中から(新法第333条)、株主総会で選任され、株式会社の役員となります(新法第329条1項)。

主要な任務としては、取締役・執行役と共同して、計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類を作成し、会計参与報告を作成します(新法第374条1項)。その他、株主総会において、計算書類を説明したり(新法第314条)、計算書類を5年間保存し、株主や債権者の請求があれば、その開示に応じたりする(新法第378条1項、2項)などの職務を行います。

会計参与の責任、責任追及等の訴え、解任の訴え、登記などは、取締役(とりわけ社外取締役)類似の規律に服します(新法第334条、339条、341条、346条、314条、423条ないし427条等)。会計監査人が「外部監査」機関であるのに対して、会計参与は「内部監査」機関であるといわれています。

2中小企業における会計参与の導入

現在のわが国の中小企業のほとんどが、税理士や公認会計士に、会社の税務申告書の作成を託したり、決算書の作成等を依頼したりしているのが実情です。したがって、そのような会社で「監査役」を廃止して「会計参与」の制度を導入する(実際の運用は、主に、会計監査人が設置されない会社において、税理士を会計参与として選任するケースとなると予想されている)のであれば、あまり経済的な負担が増えることにはならないはずです。

他方、会計参与となる者は、会社から独立した有資格者であり、しかも会計知識を有し、専門職としての規律に服している職業人です。そして、会計参与報告中には、会計処理方法に関する事項や計算書類を共同作成する際に問題となった事項などが記載される予定となっています。また、会計参与の事務所等において計算書類等を開示請求する際に、その内容につき質問することもできるとされています。したがって、そのような者が、会社の役員に選任されて就任し、株主代表訴訟のリスクを背負って、計算書類等の作成に関与するとなれば、当該会社の計算の適正は、会計参与を設置していない会社より、金融機関の信用力の審査等の面で高い評価を与えられることになるであろうと解されます。

Q8 取締役・監査役の任期の伸長
新会社法の下では、非公開株式会社の取締役・監査役の任期が10年まで伸長できるようになりましたが、任期を長くしたほうがよいのでしょう

1.従来の取締役・監査役の任期

現行では、株式会社の「取締役」の任期は、2年を超ゆることを得ず、とされており(旧商法第256条1項)、また、最初の取締役の任期は1年を超ゆることを得ず、とされています(前同条2項)。ただし、いずれの場合も、定款をもって任期中の最終の決算期に関する定時株主総会の終結の時まで延長できるとしています(前同条3項)。

他方、「監査役」の任期については、就任後4年内の最終の決算期に関する定時株主総会の終結の時までとされています(前同法第273条)。また、有限会社の取締役・監査役には任期の定めはありません。

2.新法における取締役・監査役の任期

新会社法では、最初の取締役の任期を1年と定める前記規定は廃止されました。株式譲渡制限会社(=非公開株式会社)以外の株式会社では、定款または株主総会決議で取締役の任期を短縮するという問題だけが残ることになりました(新法第332条1項但書)。また、委員会設置会社の取締役の任期は、選任後1年以内の最終の決算期に関する定時株主総会の時までとされています(新法第332条3項)。監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとしています(新法第336条1項)。

株式譲渡制限会社では、定款により取締役および監査役の任期を、最長選任後10年以内の最終の決算期に関する定時株主総会の時まで伸長できる(換言すれば、任期を10年まで伸長できる)ことになりました(新法第332条2項、同336条2項)。

3.非公開株式会社=中小企業の取締役・監査役の任期のあり方

取締役や監査役の任期を法律上10年まで許されるとした場合であっても、非公開株式会社のうち、株主や従業員数が多く存在する相当程度の規模の会社の場合には、従業員の中から、いずれは取締役や監査役として昇格して就任する者がおり、任期切れの役員人事の改選は株主の信任を受けるための機会でもあるとすれば、役員の長い任期は、会社の停滞を招き、株主や債権者からの信用面でのマイナスとなりかねません。したがって、そのような場合は、取締役・監査役の任期を長くすることに、あまりメリットはないでしょう。

しかしながら、株式の多くを経営者らが保有するような規模の非公開株式会社では、任期切れによる取締役・監査役の改選は、経営者同士が互いに信任しあう機会であるとされています。任期を定款で10年と定めれば、10年は簡単に解任されないという、株主間の約束(=契約)の効力を定款にまで高めることになります。経営者間の内紛の緩衝機能も期待されるメリットがあると解されます。

Q9 株式譲渡制限会社による新株発行手続
株式譲渡制限会社の新株発行手続については、どのように改正がなされましたか?

1.従来の第三者割当による新株発行手続

従来は、株式譲渡制限会社(非公開株式会社)が株主割当以外の方法である第三者割当により新株発行をする場合の手続きとしては、取締役会の決議(旧商法第280条ノ2(1))に加えて、株主総会の特別決議が必要とされていました(旧商法第280条ノ5ノ2)。また、これが譲渡制限株式を有利な価額で発行(有利発行)する場合には、有利発行のための株主総会特別決議も必要とされていました(旧商法第280条ノ2(2))。

これら2つの特別決議は、理論上は別個の決議だとされていました。しかし、2つの特別決議によって決議される事項について見ると、株式の種類と数については重複する決議事項となっていました。また、株式の引受の申込みは「株式引受証」によって行われていました(旧商法第175条、280条ノ6)。さらに、「払込期日」が定められており(旧商法第280条ノ2第1項2号)、払込みをした新株引受人は払込期日から株主になるものとされていました(旧商法第280条ノ9第1項)。

2.新法における第三者割当による新株発行手続

新会社法では、発行価額の下限および第三者に対して発行することを一度の決議で決定することにし(新法第199条、200条)、株主割当以外の方法で新株発行をする場合、その募集事項の決定は、原則として株主総会の特別決議によって決定するものとしました(新法第199条2項、4項)。もっとも公開株式会社については、株主の持ち株比率維持の利益は非公開株式会社の株主ほど重要ではなく、かえって機動的な資金調達の便宜の利益が優先されるため、決定権限は株主総会の決議によって取締役(取締役会設置会社の場合は、取締役会)に委任することができます(新法第201条、199条)。そして、このような委任がされている場合には、募集株式の種類および数に加えて、募集株式の数の上限および払込金額の下限をも定める必要があります(新法第200条1項)。また、有利発行である場合には、取締役は株主総会において有利発行を必要とする理由を説明することが義務付けられました(新法第199条3項、200条2項)。

次いで、引受の申込みは単に書面によって行うとし(新法第203条2項)、従来の「株式申込証」の用紙の交付制度を廃止しました。募集事項の通知については募集手続の態様ごとに異なる取扱いをしています(新法第202条4項、203条1項・4項・5項)。

また、新株発行について、「払込期日」に代えて「払込期間」を定めることを認め、その定められた期間内に払込みがなされた場合には、その払込みの日(出資を履行した日)から株主となるものとしました(新法第199条1項4号、209条2号)

さらに、非公開株式会社における新株の割当者の決定についても、旧商法で定められていた新株発行決議時を改めて、申込み後割当時に、譲渡承認をすべき会社機関(取締役会設置会社でない場合には株主総会、取締役会設置会社の場合は取締役会)において行うことができるものとしました(新法第204条1項・2項)。

Q10 企業再生とM&Aの活用
新会社法では、中小会社でも生き残りのために、M&Aなどの手法により事業の再構築や企業再生を迅速かつ円滑に実現するための制度が設けられたそうですが、具体的にはどのような内容でしょうか?

1.有限会社の場合

有限会社法が、新会社法の施行に伴い廃止されて、既存の有限会社は、新法上の株式会社(特例有限会社)として存続することになりました。このため、従来の会社更生手続は株式会社のみの法的整理手続でしたが、特例有限会社とされる会社もこの法的整理手続が利用できることになりました。この結果、出資者(株主)、担保権者、一般優先債権者らを手続きに取り込んで企業再生を実現できるようになりました。

また、会社更生法と同様に民事再生法(同法第154条3項、4項)により株式会社のみに認められていた「再生計画」の定めによる減増資の実行が、有限会社でも可能となりました。従来は社員総会の決議を必要としていた減増資が円滑に実行できるようになったわけです。ただし、「特別清算手続」については、新会社法の施行後も特例有限会社は利用できないとされている(整備法第35条)ので、注意が必要です。

2.新会社法による100%減資の容易化

会社が債務超過状態に陥った場合、その会社の再生にあたり、株主責任を明らかにすることにより、債権者から債権放棄の協力を得やすくし、他方でスポンサーとなる企業からの新規融資の方途として株式の引受(増資の引受)を得る際に、100%減資を行うことがあります。これも、民事再生法や会社更生法による法的整理による場合には「再生計画」や「更生計画」の定めで100%減資を行うことが認められていましたが、私的整理の場合には「株主全員の同意」がない限り、100%減資は不可能とされていました。

新法では、減資対象とする株式を全部取得条項付種類株式に変更することにより(新法第111条2項)、株主総会の特別決議という多数決によって当該株式を会社が無償で取得することができ(新法第171条)、その自己株式を取締役会決議により消却すれば(新法第178条)、100%減資が実現できるとしました。ただし、一種類の株式しか発行していない会社の場合には、(1)株主総会で新たに発行する株式についての定款の定めを設け、さらに(2)発行済みの株式をすべて前述の全部取得条項付種類株式とする定款の定めをして、(3)前記定款の定めに基づき全部取得条項付種類株式の全部を無償で取得する旨の3つの特別決議を1回の株主総会で行うことになります。このように、私的整理の場合にも100%減資を行うことが可能となりました。

3.企業再生の方途としてのDESの活用の円滑化

会社が企業再生を行うに際し、債権者が債権放棄になかなか応じてくれない場合に、金銭債権を現物出資して株式の割当てを行うデット・エクイティ・スワップ(DES)の手法が用いられることがあります。新会社法では、履行期が到来している金銭債権につきDESを行う場合には、券面額以下で評価するのであれば、検査役の調査を不要とした(新法第207条9項5号)ので、従来よりもDESの実行が円滑に実現できるようになりました。

4.債務超過会社の吸収合併等の許容

新法では、株主総会の承認決議が得られれば、簿価上で債務超過の企業を吸収合併したり、債務超過部門を吸収分割で承継したりすることも認められるようになりました(新法第795条2項1号)。

日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務、登記などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌の許可を得て、同誌2005年12月号の記事「中小企業がとるべき『新会社法』への対応策」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページhttp://www.horei.co.jp/へ。

【執筆者略歴】
●川村 延彦(かわむら・のぶひこ)
昭和45年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。著書に『合同会社LLCの法律と登記』『企業をとりまく新法・改正法への実務対応』(いずれも共著、日本法令刊)、『会社法の法律相談』『破産の法律相談』(いずれも編者、学陽書房刊)などがある。


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