武田薬品工業株式会社:
人事はビジネスに貢献する戦略的パートナー
タケダのHR改革に学ぶグローバルマインドセットとは(後編)[前編を読む]
武田薬品工業株式会社 グローバルHR グローバルHRBP コーポレートヘッド
藤間 美樹さん
五つの視点――これからの時代に求められる人事のあり方を巡って
近年、「戦略人事」の重要性が叫ばれていますが、これを実践するためにも、人事のリーダーシップは欠かせません。藤間さんは、戦略人事についてどのようなお考えをお持ちですか。
戦略人事は、管理やオペレーションを中心とした従来の人事の役割に対し、変化の早いこれからの時代に必要な、新しい人事のあり方として1990年代から提唱されてきました。
要は会社に貢献できる人事のことであり、そのキー・ポジションとして位置付けられるのが、人と組織の面で経営者や部門責任者を支援するHRBPです。
大げさかもしれませんが、戦略人事は自分の会社のビジネスに貢献するだけでなく、企業社会全体を活性化し、ひいては日本の国をよくすることにもつながっていく、人事がよくなり会社がよくなる、会社がよくなり日本がよくなる――人事はそれくらいの気概をもって取り組むべきではないでしょうか。
私が前職のバイエル・メディカルを辞めたのは、タケダから声をかけられたのが直接のきっかけですが、心のどこかに「なぜ外国の会社のために働いているのか」という思いがくすぶっていたのも確かです。藤沢薬品では営業や労働組合のほか、海外人事を担当しました。バイエルへ行って、さらにグローバルの仕事も覚えました。その経験を活かして、日本の会社がグローバルで戦えるようになるための手助けをしたい。そう考えて、当社に移ってきたのです。ですから、タケダだけでなく、グローバル化を推進するすべての日本企業によくなってほしい。そのための「戦略人事」だと、私は考えています。
なぜいま、経営に資するグローバル人事が求められているのか、お話をうかがって大いに納得しました。それを実現するために、企業の人事担当者はどういう視点をもち、どのような心構えで業務を遂行していくべきでしょうか。最後にあらためてアドバイスをお願いします。
ポイントは大きく五つあると思います。一つ目は「経営の方向性」です。たとえば、経営方針が変わったからといって、それにマッチする人材はすぐに育ちません。会社のコアコンピタンスを深く理解し、外部環境も把握した上で、今後こうなっていくだろうと予測しうる方向性のもとに人を育成し、人事制度も整えていく。それが理想でしょう。
二つ目は「ビジネスのトレンド」。ビジネスに貢献するのが戦略人事の役割であるならば、人事も当然、ビジネスの最新トレンドに無関心ではいられません。とはいえ、経営の方向性やビジネスのトレンドがわかったからといって、自社の組織に取り入れることができるかどうかは、また別の話です。メリットもあれば、デメリットもありますから。そこで必要になるのが三つ目の「組織のポジショニング」。組織が最新トレンドを受け入れられるレベルにあるのか。それがわかっていないと、忙しい現場に無理や無駄をおしつけてしまうことにもなりかねません。
四つ目は、経営やビジネスサイドからの「信頼」です。これは、ビジネス上の信頼ですから、何か具体的な成果を出して勝ち取らなければいけません。そして五つ目は「アジャイル」。当社でも、キーワードとして頻繁に飛び交っています。日本語だと「俊敏」とか「すばやい」と訳されますが、いいと思ったことはどんどん試し、結果がダメならすぐに止めて、また他のことをどんどん試していく、そういうイメージです。これまでは「スピード」が重視されていましたが、今後は人事の仕事もテンポが速まり、トライ&エラーを高回転で繰り返すことが求められるでしょう。「アジャイル」でないとめまぐるしい環境変化に適応できず、ライバルにも遅れを取ってしまうからです。
特に人事を始めとする管理部門には、100%大丈夫と分かってからでないと動かない傾向があります。しかしビジネスはリスクを取って、先に、先に動くのが当たり前。HRBPは、そういう人や部門をサポートするわけです。「経営に資する」「ビジネスに貢献する」ということは、それに伴う失敗のリスクも背負いながら、前に進む覚悟がなければできません。戦略人事とは格好のいい言葉ですが、案外、泥臭い仕事なのです。