武田薬品工業株式会社:
人事はビジネスに貢献する戦略的パートナー
タケダのHR改革に学ぶグローバルマインドセットとは(前編)
武田薬品工業株式会社 グローバルHR グローバルHRBP コーポレートヘッド
藤間 美樹さん
部門ごとのタレントレビューで世界中から優秀人材を発掘・育成
貴社のグローバルHRでは、これまでにどのような改革を行ってきたのでしょうか。主要な人事施策の概要についてお聞かせください。
一番大きいのは、タレントレビューの構築とグローバル展開です。世界中から優秀な人材をピックアップし、将来の経営幹部に育て上げるためのしくみです。トップのTETから各部門の現場に至るまで、あらゆる階層にわたって人材をとことんフェアに、多角的に見ています。たとえばTETでは、社長を含め15名のメンバーで年に3、4回、タレントレビューを行っていますが、主に二つのタレントプールに焦点を当て、全員でディスカッションしています。一つは、5年から10年先にTETメンバーになる候補人材の層。もう一つはぐっと若く、キャリア10年未満の優秀人材の層です。この二つのプールをつくり、充実させるためには、各部門、各職場でタレントレビューをきちんと行い、候補者を順次挙げていかなければなりません。そこはHRBPがしっかりサポートしています。
タレントレビューでは「ナインボックス」による評価を用い、パフォーマンスとコンピテンシーの縦・横2軸で人材を分類しますが、当社のタレントレビューではコンピテンシー軸の左側を「深い」、右側を「広い」と見るのが特徴です。つまり、われわれが知りたいのはその人のラーニングアジリティ(学習機敏性)の適性であって、左側なら狭い範囲を深く極めるスペシャリスト向き、右側ならさまざまなことにチャレンジして実現する経営幹部向きとなるわけです。どちら向きであれ、優秀だと評価された人材は、その場でさらに育成の方法まで検討されます。誰が優秀で、誰をどうプロモートすべきかを決めるという意味では、年一回、上司と部下の間だけで行う年次評価よりもはるかにフェアで、確度の高いしくみだといえるでしょう。タレントレビューをきちんと行っていれば、いわゆるノーレーティングも可能ですし、実際、当社でも一部の部門で導入しています。
人材育成についてはいかがですか。
先述のCoEの中に「タレントディベロップメントチーム」と呼ばれる専門の担当部署があり、そこでわれわれHRBPが吸い上げた部門ごとのニーズや課題感をもとに、その部門独自のトレーニングを設計、実施しています。また、TETのメンバーが講師を務め、自らの言葉でタケダ流のリーダーシップを伝える選抜制の研修も、若手にとっては重要な学びの機会です。質疑応答やケーススタディで理解を深める流れですが、参加する社員には、「ただの研修だと思っちゃだめだぞ」と声をかけて送り出すことも少なくありません。TETのメンバーは本当によく、人を見ていますからね。
欧米で将来のリーダーを育成するとき、これはと思う人材には、若いうちから特別なコースを歩ませます。じつは当社でも、幹部社員に昇進する人材の1割はキャリア8年未満の若手にするという数値目標が、社長から出ています。現状では幹部社員に昇進する平均年齢は40歳ぐらいなので、正直、かなり厳しいオーダーです。われわれも意識して育成したのですが、昨年度は一人しか出ませんでした。
日本では「50代で部長になれば早いほうだ」という企業がまだ少なくありません。やはり海外と比べて、人が育つのは遅いのでしょうか。
遅いですね。欧米とはキャリアの積ませ方が違いますから。人材育成のスピードを早めるには、トライさせるしかありません。トライさせて、能力を発揮する場を与える。そうすれば、必ず成長します。外国人ができているのだから、日本人にできないわけがない。おそらく上司が責任を取りたくないので、失敗を恐れて、やらせないのでしょう。最近は権限移譲が重要だとよく言われますが、日本ではまだまだ“本物”になっていません。「任せるけれど、上司に了解は取れ」では、権限委譲とは言えませんよね。当社でも、CEOのクリストフがいつも口を酸っぱくして言っています。「権限移譲はタスクの委譲じゃない、決定権の委譲なんだ」と。