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となりの人事部人事制度掲載日:2016/06/15

新日鉄住金ソリューションズ株式会社:
あるべき未来像から「仕事」を考え、「働き方」を語る
それが企業社会を支える人事パーソンの使命(後編)[前編を読む]

新日鉄住金ソリューションズ株式会社 人事部専門部長/高知大学 客員教授 

中澤 二朗氏

新日鉄住金ソリューションズ株式会社 中澤二朗さん

1975年に新日鐵(現、新日鐵住金)に入社し、姫路の広畑製鉄所に配属された中澤二朗さん(前編参照)。ある日の仕事帰り、夕もやに包まれた溶鉱炉の方角に向けて発せられた上司のひと言で、人生が変わりました。「おい、中澤よ。みんな、あんなに頑張っているけれど、本当に幸せに近づいているのかなあ?」――その問いかけの意味は40年経ってますます重く、深く、いまを生きる人事パーソンの、仕事に対する覚悟をもえぐり返してくれます。インタビュー後編では、中澤さんに、この国の雇用をめぐる「課題の構図」を読み解いていただき、それにどう向き合えばいいのか、人事としての義務と使命にかかわる骨太の提言をいただきました。

Profile
中澤 二朗氏
中澤 二朗氏
新日鉄住金ソリューションズ株式会社 人事部専門部長/高知大学 客員教授

なかざわ・じろう●1975年、新日本製鐵株式会社(現、新日鐵住金)入社。鉄鋼輸出、生産管理、労働部門などを歴任。1988年、IT事業の人事部門に異動。 2001年、新日鉄ソリューションズ株式会社(現、新日鉄住金ソリューションズ)の発足に伴い初代人事部長。現在、同社人事部専門部長。2011年からは高知大学客員教授を兼職。またエンジニアリング協会HRM研究会委員長、山口大学外部評価委員、企業活力研究所人材委員会委員等も務めるかたわら、日本経済新聞社や労務行政研究所において「ジローさんの迫熱教室」を主宰。著書に『「働くこと」を企業と大人にたずねたい』(東洋経済新報社)、『働く。なぜ?』(講談社現代新書)、『日本人事』(共著、労務行政)がある。

義務と使命を果たすために日本型雇用システムとどう向き合うか

若いうちに異動を重ね、失敗をも織り込みながら、多様な仕事経験を積ませることで知的成熟者を育成する。それを可能にしたのが、長期観察・長期育成・長期雇用の日本型雇用システムでした。しかし昨今、「日本型」への風当たりは強まるばかりです。

そうした風潮の一つに、「日本的雇用は年功序列で時代遅れ」という決めつけがあります。しかし、そうした主張は既に1970年代からありました。それ以降、この国が年功序列から脱皮しようと、過剰なほどに成果主義に傾斜していったことは、多くの方がご存じのはずです。

その歴史的分水嶺は、1969年に旧日経連から刊行された『能力主義管理-その理論と実践-』という本でした。その冒頭では高らかに、「日本はこのままではダメだ。年功主義から脱皮し能力主義に変わらなければ未来はない」とうたっています。その結果、いまや大企業の9割近くが職務遂行能力をベースにした「職能資格制度」を取り入れています。新卒一括採用を入口とし、定年を出口とした年次別選抜管理がそれです。すなわち、すべてが「査定」です。日本的雇用は、単なる年功序列ではありません。日本は、世界に先駆けてブルーカラーにも「査定」を導入した国。職場の実態を踏まえ、歴史の経緯をたずねれば、そうした論調がいかに的外れかは明らかでしょう。

余談ですが、以前、野中郁次郎先生(一橋大学名誉教授)から、こう言われたことがあります。「中澤さん、あなたの先輩たちはもっと仕事していましたよ」と。これは、こたえましたね。そう言われれば確かにそうです。周りには、そういう先輩がたくさんいて、まさに時代と戦っているようでした。前回ご紹介した大江さんも、もちろんその一人です。

中澤さんは、日本型の雇用システムを守るべきだというお考えですか。

「日本型だからいい」とか、「それで成功してきたからいい」というつもりは全くありません。それでは思考停止です。私の本(『働く。なぜ?』講談社現代新書)にも書きましたが、企業の人事には、高度化する産業社会の要請に応える「義務」と、高賃金国・日本にありながらも雇用維持に努める「使命」があります。つまり、良し悪しの判断はそこにより所を求めるべきだということです。言い換えると、次の時代にとっていいシステムであれば残せばいいし、悪いものであれば、今は良くても捨てなければならない、ということです。ただ、いずれにしても、判断にあたっては、事実と歴史と原論をおさえる必要があります。

新日鉄住金ソリューションズ株式会社 中澤二朗さん Photo

日本型雇用が採用から退職までを丸ごと包含したパッケージであれば、つまみ食いをすることは許されません。修正をする際は、部分最適ではなく全体最適を行う必要があります。つまり、あそこがいい、ここが悪いという批判ではなく、どうしたらいいのか、全体を見渡した上での代案が必ずいるということです。あらためて言うと、まずはあるべき未来像を描く。その未来像に照らして良いものであれば続け、悪いものであれば捨てる。逆に、いま良くないものでも、未来にとっていいものであれば敢然と使う。人間は、鳥や動物と違って未来を想像できます。そしてその未来から現在を想像できるがゆえに、自らの未来を変えることができる、と言われています。古いから悪い、新しいから良いという無邪気な判断はほどほどにして、未来にとってどんな仕組みがいいのか、前向きな議論をしたいものです。

個人の働き方や人材像などに関する議論も、そうした基本的な問いがあって、初めて成立するわけですね。

まず、問いありき。まったくそうだと思います。議論をする前に、私はよく相手に「この国の何割くらいが人に使われて働いているか」と質問します。厳密に言えば、就業者に占める雇用労働者の比率です。就業者は約6300万人で、そのうち雇用者は5600万人程度ですから、その比率はほぼ9割です。終戦直後の1947年は6割強でしたから、大変な変わりようです。では、これは何を意味しているかというと、もはやこの国で生きていこうとすれば、人に使われて働く以外の道はほとんど残っていないということです。言い換えれば、企業や企業以外の組織に何らかの形で寄りかからなければ、この国では暮らしていけないということです。

それにもかかわらず、仕事嫌い・企業嫌いがまん延したらどうなるでしょう。ある学者は、戦後から日本ではずっと、勤労否定の風潮がはびこっていると言います。それでも何とかなった時代はいいのですが、中卒・高卒・大卒の新入社員が入社後3年以内に離職する率は、依然として“7割・5割・3割”であり、事態は思いのほか深刻です。電機連合傘下の技術者に限った話ですが、94年と05年を比較すると、「仕事・企業への思い」が急速に冷めているとの調査結果もあります。グローバル競争が激しさを増し、市場からの要請が強まっているにもかかわらず、働く人たちが後ろ向きであれば、生き残るどころの話ではないでしょう。

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