“できる力”をとことん引き出す――
エフピコが目指す障がい者の
「真の戦力化」とは
やればできる! 売上の4割を稼ぐ驚異のマンパワー
使用済み容器を回収し再生トレーを生産する「トレーtoトレー」方式のリサイクル事業は御社独自のビジネスモデルであり、経営面・環境面で大きな強みとなっています。そのシステムの中で、障がい者の皆さんをどのように戦力化されているのですか。
永尾:スーパーなどから回収される容器類は種々雑多。白無地のものもあれば色柄のものもあり、中には汚れのこびりついた容器や缶詰のフタなど、リサイクルに回せない不適品も含まれています。それらは混ざったままではただのゴミ、分けないと資源になりません。選別はシステムの心臓部ともいえる工程なんです。当初は機械を入れて完全自動化を目指したのですが、トレーが重なっていると、機械ではどうしてもうまく分けられない。精度が低いんですね。機械化を断念し、やはり人の手で分けるしかないとなった時、障がいのある人たちの力を借りてみたら、彼らの特性がこの作業にピタリとはまったわけです。それで一気にリサイクル事業を拡大することができました。
藤井:彼らは、集中力がとても高くて、長続きするんです。ベルトコンベヤーで次々と流れてくる膨大な量のトレーを瞬時に識別し、白なら白、色柄ものなら色柄ものと正確に分けていく。私なら5分もたたずに目が回ってしまいますが、彼らは飽きたり気を緩めたりせずに、黙々と作業を続けられるので、本当にすごいと思います。
且田:再生トレーは現在、弊社の汎用トレー売り上げの約4割を占めています。障がいのある社員の能力がなければ、そこまでの利益は生まれないわけですから、大変な戦力といえます。製造部門でも、ラインはほぼ完全自動化されていますが、1台数千万円もするハイテクマシンから出てくる製品を最終的に検品するのは、知的障がいのある社員です。健常者の社員がさらにチェックしたりはしません。そのままお客様のもとへ届くわけです。
通常なら、企業は「品質が心配だ」と二の足を踏むでしょう。でも、健常者だけで操業している他の工場と比較しても、クレーム率、事故率の数字は変わりません。むしろ障がい者の多い工場のほうがクレームは少ないくらいです。
多くの企業は戦力化どころか、法定雇用率の達成も難しく、なかなか御社のようには進みません。障がいのある人たちが、なぜそこまで活躍できるのでしょうか。
且田:活躍できると信じて、仕事を任せるからです。活躍できないのは、できないと周りが勝手に思い込んで、障がい者の能力をきちんと引き出していないからだと思います。本業の仕事を任せず、例えば書類をシュレッダーにかける、納品書にスタンプを押す、社内で郵便物を配って回るなど、特例子会社でもそういった作業しか与えていないところが多いのではないでしょうか。
私たちの会社では、多少時間がかかってもいいから、本業の仕事を頑張ってもらう。それだけです。仕事ができるようになると、会社が自分の生活基盤のほぼすべてになって、彼らは会社がどんどん好きになっていく。そこには自分の大切な仕事があるし、仲間もいるので「辞めよう」「休もう」なんて思わない。エフピコが大好きだからますます仕事に打ち込んで、スキルも上がっていくわけです。
回収した容器を種類ごとに手作業で選別する
藤井:一見単純な彼らの作業の中には、実は彼ら自身が工夫して編み出したノウハウがたくさん詰まっています。例えば選別では、自分の手もとだけを見ていると目が回るから、ベルトコンベヤーを1メートルぐらい前から見て、流れをつかみながら作業すると目が回らないなどの工夫をしていますね。しかもそうしたノウハウを、進んで他の社員にも教えています。職場にちゃんと自分の役割があるというのが、やはり大きいんでしょうね。本業のど真ん中なのでやりがいがあるし、誇りも生まれる。弊社の社員はスーパーやコンビニに行くと、必ず容器の裏のエフピコマークを確認していますよ。「私の作った容器がありました」と、よく報告してくれます。
永尾:職場に障がいのある人がたくさんいて、大切な役割を任されているということは、他の健常者の社員からすると、障がい者の社員が働いてくれないと仕事全体が回っていかないという状況なんですね。「障がい者だからできなくても仕方ない」と、簡単に諦めている場合ではないんです。できないならできるように、チーム全体で工夫して助け合う。そういう職場環境が自然と生まれてくるメリットも大きいと思いますね。
障がい者雇用を通じて、職場全体のチーム力が向上するわけですね。
且田:以前、障がい者福祉の現場にいた経験から言えば、彼らは、自分たちを“要支援者”だとは思っていません。むしろ自分たちも人の役に立ちたい、誰かのために頑張りたいと思っています。それを健常者が「支援しなきゃいけない」「手助けしなきゃいけない」と、上から目線で見ているから“要支援者”になってしまう。必要以上にサポートしなくてもいいのです。
では何をすればいいか。それは、いま目の前にある仕事を一生懸命頑張ることこそが、彼ら自身が望む、人の役に立つことであり、家族や仲間や会社、ひいては世の中の役に立つことにつながるのだと、彼らに説き続けて“働く意義”を教育することです。そこが分かってくると、自分の仕事へのプライドや責任感が出てくる。なかなか会社を休まなくなるし、休まざるを得ないときでも「私が休んだら迷惑がかかる、会社がつぶれてしまう」と、泣きながら電話をかけてきたりします。知的障がい者が周囲を気遣えるようになるのは、たいへんな成長ですし、彼らをとりまく健常者にも影響は大きい。先ほど仰った、チーム力の源になるんです。