サッポログループマネジメント株式会社:
人事部門が主導し、グループ横断で取り組む
「マイナンバー制度」対応プロジェクトとは
グループ人事総務部 人事グループリーダー
城戸 寿弘さん
今後のポイントは「周知・教育」をどう進めていくか
実際の運用開始までにはどのような課題が残っていますか。
「規程の整備」とその「周知・教育」が重要になってくると考えています。規程については、もともとグループで運用している個人情報保護規程があります。新たにマイナンバー制度のための特定個人情報保護規程のようなものをつくることは考えていません。利用細則という形でマイナンバー制度に対応できるようにひもづけしていく予定です。業務フローが整った段階で、グループリスクマネジメント部で標準となる形を作成し、グループ各社の実情に合うようにカスタマイズしていきます。この作業は10月頃からスタートし年内までには終えたいと思っています。
それよりも早く手をつけないといけないのが「教育」でしょう。制度がよく認知されていない中で、10月にはもう番号の個人通知が始まります。知らないと通知を捨ててしまったり、どこかに置いてわからなくなったりということも十分ありえます。正社員だけでなくパート・アルバイトにも「こういうものが10月に届くので、来年1月に必要になるからちゃんと保管しておいて」ということを周知しなくてはなりません。また、通知は住民票のある住所に送られ、転送されません。転居予定の人や単身赴任者、親元に住民票を残しているアルバイトの学生などには、そういったことも注意事項として伝えていく必要があります。
同時にマイナンバーを悪用されないような対策も不可欠です。「絶対に変な話にのらないで」ということですね。すでに「マイナンバー占い」といった形で番号を盗み出すようなネット上の動きもあると聞いています。また、個人カードを作成するとそれが身分証明書としても使えるのですが、うっかり番号が記載された面をコピーされてしまうと、それも番号流出につながります。
こうした周知・教育関連のマニュアルはすでに出来上がっていますが、きちんと理解してもらうためには時間をとって研修などを行う必要があるでしょう。予算との兼ね合いですが、地方拠点などを中心に教育研修の専門企業などにアウトソーシングする選択肢はあると考えています。
マイナンバー対策全体でどの程度の費用を考えておけばいいのかも非常に気になるところですが、貴社のケースではいかがでしょうか。
弊社のIT部門の責任者が、以前講演した際に「数億円はかかるのではないか」と話していたことがあるようですが、実際にはそこまではかかりませんでした。先ほども述べましたように、システム関連の費用が、すでに導入を進めているERPを活用することで、かなり低く抑えられたのが大きいかと思います。また、プロジェクトも当初は専従職員を置かないと難しいだろうという見通しもあったのですが、結果的には本業と同時並行でなんとかこなせました。
安全管理措置については、どこまで行うかで費用は大きく変わってきます。たとえば国のガイドラインでは、番号の取扱区域を決めるといった例示もあります。つまり、専用ルームをつくって監視カメラを設置するといったことですが、そこまで行うと相当な費用を見込まなくてはなりません。弊社でもいろいろ議論しましたが、最終的には各社については必須とはしないことになりました。要は業務フローなどで安全が十分担保されていればよいという考え方です。
現在検討中なのは、番号を取り扱う担当者の生体認証の導入です。これも費用との兼ね合いになりますが、一般的なパスワードを使うよりはメンテナンスが楽ですし、セキュリティーもより高度に保てるというメリットがあります。事務担当者が頻繁に交替するような場合には有効になると思っています。
これからマイナンバー対応を本格化したいという企業が注意すべき点などがありましたらお教えください。
弊社もそうでしたが、まず「自社への影響度」をしっかり調べることですね。マイナンバーに関連する帳票がどのくらいあるのか、その洗い出しができれば具体的な対応方法も見えてきます。制度をわかりやすく解説した書籍も多数出版されているので、そういったものを参照するのも一つの方法ですが、制度スタートまでに対応を完了させたいとお考えなら、時間はそう残されてはいません。スピードアップするために外部の専門家に相談するのは効果的な方法だと思います。
ただ、それほど規模が大きくなく、入退社する人の数も多くない企業であれば、最も遅いケースで源泉徴収票を提出する2017年1月までに対応すればよいという考え方もできます。新入社員の雇用保険関係などはその都度必要になりますが、それぞれの企業の規模や状況に応じて徐々に対応を進めていくというやり方もあると思いますね。
もう一つ大切なのは、トップ(経営層)が「コストはかかるがどうしても必要なことだ」と十分理解していることです。実務のリーダーシップをとるのは、人事給与系の業務を扱う部署、ITシステム部、あるいは経理やそれらを統括している経営戦略的な部門などいろいろ考えられますが、やはり経営の支援がないとうまくいきません。弊社の場合は、サッポロホールディングス、サッポログループマネジメントの両トップが、「グループ全体で対応していく」という方針をしっかり打ち出してくれたので非常にスムーズでした。もちろん、プロジェクト側からも定期的に進捗報告をし、その時々での課題などを常に理解してもらったのも良かったと思っています。