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人事の解説と実例Q&A 掲載日:2020/09/08

在宅勤務手当における課税の取り扱い

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの企業が会社に出社しなくてもよい在宅勤務の制度を採用しています。在宅勤務では、自宅で作業をするための備品購入や環境整備などの諸経費がかかることから、在宅勤務手当を支給する企業も多くなっています。ここでは、在宅勤務手当の性質を確認しながら、課税されるかどうかをパターン別に解説します。

※2021年1月に国税庁から在宅勤務手当の課税に関する資料が公開されており、専門家の監修の下事実確認をしております。

在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係) |国税庁
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf

1. 在宅勤務手当とは

一口に在宅勤務手当といっても、企業によって在宅勤務手当の内容や捉え方は異なることがあります。まずは在宅勤務手当とは何か、企業で支給されている在宅勤務手当にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。

※以降は厚生労働省のテレワークモデル就業規則を参考にしています。

在宅勤務手当の三つのケース

在宅勤務においても、通勤手当を除けば基本給や諸手当などは会社に出社した場合と同じです。ただし、「在宅勤務手当」や「費用負担」については、企業によって取り扱いが異なります。主に次の三つのケースに分かれます。

(1)実費を含み一律で在宅勤務手当を支給するケース

かかった費用分を実費精算するのではなく、実費を含んで一律の在宅勤務手当として支給するケースです。在宅勤務を導入している企業では、このケースが多くなっています。例えば、株式会社メルカリでは、半年で6万円(月1万円)の在宅勤務手当を支給しています。これには、自宅の環境整備やオンラインで社員同士が交流を図るための費用なども含まれています。

(2)実費のみを支給するケース

実際にかかった費用分を支給するケースです。在宅勤務を行う場合には、自宅のインターネット環境の整備費用、パソコンや周辺機器代、机や椅子などの備品代など多くの費用がかかります。実費のみを支給するケースでは、これらの費用を会社が支給します。支給する名目を在宅勤務手当としている企業もあります。

(3)実費とは別に一律の在宅勤務手当を支給するケース

上述した二つのケースを合わせたもので、実際にかかった費用を精算するとともに、一律で在宅勤務手当を支給します。このケースの在宅勤務手当は実費分を含まないため、「諸手当」と同じ性格を持っているといえます。

在宅勤務をする場合の給与

従業員が在宅勤務をする場合の給与は、会社に出社した場合の通常の給与体系と同じであることが一般的です。通常の給与体系に在宅勤務手当などがプラスされるケースが多くなっています。

具体的には、通常の給与体系である「基本給」「諸手当」「割増賃金」に、「通勤手当」「在宅勤務手当」や「費用負担(自宅でのインターネット環境の整備や事務用品など、自宅勤務に必要となるものの費用)」が加わります。在宅勤務だからといって、基本給や諸手当を合理的な理由なく減額することはできません。

会社の承認のもと始業時刻や終業時刻などを変更することは可能ですが、時間外労働や休日労働などの割増賃金についても、基本は就業規則に合わせて計算します。

通勤手当については、在宅勤務の場合はほとんど出社しないケースもあることから、通勤定期代ではなく実費で精算することもできます。

2. 在宅勤務手当が課税となるケース

在宅勤務手当には、主に三つのケースがありました。課税の取り扱いはそれぞれ異なります。まずは、このうち在宅勤務手当が課税となるケースについて見ていきましょう。

実費を含み一律で在宅勤務手当を支給するケース

所得税法では、給料や賃金、賞与などの名目にかかわらず、会社が従業員に支払う金品は給与にあたるとされています。また、役員や使用人に支給する手当は、原則として給与となります。

実費を含んで一律で在宅勤務手当を支給するケースでは、自宅の環境整備費用などに充てることが多いと考えられますが、支給された在宅勤務手当の全て、もしくは実費との差額については使い道が制限されていません。そのため、法律上の「会社が従業員に支払う金品」に該当し、給与として課税されます。

また、在宅勤務手当の支給の原資として、通勤手当を使うことがあります。これは、通勤手当を支給しない代わりに、在宅勤務手当を支給するというものです。通勤手当は一定の限度額まで非課税となっていますが、たとえ通勤手当を原資としていても、一律で在宅勤務手当を支給する場合は、給与として課税されます。

課税される場合には、従業員にとっては納める税金が増えることもあるので、注意が必要です。

実費とは別に一律の在宅勤務手当を支給するケース

実費とは別に一律の在宅勤務手当を支給するケースでは、実費と在宅勤務手当とで課税の取り扱いが異なります。実費については給与とならず、非課税になります。一方、実費とは別に一律で支給される在宅勤務手当は課税対象です。

課税される場合の注意点

一律で支給される在宅勤務手当の課税において注意すべきは、源泉徴収が必要になるということです。在宅勤務手当を含んだ毎月の給与合計額が、源泉徴収の対象となるためです。また、課税となる部分の在宅勤務手当は給与として考えるため、社会保険料の対象になります。

消費税における注意点

ちなみに、従業員の所得税課税とは違う観点となりますが、在宅勤務手当は会社の経費です。会社の決算では消費税の納付金額を計算するために、経費を消費税が課税されるもの・非課税となるものとに分ける必要があります。給与としての扱いを受けることになった在宅勤務手当は、消費税の課税取引の対象外となります。

なお、実費部分については、一般にその経費に消費税が課税されていれば課税、非課税であれば非課税で処理することになります。

3. 在宅勤務手当が課税とならないケース

次に、在宅勤務手当が課税とならないケースについて見ていきます。

実費のみを支給するケース

在宅勤務手当が課税とならないのは、「実費のみを支給するケース」です。このケースでは給与とみなさないため、所得税の課税はありません。

しかし、所得税法では給料や賃金、賞与など名目にかかわらず、会社が従業員に支払う金品は給与になるので「実費のみを支給するケースも給与になるのではないか?」と考える人もいるでしょう。実は、実費のみを支給するケースが給与にならないのは、所得税における他の規定があるためです。

「所得税法基本通達28-4」では、「業務のために使用したことの事績が明らかなものについては、所得税を課税しない」とあります。この規定にのっとり、実費のみを支給するケースでは、所得税は非課税となります。

ただし、28-4の通達は高額なものについては当てはまらないケースもあります。在宅勤務に必要となる高額なものについては会社が購入し、従業員に貸与したほうがよいでしょう。

ここで注意しなければならないのが、所得税が非課税になるのは「事績が明らかなもの」としている点です。事績を明らかにするためには、経費の領収書が必要なことはもちろん、確実に業務のために使用することを示さなければなりません。領収書や帳簿などには「何に使用したのか、その用途」をきちんと記載しておくことが重要となります。

電気代・インターネット費用などは業務仕様部分以外は課税

では、実費のみを支給するケースにおいて、電気代やインターネット費用などはどうなるのでしょうか。在宅勤務で仕事をする分、出社するよりも自宅の電気代やインターネット費用は上がります。例えばインターネット費用について、国税庁は計算式の例を示しています。

業務のために使用した基本使用料や通信料等=従業員が負担した1ヵ月の基本使用料や通信料等×(該当月の日数÷その従業員の1ヵ月の在宅勤務日数)×1/2

より緻密な方法で算出する方法も認められると言及されています。

●水道代・ガス代は?

では、実費のみを支給するケースにおいて、水道代やガス代などはどうなるのでしょうか。在宅勤務で仕事をする分、出社するよりも自宅の水道代やガス代は上がります。しかし、どこまでが仕事で使った水道代・ガス代かを分けることは難しいでしょう。つまり、在宅勤務手当を水道代・ガス代の実費に対して支給した場合は、所得税が課税される可能性は高くなります。

4. 在宅勤務手当の課税・非課税はケース・バイ・ケース

在宅勤務手当のみを対象とした所得税などの法律はありません。現行の所得税の法律から、在宅勤務手当の課税の取り扱いを解釈していくことになります。ただし、新型コロナウイルス感染の影響がさらに拡大して在宅勤務が一般的になると、新しく所得税の規定ができる可能性もあります。今後も、在宅勤務手当の課税の取り扱いについては、新しい規定ができるかどうかなどを注視しておく必要があります。

参照:在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係) |国税庁

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