データベースの名門をクラウドでNo.1企業に変革する
原点は「多様性」を目の当たりにした米国体験
日本オラクル株式会社 取締役 代表執行役社長兼CEO
杉原博茂さん
超エリート集団オラクルのすべてを変える、新たなミッションに挑む
オラクルに入社されたのが2013年10月。その約半年後に日本オラクルの社長に就任されていますね。
漠然と「次が最後の転職になるだろう」と思っていた時に、オラクルからの誘いを受けました。アメリカのオラクル本社で、シニアバイスプレジデントを探しているという話。オラクルといえばデータベースの代名詞のような企業です。そのオラクルがクラウド中心の会社に脱皮しようとしている。「米国本社の幹部としてクラウド事業戦略をグローバルレベルで統括する」というポジションのオファーでした。
私としては、通信からストレージ、ネットワーク、コンピューター本体、と経験してきて、最後の砦ともいえるソフトウエアの世界には大いに興味がありました。しかも、日本人がグローバル企業の本社で役員として働けるのはとても魅力的な話。ただ、私にはデータベース・ソフトウエア業界での経験はありません。そこで、「データベースの経験がない者だからこそ、大胆な改革が可能になる」という勇気ある決断を下せる経営者がオラクルのCEO、マーク・ハード、そして創業者のラリー・エリソンだったわけです。
これは意気に感じましたね。オファーを受けてすぐに渡米しました。アメリカに完全に移住するつもりで、現地の運転免許も取得、さあこれからという時に「日本オラクル」への移籍の話が持ち上がったわけです。それが渡米して半年後のことでした。
アメリカでの仕事に燃えていた時に一転して日本へ。戸惑いはありませんでしたか。
「ワールドワイドでクラウド中心の会社に変革する」というテーマと同時に、大きいマーケットである日本を管轄する「日本オラクルの改革」もまた重要な課題として挙がっていました。新たに責任者を送り込む必要があるとなった時に、オラクル社内のタレントマネジメントシステムで私がヒットしたんです。日本人の現地スタッフと日本語でコミュニケーションできる。ストレージやサーバー、通信の経験もある。新規事業の立ち上げ、顧客開拓、売掛金回収、さらには人材採用まで自分で手がけた経験がある。日本だけでなく、アジアの周辺諸国でのビジネス経験もある。「杉原に任せる、そして期待している」ということを、創業者のラリー・エリソンや、私をアメリカに呼んだマーク・ハードCEOから直々に言われたわけです。
その時に、日本の現状に思いを馳せました。日本オラクルの課題だけではなく、日本経済や日本社会全体も含めてです。かつては世界第二位の経済大国だった。しかし、少子高齢化に直面して、今やその経済は停滞している。優れた技術力があるといっても、昔ながらの加工貿易というビジネスモデルは衰退しつつある。アメリカにいたからこそわかるのですが、新しい価値を創造するイノベーションは世界中で次々と起こっています。日本もこの波に乗り遅れないようにしなければならない。世界レベルで競争できる日本企業の変革をより一層加速するために、IT企業としてできることは何だろうか、と考えました。
自分が日本企業のトップになることで、日本経済や日本社会を変える力になりたいと思いました。ラリー・エリソンやマーク・ハードからは、「チェンジすること」の一言だけで、あとはすべて任せると言ってもらえました。多くの同業者や投資家からリスペクトされている彼らに言われたわけですから、やはり奮起します。しかも「変革」は、自分にとって20代の時から一貫して意識しているテーマであり、経験したのも、いろいろなことを「変革」する仕事がとても多かった。不思議といろいろなタイミングや状況がぴたりと合ったような気がしました。そして、2014年4月、日本オラクルの社長に着任しました。
「変革」という大きな目標に対して、まず打ち出された施策はどういったものだったのでしょうか。
オラクル入社時、30日間で、オラクルの主要な幹部100人に対して、自己紹介と同時にヒアリングをしていきました。どんな人たちが、どんな経験をし、何をして、何を考えて働いているのか、そして、これから未来へ向けて何をするか、をまず知る必要があると思ったのです。
その100人は、素晴らしい人材ばかりでした。オラクルは創業37年ですが、そのほとんどが成功の歴史です。高学歴の優秀な人材が成功体験を積み重ねている。まさに何でもこなせるエリート集団でした。しかし、話を聞いているうちに疑問も出てきた。「何のために仕事をしているのか」が明確でない人が多いと感じました。何でもそつなくこなせるだけに、「何かを変革してやろう」というような熱いものが足りない。
そこで日本オラクルのCEOに就任してまず、「ビジョン」を打ち出しました。それが「VISION 2020」。アメリカでは視力が良いことを「20・20(トゥエンティ・トゥエンティ)」と表現します。「先までまっすぐに見通す」という意味を込めたビジョンです。
具体的には、最初の3年でしっかりした基盤と考え方をつくり、次の3年でクラウドナンバーワンの企業になると定めました。ただ、これだけでは単なる経営目標ですから、もう一つの軸として「The MostAdmired Companyになろう」というゴールを掲げています。「尊敬・称賛される企業」「社員・家族みんなが誇れて自慢できる企業」ということです。そこに向かって改革に取り組んでいます。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。